全国大会をどう改善するか?
―肥大化の構図と変革への展望−
How Can We Restructure the JSCE Annual Meeting?
- はじめに
- 活動内容を問い直そう
- 改善の余地が多い運営方法
- 会費収入から全国大会へ補助すべきか?
- あとがき
はじめに
活動内容を問い直そう
全国大会のアイデンティティとは何なのか?
全国大会(1937年スタート)は,かつては学会の唯一の研究発表会として機能してきた.しかし,諸分野の充実とともに各研究委員会主催の研究発表会や支部大会などが整備された今日では,全国大会に「年に一度の祭典」としての価値を見出す意見も多い反面,全国大会の存在意義(特に研究上の意義)について懐疑的な声があることも事実である.こうした中では,全国大会自身が明確なアイデンティティを確立し,そのねらいを明確にアピールしていくことが必要である.前述の諸研究発表会などの整備環境や,全国大会が7つの研究部門が全国的に一堂に会する唯一の機会であること(全国大会の大きな特長である),実務者が学会員3万7000名の半数を担っていること,及び他のイベントに比較すると全国大会の会員参加率が際立って高いこと(20%:96年度全国大会実績),などを考慮すると,全国大会の活動方針としては,今後主として汎部門性,汎地域性,軽便性,速報性,社会性,実務性などを希求していくべきであると考える.
講演会など主要アクティビティーをどうするか?
現在のところ,年次学術講演会,特別講演会,研究討論会の三つが全国大会の中核を占めるべき主要アクティビティとして,他の諸行事は開催支部の企画する付随的な諸行事としてそれぞれ位置づけられている.前述のような今後の全国大会の方向性を踏まえると,これらの主要アクティビティについては,まず第一に,学術講演会の共通セッションや研究討論会など,汎部門性を発揮しやすい活動に重点を置いて計画していくことが重要である.そのためには,共通セッションや研究討論会に優先的に時間を配分したり,従来のテーマ募集方式(各委員会宛て募集)とあわせて,社会性・共通性に富んだテーマを一般会員の声を吸収しつつ学会本部(行事企画委員会・全国大会小委員会)が主体的に設定し,これらへの投稿や参加をより強くアピールしていくことも必要である.また,実務性の発揮のためには,実務者からの発表をさらに奨励するとともに,現在のところ大学人を中心に配置されている講演会のセッションの座長に実務界の人材をより多く活用していくことも必要である(表-1).
もっとすばやく,もっと軽便に!
投稿から発表まで半年もかかっている現状は,発表の軽便性を考慮すると,速報性に大いに欠けると言わざるを得ない.また,発表件数の増加に伴う概要集の重量化・大型化に対しても参加者の不満の声は少なくない.従来も分冊化などが行われてはきたが,今後中長期的には,発表別刷りの会場持ち込み配布方式によるリードタイムの大幅削減,CD-ROMによるペーパーレス化,あるいは大会後に予約制で概要集を印刷する方式など,大胆な方式転換を図る方向で検討を進めることが必要である.また,既存アクティビティーの改善と見直しに加えて,学生会員の企画に委ねた集団ディベートや留学生討論会などといった新規企画の開発も積極的に検討していくべきである.
全国大会の規模は,限界に達している!
全国大会の規模は年々拡大し,現在のところ参加者数約7000名,講演数4000件,事業総額約1億円に及ぶ巨大なイベントとなっている.会場確保なども容易ではなく,もはやその規模は限界に達しているといえよう.会場や会期に制約されるとはいえ,年次学術講演会の講演の発表時間も1件あたり約7分に限られるなど,あまりの「詰め込み主義」に不満の声も多い.また,規模の拡大と裏腹に,発表内容の質と充実度の低下を指摘する意見もないではない.さらに,毎年の大会が各支部の持ち回りで運営されていることとも相まって,支部の企画として行われる映画会や見学会など諸行事が,その有効性が見直されることなく拡張されてきたことも否定できない.このような面から見て,今後は基本的には全国大会のいたずらな肥大化を極力抑制していく方向で検討を進めていくことが必要である(図-1).
学生論文発表を支部大会へシフトしては?
学術講演会の講演の相当数が学生の研究発表となっており,全国大会は学生に多くのプレゼンテーション機会を提供してきたといえる.このような機能も学会として充実させていくべきではあるが,全国大会の肥大化抑制という視点からすれば,今後はこのような学生へのプレゼンテーション機会の付与という機能を別途行われている支部大会へ,各支部の実情を勘案しつつ,シフトさせていくことも一案といえよう.このためには,全国大会サイドから,各大学に対して学生論文の支部大会へのシフトを呼びかけるとともに,支部大会の開催時期の調整(例えば,関西支部では学生論文の完成時期を踏まえて開催時期を5月としている),及び各支部大会のキャパシティや実施能力の検討なども必要である.また,学生会員が筆頭著者である発表論文については,支部大会発表において選抜された論文を全国大会発表(可能)論文とすることなど,支部大会とより有機的な連携を図る方式も検討に値しよう.なお,講演の事前審査や料金値上げなどによる量的抑制及び質的向上方策は,実際上適当ではないと考える(表-2).
改善の余地が多い運営方法
コストダウンと労力節減は緊急課題!
全国大会は,他の発表会や国際会議などと比べても極めて緻密で行き届いた運営がなされてきた.これはこれまでのノウハウの積み重ねとともに,担当支部会員の献身的で膨大な労力提供(時間費用)の上に成り立っていることを忘れてはならない.コスト面での肥大化も課題である.96年大会(中部)では,支部の努力の結果,5〜7%程度のコスト削減が達成された.しかし,大学等の低廉な会場を利用しているにもかかわらず,それでもなお決して安くはない金銭的コストがかかっていること(講演集関係費を除いても,参加者1名当たり一万円以上の運営コストがかかる)も事実である.しかし,全国大会の本来の目的は,いうまでもなく年次講演会などを中心とする,会員間の技術的なコミュニケーションにあるのだから,今後は,著しい不便をもたらすことのない範囲で,ある程度のサービス水準の低下を容認しつつ,運営コストと運営労力の大幅な節減を図ることが緊急の課題であると考える.例えば,各発表会場への配置要員の削減や会場デコレーションの簡素化など,できることは多いはずである.また,省力化推進のためには,各大会の運営原価や投入人員などを統括的に管理していくことも必要である(表-3参照).
諸行事を見直し,簡素化しよう!
全国大会の主要なアクティビティーである特別講演会,年次学術講演会,研究討論会などの学術的活動に対して,市民参加行事,見学会,映画会などの諸行事はあくまで補助的な活動である.これらの活動には少なからぬ労力と費用がかかっているにもかかわらず,参加者数は多いとはいえず(例えば,見学会の参加者数は全参加者数の1%程度に過ぎない),コストパフォーマンスは著しく低い.また,昨今の社会情勢の中で市民参加行事が重要であることは言うまでもないが,これを「土木の日」の行事と重複して全国大会で実施する必然性は乏しい.全国大会時にあわせて実施する場合でも,会計的には全国大会から切り離すことが必要である.
懇親会については,年に一度の全国大会において「懇親」そのものの意義は大きいが,実際は参加者数も全体の5%程度(参加費支払い者)と極めて少なく,また参加費による費用の回収率も非常に低い.大会参加者7000人という規模の行事において,「懇親会」の実質的な効果は見いだしにくいのが実状である.継続する場合でも,徹底した簡素化を図ることと受益者負担原則を徹底することが必須であろう.
全体的にいえば,全国大会の本来の目的に立ち戻り,これらの付随的活動を効率性の点から抜本的に見直し,状況に応じて廃止もしくは大幅な簡素化を進めることが必要である.
全国大会経理を本部に一本化
全国大会の経理は,従来,支部と本部に区分されて執行され,講演申込料収入と参加料金が支部収入へ,概要集販売収入が本部収入へというように,実際の本部と支部の作業分担と特段の関係なく配分されたり,また概要集販売収入の一部が交付金(500万円)として支部に移転されるなど,歴史的慣行ともいえる極めて便宜的な扱いがなされてきた.これらの輻輳した会計処理は,収支構造の把握を困難にし,関係者のコスト意識向上も阻害してきた.経理をより透明でわかりやすいものとするためには,97年の学会全体の会計方式の改善と時期を合わせて,全国大会経理を本部へ一本化することが必要である.これに伴って,全国大会の各年度の繰越金も当該支部に帰属させることなく一括して本部が管理し,全額を次年度の大会に繰り越すべきことはいうまでもない.
本部の責任を明確にし,組織を強化する
全国大会は学会最大の最重要行事であるにもかかわらず,年次学術講演会のプログラム編成や概要集の印刷などを除くと,従来,ほぼ全面的に担当支部の責任によって運営実施されてきた.しかしながら,今後,会計を本部に一本化していくのに合わせて,本部サイドとしても全国大会実施に関して,しかるべき組織的な強化を図り,学術・財務・運営など諸局面について,定常的に適正な管理とノウハウの蓄積を行うとともに,8年ごとの輪番制で経験の継承が難しい,支部の実行委員会との連携の強化と責任分担の明確化を図ることが必要である.そのためには,本部の既設の担当機関である全国大会小委員会の業務内容と責任・権限,とりわけ支部との関係を明確に規定することが緊急の課題である.また,担当支部の全国大会実行委員会の組織のありかたについても検討の余地は多い.
参加料金と概要集価格のアンバランス
全国大会運営費用の約80%は,直接受益者の負担による収入で維持されている.この直接受益者からの収入の内訳は,概要集料金及び講演申込料の概要集関連収入が約80%,参加料金収入が約20%を占め,全国大会は,概要集の販売収入に極めて多くを依存する構造となっている.しかし,概要集関係収入が本来カバーすべき概要集編集費や印刷費などの概要集関連経費は,経費総額の20%を占めるに過ぎず,概要集収入が,その直接的な費用を大幅に超えて,全国大会運営費の諸々をまかなっている構造となっている.結果的に概要集の価格(1冊6000円標準)は,原価の約2倍となり,複数冊購入者や学生参加者にとって割高感が極めて強い状況にある.今後は,参加料金に概要集一冊分の原価を含めて徴収し,二冊目以降は原価相当分(現行の約半額)で販売するなどの改善が必要であろう.いずれにしても,参加料金,講演申し込み料及び概要集料金の額については,賛助金や一般会計補助を含めて,抜本的な改正を行うことが必要であると考える.なお,学生会員の参加料金などの割引は,収支状況に応じて(すなわち一般会員の費用負担力に応じて)判断すべきことがらであり,また学生会員の学会会費が既に大幅に軽減されている現状に鑑みて,現時点では必要性に乏しいものと判断する.
賛助金は,原則廃止すべきではないか?
全国大会では,大会の規模の拡大や種々の行事の拡大に伴うコストの増加に対応するため,費用総額の20%程度に相当する費額(2000万円程度)が賛助金として企業などから支部の責任で集められ,全国大会収入に補填されてきた.そして,それと表裏一体に,全国大会の繰越金(余剰金:総額の約10%)の多くは,次年度の大会に繰り越されることなく,次回担当の全国大会のために当該支部に留保される仕組みがとられてきた.このような,全国大会を根拠とした支部による賛助金徴収の方式は,支部によってはその募集活動そのものが大きな負担になっていることのみならず,経理の健全性や受益者負担原則の点で問題なしとしない.今後は,経理の本部一本化に合わせて,可能な限り全国大会のための賛助金を廃止していくことが適当である.また,暫定的に賛助金を継続するにしても,募集・管理ともに本部で一括して取り扱うことが必要である.なお,97年の全国大会を担当する関東支部は今回の大会については賛助金を募らず,従来の支部の積立金と参加費の値上げ(一般会員について2000円から3000円へ改定)により対応する方針を打ち出している.
会費収入から全国大会へ補助すべきか?
全国大会は,現在まで学会の他の行事と同様に,会員の会費収入から切り離された独立採算の原則によって運営されてきた.しかし,全国大会は,すべての分野が一堂に参集する学会唯一の,なおかつ最大の行事である.他の種々のイベントや発表会とは自ずから性格が異なり,全国大会が学会全体の一体性を維持することに寄与している効果は少なくない.全国大会は,学会にとっていわゆる「価値財」であるといえよう.また,会員の参加率も他に比べて当然著しく高い(会員の約20%が参加).これらの点を考慮すると,全国大会の財政については,今後も基本的には独立採算を原則としつつも,全国大会総費用の総枠を決めた上で,その相当比率の額を一般会計(会費収入)から補助することが妥当であるといえよう.これには会員の理解も十分得られるものと考える.
あとがき