土木学会

土木技術研究推進機構創設検討委員会


土木学会技術推進機構に関する検討報告

平成10年3月2日

土木技術研究推進機構創設検討委員会

委 員 長  松 尾  稔


土木学会技術推進機構の基本的枠組み

1 機構の名称

 本機構は社団法人土木学会の中に置き,「土木学会技術推進機構(Organization for Promotion of Civil Engineering Technology, JSCE : 略称OPCET)」と称する.

2 機構設立の理念および目的

 技術開発にインセンティブを与え,わが国の技術者が活躍でき,かつ我が国の技術が国内外で活用される環境を整備することは,工学系学会の重要な役割である.この役割を果たすために,国際規格,技術者資格の国際的相互承認,などに適切に対応できる枠組みを構築することが緊要となっている.また,国際的に受け入れ可能な技術評価システムのあり方を検討する必要がある.

3 機構設立の国際的緊急性

 ISOに代表される国際規格については,建設分野については資材や機材のみならず,施工時の試験方法,品質や環境のマネジメントシステムの規格が制定され,WTOでは参加国に対し,ISO規格の順守を求めており,我が国は,この対応が緊急の課題となっている.

 技術者資格の国際的相互承認の動きを見ても,北米ではNAFTA加盟国における登録エンジニア業務の相互承認が1995年に調印され,米国,カナダ,メキシコの3国間で技術者免許が相互に認められている.ヨーロッパにおいては,1992年にFEANI加盟国内の技術者相互認証制度が発足し,またアジア太平洋地域においてもオーストラリアとニュージーランドが1996年に協定を結び,欧米との相互協定に進みつつある.さらに,APEC各国では,その枠組みの中でAPECエンジニアの資格制度化が進められようとしている.これらの動きに対して,我が国は適切かつ機敏に対応して行く必要がある.

 さらに,国際的に対応できるための,技術評価システムの構築が望まれている.また,2000年を目途に,我が国で第2回アジア土木技術国際会議の開催が予定されており,この開催準備を急がなければならない状況にある.

4 土木学会に機構を設立する理由

 こうした問題に対応できる機関としては産・官・学が協力でき,かつ中立性が高いという条件を満たさなければならない.

 このことから,土木界においては土木学会が対応機関として最もふさわしいと考えられるが,現行の土木学会の活動は,学術・技術の振興に関する企画,調査研究,各種行事を活動主体としており,上で述べたような諸課題について有効かつ組織的に対応できる体制が整えられていない.ところで,このような諸課題の解決は緊急性を要するとともに,専門的な対応が要求される.さらに,これらの諸課題は特定の技術者個人や団体の利益に深く関わる問題であり,全て一般会費によってまかなうべき性質のものではない.以上のことから,土木学会においてはこれらの各課題への対応を事業化し,事業収入を主体とした活動として展開することが望ましいと考えられる.

 本機構は,土木学会がこのような国内外の状況に対応するために,学会としての中立性を厳正に確保・保持しつつ,先ず,国際規格対応や技術者資格の国際的相互承認の支援などの社会的,国際的活動を行い,さらに将来に向けて技術評価システムなどのあり方を検討するために設立するものである.

5 機構の役割

 本機構は,従来土木学会が十分に果たし得なかった学会の対外戦略,事業コーディネーション,事業実施を主体とした業務,および国際的業務を担当する.

 具体的には,学会事業の執行,技術者資格の国際的相互承認,国際規格(ISO)対応,技術の評価,外部資金導入による特別研究プロジェクトなどを検討・推進・支援する.また,同時にこれらの内容に関する学会員への啓発,官庁および技術士会等との調整,WTOAPEC等への国際交渉のための代表派遣に対する支援を行う.さらには,アジア土木技術国際会議などの国際会議の運営,土木関連情報の国内外への提供等の役割を果たす.

6 組織

 学会内の位置づけとしては理事会と直結した組織とし,理事会の下部機構とする.その責任者として理事級の機構長を置き,これらの諸課題に適切かつ機動的に対応ができるよう機構長に運営上必要な権限を与える.

 学会内外および機構内の運営・連絡を円滑に行い,機構の運営に関する重要事項を審議するため,機構内に運営委員会を設置する.

 各事業業務を専門的に推進するために本機構内に部会を置くとともに,本機構の事務組織を土木学会内に置く.

7 運営資金

 本機構の運営資金としては,当面,学会会計からの経常的資金の繰り入れと事業収入,寄付,外部資金を以て充当する.

8 機構の発足

 国際的資格や規格は,国際的あるいは国内的枠組みが出来上がってから対応するのでは,手遅れとなる.すなわち,これらの枠組みに対する提案を予め行い,枠組みが出来上がった後には,それらに効果的に対応できるよう,十分な準備をしておく必要がある.

 このことから,土木学会技術推進機構は,平成10年6月に発足させる.正式発足は,理事会の議を経て,総会で決定する.

 その発足に際しては,その具体的内容について十分に検討を重ねる必要があると同時に,APEC等の技術者資格やISOなどについての,急速な国際的動きに機動的に対応していく必要がある.そこで,平成10年度の発足時には,上記5に示した役割の内,これら国際的業務から優先的に進めることとする.



土木学会技術推進機構の具体化策

1 業務内容

これまでの土木学会の活動を,「学術・技術の振興に関する企画,調査研究,行事を主体とした活動」と,「技術者資格やISO対応などの事業的色彩のある社会的,国際的活動」とに分類し,後者を本機構が担当する.

 主要な業務内容として,当面,a)国際規格(ISO等)対応,b)技術者資格の国際的相互承認の支援,c)土木工学全般に関わる国際会議の実施および代表者派遣,d)外部資金導入による特別研究プロジェクトの企画推進,e)国内外の土木関連情報の収集・発信,があり,今後の検討課題として,f)技術評価,がある.

) ISO対応

活動の具体的内容としては,当面,以下のようなものがある.

1)土木分野のISO活動の基本方針の検討

2)土木分野のISOに関する国内審議の連絡・調整および全体的立場からの意見提出

3)ISO規格に,わが国の規格を対応させるための活動.すなわち,土木関連分野のISOおよびCENに関する情報の収集,その一元的管理および提供

4)ISOで新たな規格審議委員会(TC)が設置される場合の,ISOにおける直接的な活動(すなわ

  ち,国内審議団体となる)

 注)ISOなどの国際規格に関する対応・評価・提案については,土木学会内にISO対応特別委員会が平成9年11月21日に設置され,上記活動を行っている.

b) 技術者資格の国際的相互承認の支援

1) 北米,欧州,アジア太平洋地域において技術者の相互承認制度に関する様々な動きのある中で,米国のPE(Professional Engineer),英国のCE(Chartered Engineer),APECエンジニア等を視野に入れつつ,わが国及びアジアの国益に合った新しい制度を,関係官庁や技術士会,日本工学会などに提案していく. 

2) 資格認定に関する支援機関としての役割を果たす.このために,社会人のリカレント教育,資格認定支援のための講習,教育・試験システムづくりを行う.また,職業のイメージアップ戦略などを含める.

3) 大学,高等専門学校,各種学校等の教育機関・課程の認定基準づくりに関して,認定団体(現在のところ,日本工学会を想定)の支援を行う.

注)土木学会では,国際的資格に関する検討特別委員会において,その現状認識および行動についての検討が行われており,平成9年度中に報告が出される.本機構は,その報告を受ける形で活動を開始することになる.なお,土木学会は,技術者資格の国際的相互承認や資格認定に直接携わる機関ではないので,そのための制度の整備に関する提案や,資格認定のための講習,リカレント教育などの実務的支援活動が主な活動形態となる.

c) 土木工学全般に関わる国際会議の実施,代表者派遣および組織作り

具体的活動内容としては,当面,以下のものがある.

1) 「アジア土木技術国際会議」などの土木工学全体に関わる国際会議の事務局を担当する.

2) WTO,APEC等への国際交渉のための代表者派遣に対する支援を行う.

将来的には,以下の活動も含める.

3) アジアの土木技術者等の国際的枠組み・組織作り.上記1),2)の活動をこの展開のための足がかりとする.

注)ASCE等,土木学会が協定を結んでいる海外の学協会との連絡調整業務は,協定内容が幅広く,事業だけにとどまらず学会全体に跨ったものとなる.したがって,この業務のうち事業に関するもののみを本機構の役割に含めるのがよいと考えられる.また,個々の専門領域分野に関わる国際会議の実施は,本機構では行わないものとする.

注)国際委員会との役割分担

  技術推進機構と国際委員会とは「国際戦略の構築」,「国際広報活動」の2点で連携をとる必要がある.「国際戦略の構築」の点では,国際委員会は,理事会のもと国際戦略の基本構想と,協定学協会との連携強化方策を検討する.その一環として,技術推進機構は,国際会議の具体的組織運営母体となる.「国際広報活動」については国際委員会は海外支部設立の構想を具体化し,そのもとで技術推進機構は,海外情報の収集,海外への最新技術情報提供の体制確立と実施を担当する.

d)外部資金導入による特別研究プロジェクト

具体的内容としては,以下のものがある.

1) 省庁,財団,企業等が提供する研究資金で,学会が受け入れ団体となることのできるものが増加しつつある.これらを利用して,土木工学の進歩に資する研究を推進するため,学会内での研究母体の組織化や学会外との調整等を含む研究経営事業を行う.

注)調査研究委員会との関係

    従来の調査研究委員会は,学術・技術体系がほぼ確立された領域に関する調査・研究・連絡調整がその活動の主体であり,かつ常置的である.それに対し,特別研究プロジェクトは,土木分野で取り組むべき新領域の開拓や横断的領域の研究推進を,外部資金を導入することにより推進しようとするものである.また,特定のテーマに関する委託的研究も,その対象となる.従って,目的が達成されれば,解散する時限的なものである.

e)情報の収集・発信

 近い将来,国内外の土木関連情報ネットワークの構築を行い,情報を収集し,発信源としての役割を担うための具体的内容の検討を早急に行う.

注)広報委員会との調整

 広報委員会は,平成9年度から国際広報誌を発行するが,後で述べる海外情報部会が将来発足すれば,この国際広報誌の発行を担当する.

f)技術評価

 技術評価については,既存の技術評価システムとの調整を十分図る必要がある.このことから,土木学会として出来るものは何かということについて,十分に検討する.そのため先ず,以下の活動を行う.

1) 技術評価についての学会内外の関連システムや仕組みを十分に洗い出し,国際建設市場での公平性,客観性の観点から,学会としての国際的に通用する適切な評価システムを検討する.

2) その結果を受けて,学会としてなし得る技術評価システムの構築を提案する.

2 組織

2.1 機構長

 機構長は,理事会が選出し,会長が任命する.その任期は,1期2年とし,再任を妨げない.ただし,最長3期までとする.

 機構長は,理事会に出席し活動報告を行う.また企画運営連絡会議にも出席し,活動報告を行うことで学会内における役割をお互いに認識し,連絡調整を行う.

 機構長は,理事会の承認を受けて機構の事業を推進する.また,機構の運営委員会の委員を勤め,部会の活動を支援するとともに,機構事務を統括する.

 

注)機構の運営をスムーズに進めるためには,その意思決定が迅速に行われることが肝要である.本機構が理事会のもとに置かれることは当然であるが,機構長の裁量権になるべく余裕を持たせることも大切である.

2.2 機構内組織 

 機構内には,いくつかの部会を設ける.当面,技術者資格部会,アジア土木技術国際会議運営部会,特別研究プロジェクト部会,等が挙げられる.

 学会内外および機構内の運営・連絡を円滑に行い,機構の運営に関する重要事項を審議するため,機構内に運営委員会を設置する.委員には,学会内から企画,国際,調査研究の各部門担当理事1名,専務理事,機構長および部会長が就任する.また,産,官,学の代表が,各2名委員として参画する.委員長は,上記3部門担当理事の互選による.

 発足後2年間の具体的予定は,以下のようである.

平成10年度: 機構長代行を置く

          技術者資格部会,アジア土木技術国際会議運営部会,特別

          研究プロジェクト部会を発足させる.

          (学会予算500万円程度)

          技術評価のあり方については,運営委員会で検討する.

平成11年度: 正式の機構長を任命

          海外情報部会の発足を予定する.

2.3 事務組織

 事務局の規模については,定常的な活動資金の確保と密接な関係を有しており,本機構は基本的に独立採算を目指すことから,立ち上がりは4名程度と思われる.将来的には,その活動の広がりとともに随時検討する.職員として,機構長の下に,正職員1名,派遣職員2人程度を考える.

注)職員については,海外との交渉能力,企画力を重視した人選とする.英語等の堪能な外国人留学生のPD(Post Doctoral)の登用も考える.ただし,当面の間,現在の事務局員の中から配置転換により構成する.

3 運営資金

3.1 経常的安定的収入の確保

土木学会技術推進機構の目的達成のため,運営委員会や部会が継続的で広範な活動を行うには安定した運営資金が必要である.そのため,一般会計から資金(約500万円/年)を充当する.また,情報提供,評価などを受ける会員を募集し,その会費を充てる.

 学会がすでに持っている基金的なものを活用したり,また,学会事業を再検討することにより,会費の一部を充当するなどの拡充策を検討する.

 

3.2 寄付

  正会員や特別会員からのボランタリー寄付(ASCEのCERF方式)を受ける.基金も,今後検討することが必要である.場合によっては,アジア土木技術国際会議のための募金に上積みすることも検討する.ただし,昨今の経済情勢から,安易な寄付依頼とならないよう,慎重な検討が必要である.

 平成11年度から,正会員にはボランタリー寄付(1,000円*33,000人*2/3=2,200万円),特別会員にも,会費の5%のボランタリー寄付(11,780万円*5%*2/3=393万円)を募る.よって,これらによる収入として,年間 2,593万円を見込む.

 事業が軌道にのり,事業収入が本格的に入るまでは,一般会計からの繰り入れとボランタリー寄付が主たる収入となるが,ボランタリー寄付による収入は比較的安定な収入であるので,基本的に職員の人件費に充当する.

注)約12万人の会員がいるASCEは,CERF(Civil Engineering Research Foundation)の運営のために,会員から年間約1億円のボランタリー寄付を受け,これによって約30名強のCERF職員の人件費をまかなっている.CERFは,国際マーケットの開拓,技術開発,技術評価などを担当しており,ASCEの国際戦略の主要部を担っている.因みに,ASCE正会員の年会費は140ドル,CERFのためのボランタリー寄付は20ドルであり,その他にEqual Opportunity Programなどへの寄付を20ドル求めている.つまり,ASCEは,正会員に対して会費の約28%のボランタリー寄付を求めている.

3.3 事業収入

  ISO対応のための関係業種からの資金拠出,講習会の参加費,審査料等によって充当する.将来的には,各種事業収入が機構収入の中心となる.発足後,3年以内に事業収入による運営を可能とするよう努力する.

3.4 外部資金

  特別研究プロジェクトのために,外部資金を獲得してこの活動を行う. 科研費等の外部資金の導入の一元化は,本機構設立の本来の目的の1つである.科学技術振興調整費や企業からの委託費などを中心とした,調査研究費の獲得をサポートするための情報収集も行うべきである.

注)化学,化学工学の分野では,横断的かつ戦略的な研究開発を行うために,化学工学会,高分子学会,日本化学会が中心となって「化学・化学技術戦略推進機構」を平成9年に設立させ,国や団体,企業からの資金導入を図っている.この機構には,学協会,産業界,国公立研究機関が参画し,国内外に対してインパクトのある技術的,経済的成果を獲得することを目指している.

4 会計

 会計は,特別会計とし,独自に損益管理を行う.事業計画および予算案を年度毎に策定し,理事会で承認を受け,総会で決定する.決算についても,同様とする.

注)公益法人会計では,収益事業は総事業費の1/2以下に定められている.平成8年度の総事業費は約15億円であり,その内,収益事業(出版,受託)は約6億円である.従って,約3億円が新規収益事業として可能である.

5 規定

 現在,改訂作業中の定款が平成10年5月の総会で承認され次第,それを受ける形で機構の運営規定の策定作業を本格的に行う.ただし,それまでに,規定策定のための準備を行っておく.

  

土木学会技術推進機構創設検討の経緯

 平成8年度土木学会会長松尾稔の発議のもとに,理事会企画運営連絡会議企画部門が中心となって,平成9年4月に「土木技術研究推進機構設立検討準備会」(主査:池田駿介企画部門幹事)が発足し,4回の審議を重ねて,その検討結果を平成9年9月の理事会に報告した.

 理事会は,新委員会においてさらに詳細に検討するように,との指示を出した.その指示を受けて,「土木技術研究推進機構創設検討委員会」(委員長:松尾稔)の設立と,その構成委員を平成9年11月の理事会に提案し,新委員会が発足した.

 委員会では,2回の委員会,5回の幹事会を開催し,その間,企画運営連絡会議での議論,学会内委員会からの意見の聴取,関連学協会への説明,を行い,さらに「土木技術推進機構の基本的枠組み」について平成10年1月開催の理事会に中間報告を行い,同年3月の理事会に具体化策を含めた検討結果の報告を行った.また,会員に対しては,ホームページ・学会誌を通じて周知を図っている.

 本検討報告は,以上のような経緯でとりまとめられたものである.

用語

NAFTA: North American Free Trade Agreement

FEANI: European Federation of National Engineering Association

APEC: Asia Pacific Economic Cooperation

ISO: International Organization for Standardization

WTO: World Trade Organization

 


E-mail:opcet@jsce.or.jp