1999年度(第35回)水工学に関する夏期研修会
Bコースについて
海岸工学委員会が担当する上記の催しが7月28〜30日に北九州市で開催されることは、既にご存知のことと思います。原稿がようやく完成し、下記のような 前書き(抜粋)と目次ができたのにあわせて、再度の案内と参加者募集のお願いです。なお、参加申し込み者は、7月7日現在で、一般96名、学生17名の合計113名です。学生の参加者の少なさが気になります。下記の内容からして、大学院生にとっても魅力的なプログラムになっていると思います。定員(150名程度で少々の超過は可)までまだかなりの余裕があり、是非の申込を待っています。
追記)講義集のみ申込の場合も、行事としての都合上、研修会終了日(7月30日)までにお願いします。
事務局 礒崎ひろ子(土木学会)
tel 03-3355-3559
mail isozaki@civil.or.jp
Bコース 世話役 水口 優
滝川 清
「前書き」からの抜粋
まず、「波の基礎理論」(磯部雅彦)においては、本当の基礎である完全流体の力学から出発して有限振幅波理論まで、摂動法を鍵として式と解とそれをつなぐ話の論理的な展開の面白さ(?)が味わえる。波動理論全体が見通しよくコンパクトに、それでいてさほど難しくなくまとまっている。
ついで、「波動方程式−理論と数値シミュレーション-」(灘岡和夫)は、最近ようやく一段落したように見える波動方程式ラッシュの時代の総まとめ的な解説である。各波動方程式の導出時の動機と手法に主眼を置いた話は「時代を担った1人」ならではのものである。紙数の制約か時間の制限か、数値的な扱い方の話にまで至っていないのが残念である。
以上の2つが伝統的な意味での波動問題であり、その歴史的な背景についてお話風にあつかったものが「波動問題の歴史的変遷」(合田良実)である。いつまでも読み継がれるものと期待したい内容になっています。ただし、単なるお話では終わらずに、これからを背負う人たちへの注文もちゃんとついています。
以下の6編は海岸工学への応用を考えたものである。そのうちはじめの3編は、沖で発生した波が浅水変形し、陸に達するまでの話である。「海洋波の統計的性質とスペクトル」(橋本典明)は海岸工学においてはいわゆる入射波となる深海での波の特徴をスペクトル(を取り巻く数学)を道具として用いることによりどこまで記述できるかを示すものである。スペクトル(とFourier-Stieltjes積分?)にかける熱い想いを受けとめてもらいたい。
続く「風波の浅水・砕波変形」(間瀬 肇)は、より海岸工学的なテーマである(入射波が与えられた時の)浅海域での波の変形の予測の話である。実用上最も問題となる(難しい?)砕波変形の取り扱い方を中心に基本的なアイデアから最先端の手法までが、模式図、一覧表を用いながら手際よくまとめられている。
さらに浅い領域での話が、「波打ち帯(個人的には遡上域の方が好み)における波動場について」(浅野敏之)である。沖からやってきた波の最終到達地点は、固体と液体と気体の3相が接する複雑で興味がつきないところである。理論的な扱いがどこまで可能かという観点からまとめられている。
残りの3編は、ちょっと切り口が変わって、現在関心の高い分野の個別的な問題を取り上げている。「平面構造物と波動場」(喜岡 渉)は構造物が存在する場合の平面的な波の場の計算法を、弱非線形、弱分散性の Bousinesq 系の方程式を中心に据えて、数値計算における課題について詳しく解説している。さながらどんな複雑な波の場でも実現できる数値平面水槽を作成せんとするようである。
「港湾内の長周期水面変動と係留船舶動揺」(吉田明徳)は、これまた(我が国で)最近盛んに研究されている長周期波の話を、港湾内での挙動(+船舶動揺)の解析手法に話の重点を置きつつ、線形、非線形解析の両者にわたり幅広く紹介している。残
念ながら、長周期変動の制御は可能かという問いには rather difficult but not impossibleという哲学的な答えが与えられているが。最後を飾るのは、「津波の線形、非線形および波数分散現象」(後藤智明)である。やはり、日本の海岸工学は津波の話無しには終われません。津波の理論的な扱い方を、理論展開(と数値計算モデル)上の特性(仮定?)と津波現象の種々の特徴を対比させる形でまとめたもので、これを読めば津波計算の専門家になれそうである。
第35回(1999年度)水工学に関する夏期研修会 Bコース - 目次 -総合題目: 海岸工学における「波動問題」
第1編 波の基礎理論 (B-1-1〜22) 磯部 雅彦
1.はじめに
2.基礎方程式と境界条件
(1)流速を使った表示
a)基礎方程式
b)境界条件
(2)速度ポテンシャルを使った表示
a)基礎方程式
b)境界条件
(3)基礎方程式および境界条件の無次元化とスケーリング
3.微小振幅波理論
(1)線形化された基礎方程式
(2)微小振幅波理論の解
(3)微小振幅波理論の解のまとめ
4.ストークス波理論
(1)基礎方程式と境界条件
(2)非線形境界条件の展開
(3)第1次近似解
(4)2次の非線形項の計算
(5)第2次近似解
(6)2次干渉による長周期波
(7)ストークス波の第2次近似解
5.クノイド波理論
(1)基礎方程式と境界条件
(2)非線形境界条件の展開
(3)μ−2 オーダーの方程式の解
(4)μ0 オーダーの方程式の解
(5)μ2 オーダーの方程式の解
(6)ブシネスク方程式
(7)クノイド波第1近似解
6.保存波の数値解法
7.有限振幅波理論の適用範囲
(1)ストークス波理論の理論的適用範囲
(2)クノイド波理論の理論的適用範囲
(3)各理論の適用範囲
8.有限振幅性を表すパラメター
(1)波形の非対称性に着目したパラメター
(2)限界波に対する相対的有限振幅性を表すパラメター
9.波に伴う平均量
(1)波に伴う平均量の定義
(2)微小振幅波に伴う平均量
(3)波に伴う平均量の相互関係式
参考文献第2編 波動方程式 - 理論と数値シミュレーション - (B-2-1〜19) 灘岡 和夫
1.はじめに
2.線形波動方程式
2.1 緩勾配方程式と数値波動解析法
2.2 非定常緩勾配方程式
2.3 波動方程式の分散性
2.4 水深積分法の観点から見た波動方程式の導出過程
2.5 水深積分法による分散性波動方程式の導出
2.6 多成分連成法による広帯域分散性波動方程式
3.非線形波動方程式
3.1 Boussinesq 方程式
1) Madsen et al.(1991)による修正Boussinesq 方程式
2) Nwogu(1993)による修正Boussinesq 方程式
3) Beji & Nadaoka(1996)による修正Boussinesq 方程式
3.2 多成分連成法による非線形波動方程式
1) 非線形広帯域波動方程式
2) 非線形狭帯域波動方程式
3) 非線形非定常緩勾配方程式
4) 多成分連成法に基づくその他の波動方程式
4.おわりに
参考文献第3編 「波動問題」の歴史的変遷 (B-3-1〜14) 合田 良実
1.はじめに
2.波動理論の揺籃期
(1)水面波の波速
(2)トロコイド波の理論
(3)速度ポテンシャルに基づく波浪理論
3.変形する波と定常波形の波
4.極限波高へのアプローチ
5.構造物に働く波力の諸問題
6.水理模型実験のための造波理論
7.海岸工学の誕生と波浪変形計算の導入
8.海底石油生産プロジェクトによる波動理論の進展
9.波浪変形の数値解析法の発展
10.不規則波浪理論の発展
11.むすび
参考文献第4編 海洋波の統計的性質とスペクトル (B-4-1〜20) 橋本 典明
1.はじめに
2.不規則波の表現とスペクトル
(1)不規則波の表現
(2)周波数スペクトルの定義
(3)クロススペクトルの定義
(4)不規則波動量の相互関係
(5)水圧変動から水面変動への変換
(6)方向スペクトルの定義
(7)方向スペクトルの推定
3.波浪のスペクトルの標準形とパラメータ
(1)周波数スペクトルの標準形
(2)周波数スペクトルのモーメントを用いたパラメータの定義
(3)方向関数
(4)方向スペクトルのモーメントを用いたパラメータの定義
(5)方向スペクトルと海洋波の波峰パターン
4.海洋波の多次元のスペクトルと高次のスペクトル
(1)Fourier-Stieltjes積分による不規則波の表現
(2)波数・角周波数スペクトルと方向スペクトルの定義
(3)バイスペクトルの定義
(4)弱非線形な海洋波の周波数スペクトルとバイスペクトル
(5)弱非線形な海洋波の方向スペクトル
5.方向スペクトルに基づく波浪推算モデル
6.おわりに
参考文献第5編 風波の浅水・砕波変形 (B-5-1〜21) 間瀬 肇
1.はじめに
2.砕波および砕波減衰
2.1 砕波形式
2.2 砕波限界
2.3 砕波減衰
3.風波の浅水・砕波変形
3.1 規則波との相違
3.2 不規則波の取扱法
3.3 浅水・砕波変形計算モデルの分類
4.単純化・簡略化した浅水・砕波変形モデル
4.1 パラメータ法
4.2 確率法
4.3 波高分布修正法
4.4 その他のモデル
5.理論・数値計算に基づく浅水・砕波変形モデル
5.1 時間領域モデル
5.2 周波数領域モデル
6.おわりに
参考文献第6編 波打ち帯における波動場について (B-6-1〜17) 浅野 敏之
1.はじめに
2.波打ち帯の波動理論
(1)一様勾配斜面上の線形重複波理論(Lamb;1932)
(2)一様勾配斜面上の非線形重複波理論(Mei;1983,仲山・水口;1994)
3.砕波後の遡上波
(1)遡上波に関する実験的な知見
(2)数値解析による研究 − 特に波先端の取り扱いについて
4.平面2次元波打ち帯の波動理論
5.波打ち帯における水粒子速度の特性
6.波打ち帯の流れ場に与える砂浜地盤の浸透・滲出の効果
7.まとめ
参考文献第7編 平面構造物と波動場 (B-7-1〜20) 喜岡 渉
1.はじめに
2.モデル方程式の分類
3.回折波の計算例
4.境界の取扱い
(1)無反射境界
(2)造波境界
(3)構造物境界
5.その他の変形要素
(1)砕波と波打ち帯
(2)流れ
(3)透水層
6.モデル方程式の適用性
(1)分散性
(2)非線形性
(3)回折波の再現性
7.おわりに
参考文献第8編 港湾内の長周期水面振動と係留船舶動揺 (B-8-1〜20) 吉田 明徳
1.まえがき
2.水面振動を引き起こす長周期波
3.港湾内長周期水面振動の解析法
3.1 線形問題
3.1.1 Leeの方法
3.1.2 Olsen・Hwangの方法
3.1.3 Mattioliの方法
3.1.4 沖合防波堤の取り扱い
3.1.5 その他
3.2 非線形問題
3.2.1 Stokes波としての解析
3.2.2 ブシネスク方程式による解析
4.係留船舶動揺と水面振動モード
5.長周期水面振動は制御可能か?
6.あとがき
参考文献第9編 津波の線形、非線形および波数分散現象 (B-9-1〜20) 後藤 智明
1.はじめに
2.長波理論式
2.1 線形長波理論式とその基本的な解
2.2 摂動展開による非線形長波理論式および非線形分散波理論式の誘導
(1)基礎式の無次元化
(2)Ur=O(1)に関する摂動展開
(3)Ur>O(1)の場合の摂動展開
2.3 非線形分散波理論と等価な1階の波動方程式
3.線形長波理論で記述できる津波の諸現象
3.1 津波の伝播と変形の概要
3.2 津波の浅水変形
3.3 港湾における津波の共振
3.3 島による津波の捕捉
3.4 その他の線形長波理論式を利用した解析解
4.非線形または分散波理論で考察する必要がある現象
(1)津波の非線形効果
(2)津波の波数分散効果
(3)津波のソリトン分裂
5.最新の津波数値計算モデル
(1)非線形分散波理論による平面2次元津波計算
(2)乱流モデルを利用した2-D・3-Dハイブリッド津波計算
6.おわりに
引用文献あとがき 滝川 清