■ 就任ご挨拶

2011年5月27日

第99代会長 山本 卓朗

第99代土木学会会長 山本 卓朗

この度、第99代の土木学会会長にご推挙いただきました山本でございます。

我が国が国難とも言うべき巨大災害にみまわれ、総力を挙げて復興そして日本経済の回復に取り組んでいるときに、その活動の一翼を担う土木学会の運営をリードする役割をおおせつかり、その責任の重大さを痛感しています。

まずは東日本大震災で亡くなられた多数の方々のご冥福をお祈り申し上げ、被災され、また避難生活を余儀なくされている大勢の方々とともに、土木学会が全力を挙げて復興に取り組むことをお誓いするものであります。

一年前、阪田前会長が就任されたときから、"提言から実行へ"を旗印に学会活動をリードされ、理事会の活性化、土木技術者資格制度の改善、強まる土木界国際化への動きに対応した学会戦略会議の設置、学会100周年事業実施に向けた戦略会議の設置などを次々と具体化されました。そして、大震災の直後には特別委員会の設置から調査団の派遣へと素早いリーダーシップを発揮していただきました。阪田前会長のご労苦に心より感謝申し上げるとともに、引き続きご指導賜りますようお願い申し上げます。

我が国は、失われた20年といわれるように、長期にわたり経済の停滞が続き、社会資本整備の遅れや国際競争力の低下を招くという深刻な状況にあります。しかもその間に、1995年の兵庫県南部地震、2004年2007年の新潟県中越および中越沖地震そして2008年の岩手・宮城内陸地震など、その傷が癒える間もなく次々と大地震や洪水などに見舞われました。そしてこれらをはるかに上回る東日本大震災は原発災害をも誘発し、国際経済にも深刻な影響が懸念される事態となっています。

本年は、日本の社会が直面している深刻な状況を冷静に捉えた上で、土木界そして土木学会が何をなすべきか、しっかりと議論し実行へと進むべきと考えます。

近年の会長特別提言や大会テーマ、調査研究を振り返ってみますと、災害に強い国土つくりと防災、人口減少下の社会基盤整備、地域社会と土木、グローバル社会と土木技術者、技術力と技術開発、土木教育、市民防災教育など多岐にわたっていることが判ります。そして国内外の震災や災害時には多くの土木技術者が調査復旧そして復興に携わり多大な貢献をしてきました。しかしながらこのような努力の一方で、公共事業や土木に対する不信感は依然として底流にあり、土木工学を志す学生も減少しているという現実を厳しく見つめる必要があります。我が国の高度成長を支え、経済発展のために成し遂げてきた数多くのビッグプロジェクトは私たちの誇りであり、それに思いを馳せることは心地よいことです。しかし災害の多発する脆弱な国土を保全強化する一方で、自然環境に様々なインパクトを与えてきたことも事実であります。このような半世紀にわたる土木の軌跡を冷静に振り返って見ると、功はともかくとして罪についても率直に議論すべきであると考えます。そして私たちがものづくりにまい進する過程で、いつしか社会資本整備や公共事業に対する市民の感覚から"ずれ"を生じたことを認識することから始める必要があります。

私が"土木の市民工学への原点復帰"、"土木改革"を標榜する所以であります。もちろん土木学会が今まで以上に、真に必要な社会資本整備や国土防災のあり方について積極的に提言し参画すべきであることは言を待たないところであります。しかしその活動を素直に理解していただくためにも土木改革を進めなければなりません。そして産学官のSOCIETYである土木学会が改革の中心になり積極的に活動すべきであるということを、まずもって会員の皆様に訴えたいと思います。

当然のことですが、土木学会は企業ではなく会員活動によって土木工学・土木技術の発展をベースに社会に貢献する組織です。しかし今日のように、数多の課題に早急な対応を求められる状況においては、企業経営に準じた効率的な運営と情報のフラット化が必要であります。長年にわたり顕著な実績を積み上げてきた委員会活動を基盤としつつ、横断的な戦略課題に対しては、躊躇なく戦略会議、タスクフォース、ワーキンググループなどテーマにふさわしいチームを編成し、具体的方針の策定と早期実施を目指したいと考えます。

土木学会は、4月1日より新しい法人制度に基づく「公益社団法人」として活動を開始しました。そして移行にあたり、「土木」がその営みを通じて、公益の増進を図るために不断の努力を続ける使命を持っていることを、あらためて議論し確認してきました。その使命はまことに重大であります。

時あたかも2014年の土木学会100周年をめざした活動が本格化しつつあります。2008年に準備委員会が発足し、以来精力的に議論を重ね、昨年の札幌大会において、「土木の原点を考える」と題して100周年記念事業キックオフ討論会を開催し、以降4年間にわたり持続的かつ全国的に事業展開を図ることとしています。この事業を"真に求められる日本の土木は何か"を考え、公益社団法人としての使命を果たす絶好の機会として捉えていく所存です。

会員の皆様の格別なご協力とご指導をお願い申し上げ、会長就任の挨拶といたします。


Last Updated:2015/06/12