■ 就任ご挨拶
2007年5月25日
平成19年度の土木学会会長に選任された石井弓夫でございます。
古市公威初代会長をはじめとする数々の先輩方が築いて来られた輝かしい93年の歴史を持つ土木学会の会長に就任して、その責任の重さに身の引き締まる思いがいたします。
われわれ日本の土木技術者は、社会資本の整備を通じて古代から近世に至る日本の発展を支えて来ました。近代から現代においては、明治維新(1868)後は近代化、太平洋戦争敗戦(1945)後は戦災復興、平和国家建設、高度経済成長という国民の目標を実現して社会を発展させるために、社会資本整備に主体的に参加してきました。これによって日本の発展という目標は達成されましたが、皮肉にもそれは国民の社会資本に対する関心の低下をもたらしました。その上、建設産業をめぐる相次ぐ不祥事などによって、社会資本整備への国民的合意は消滅し、土木技術者を巡る状況は厳しさを増しています。
しかしながら、土木技術者には、国民の安全・快適な生活・良い環境を守るための社会資本整備に参加する責務があります。たとえ現在は国民の理解が得られないとしても、専門家としての誇りを胸に、自信を持って活動を続けなければなりません。そして自らの活動について国民に正しく伝え、訴えて行かねばなりません。
土木学会は数年来、会長提言特別委員会を組織し建設産業や土木技術者が直面している課題について検討を重ね、提言を学会内外に発信して来ました。今年の会長提言特別委員会で、私は2つのテーマを取り上げます。
一つは、わが国の社会資本の現状について、現状評価、いいかえれば健康診断・国勢調査を行うことです。現代社会を支える社会資本は、変化する国民の要求に応えて整備、運用、維持、更新されなければなりません。そのためには、社会資本の定期的な状況把握と評価を行い、その結果を国民に発表することが必要です。健康診断には技術者・研究者の中立的な組織である土木学会が当たるのが最適と考えます。まず評価の手法や基準を中心として組織的な検討に入ります。社会資本にはハードな構造物というイメージが強いのですが、利用システムなどのソフト、そして地球温暖化などでますます重要性が増している「環境」も対象にします。
もう一つは、アジア各国に対する国際貢献です。日本の土木技術は世界的に最先端の水準にあり、土木学会は国際委員会、アジア土木学協会連合協議会(ACECC)、個別の研究委員会等で国際的活動を行い、国内外から高い評価を得ています。日本はアジア各国に先駆けて近代化、高度成長に成功した国です。日本の土木技術の経験をアジアの友人にあらためて伝えることによってその持続的発展に組織的に協力したいと思います。
土木学会は2014年11月に創立100周年を迎えます。その記念事業は、学会内部だけでなく、社会にも目を向け、さまざまなアピールを行うべきでしょう。今年度は、そのための準備組織を立ち上げ、本格的に準備に着手したいと考えます。
終わりに、会員の皆様、役員の皆様のご理解と一層のご支援をお願いして、私の会長就任のご挨拶といたします。
Last Updated:2015/06/12