土木学会映画コンクール審査委員会

第23回映画コンクール最優秀賞

「パッテンライ!!〜南の島の水ものがたり〜」

企画:緒方英樹 監督:石黒 昇
制作:「パッテンライ!!南の島の水ものがたり」制作委員会,虫プロダクション



 

  
 台湾・嘉南の大地を一大穀倉地帯によみがえらせ、現地の人々から今なお深く敬愛されている日本人土木技師八田與一。この作品は八田與一が台湾総督府内務局土木課在職中に責任者として携わった当時アジア一といわれた烏山頭ダムと延長24,000kmにおよぶ灌漑用水路の大規模土木事業(水利設備全体が嘉南大しゅう(土偏に川)と呼ばれている。)を舞台に、台湾人少年「エイテツ」が八田與一の土木事業にかける情熱に憧れ、自ら土木技師となって嘉南大しゅうの完成を迎えるまでの物語をアニメーションで綴っている。

 登場する少年少女を取り巻く複雑な社会情勢、内地(日本)と本島(台湾)あるいは沖縄といった政治的な背景がもたらす影の部分や、今日の糧を得るために必死に働く親の姿に共感と反発を覚える少年とそれをわかりつつも目の前の現実を直視しろと叱る父親、あるいは夢を持って生きろと勧める祖父の存在感など、家族・世代間の葛藤を織り込みながら、大規模土木事業を通して、子供達が抱く夢と憧れをかなえていくというロマン溢れる内容であり、感動的なシーンも数多く散りばめられている。

また土木事業の意義・必要性、情熱溢れる土木技師の姿を世に広く知ってもらいたいとの強い訴えかけが底流に流れており、土木に対する共感を呼び起こす、最優秀に相応しい作品であった。

子供達の数多い夢のひとつに是非とも土木技師が加えられればと願いたい。


【関連サイト】土木学会社会コミュニケーション委員会HP
       土木学会土木技術映像委員会HP 
       虫プロダクション「パッテンライ!!公式HP」
       創風社出版『台湾を愛した日本人』サイト 


第23回映画コンクール 部門賞(一般部門)

「余部鉄橋の記憶」

企画・監修:兵庫県香美町 制作:(株)キャメル



    

 一般部門賞は、土木事業及び土木技術を一般市民をはじめ広く社会に紹介し、それらに対する関心を高め、理解を深める作品を顕彰するものである。

「余部鉄橋」は1912年(明治45年)に山陰線の小さな村に完成した当時東洋一を誇る大鉄橋であるが、列車転落事故を契機に運行の安全性・定時性を確保するため新橋への架け替えが決定され、現在急ピッチで工事が進められている。
 この作品はおよそ100年もの間日本海の厳しい風雪に耐え、多くの人たちに支えられてきた鉄橋の歴史を主軸に、そこに展開された人間ドラマや四季折々の美しい映像を織り交ぜながら、余部鉄橋の有終の美を貴重な土木遺産として記録・表現した作品である。

 明治後期から大正にかけて行われたルート選定や基礎・橋脚の建設、またその後の錆との絶え間ない闘いとそれを支える橋守の存在、地元の悲願であった餘部駅誕生の経緯などを、当時の設計技師のプロフィールや現場のエピソード、工事記録写真や図面・報告書、新聞記事などで再現するとともに、新駅誕生のニュース映画など地元の方々の当時の映像も取り込んで、ていねいに表現しており、一見淡々とした描写の中に歴史の重みとそれに関わった人々の思いが伝わってくる。

 また撮影技術などの工夫により、単なる技術記録映像ではなく日本の重要な近代化遺産を一般にもわかりやすく紹介した作品に仕上がっている。ぜひ多くの一般の方々、そして学童、生徒さんたちにも見てもらいたい作品である。

第23回映画コンクール 部門賞(技術映像部門)

「首都高速道路を守れ―疲労き裂対策3000日の軌跡―」

企画:(財)首都高速道路技術センター 制作:NHKエンタープライズ




 技術映像部門は、土木事業及び土木技術について、映像を通して高度な専門性を継承し、あるいは専門技術を分かり易く紹介する作品を顕彰するものである。

 本作品は、総延長283km(2005年現在)の首都高速道路の鋼製橋脚において平成9年に500基を超える多数のき裂が発見されてから8年間に渡って行われた金属疲労き裂に対する補修・補強対策を克明に記録した技術映像である。

 詳細な調査・試験の結果、き裂は鋼材そのものではなく溶接部分に発生しており、溶接の不完全な溶け込みが原因であることが分かった。また1962年の開通以来、交通量の増大から長年にわたり過酷な使われ方がされてきており、き裂発生に拍車をかけてきた。単純な構造から始まった道路建設も首都圏の過密化、交通量の増大、在来道路や地下構造物との取り合いなどから、その構造は複雑化の一途という状況となっているが、本作品はそれら複雑な構造に対応したき裂の調査・試験から補修・補強対策に至るまでのプロセスを余すところなく紹介しており、世界でも例を見ない貴重な記録映像といえる。

 社会資本である土木構造物は維持・補修の時代に入っており、問題事例を積極的に公開した本作品は今後の補修記録映像に範を示すとともに、通常は関係者以外足を踏み入れられない現場に直接カメラを持ち込んでの実写、また高度な技術を分かりやすく説明するためのCGの駆使やナレーションの工夫などの表現により、土木技術者・道路管理者のみならず一般の方々にも、補修対策の必要性・重要性を理解しやすく伝える技術映像として、時宜を得た優れた作品である。


(C) Copyright 2009 Japan Society of Civil Engineers, All Right Reserved.