■ 就任ご挨拶
2012年6月14日
この度、土木学会の第100代会長にご推挙いただきました小野でございます。
未曾有の被害をもたらした東日本大震災の発生から、はや1年3ヶ月の月日が流れました。まずは、今なお不自由な生活を余儀なくされている多くの方々に改めてお見舞い申し上げますとともに、震災発生後、直ちに復旧活動に尽力された被災地の諸機関の方々、並びに全国の産・官・学一体となって活動された皆様に心から敬意を表する次第です。
今回の大震災は、技術立国を自負してきた我々に今一度立ち止まって土木学会の果たすべき役割や進むべき道を再考するよう促しています。そのような状況にあって、既に多くの皆様がかつてない拡がりをもって復旧・復興に取り組まれているこの時に会長を仰せつかり、その使命と責任の重大さを痛感しております。
私達は長年にわたって時に過酷ともいえる自然災害の洗礼を受け、立ち向かいながら常に技術の質を高める努力を継続することで、社会に貢献してきたと自負しております。そして、今まさに直面している震災復興や今後予想される自然災害への備えに、総力を挙げて取り組んで参る所存です。
昨年4月、公益社団法人として新たな出発をした土木学会は、"土木改革"に向けて、阪田元会長から引き継がれた山本前会長のもとに学会諸活動に関する議論を深めてきました。また、前会長におかれましては、喫緊の課題である東日本大震災への対応においても、特別委員会における調査・研究及び成果のとりまとめ、そして今年3月の震災シンポジウムの開催と、様々な課題に迅速に対応されました。こうしたご尽力に対し心より感謝申し上げるとともに、引き続きご指導賜りますようお願い申し上げます。
さて、今、私達に求められていることは、被災地域の速やかな復興に貢献するとともに、過酷な自然災害から国土を守り、安全・安心に営み続けることができる社会を国民に提供することです。とりわけ近い将来に高い確率で発生が予測されている、東海・東南海・南海の南海トラフ地震そして首都直下地震への対応は待ったなしであります。 私達は今回の震災で多くの事を学びました。広域災害の発生が日本のみならず国際社会のしくみへも多大な影響を与えるということを実感しました。土木学会では、東日本大震災特別委員会やシンポジウムにおいて、さまざまな観点から調査・提言を行ってきました。今後は、さらに一歩進めて、提言を実現させていくための取り組みが求められています。そのためには、昨年度の活動を具現化させるとともに、今回の災害から得た教訓を絶対に風化させないようにしなければなりません。
私は常日頃、土木技術者の活動の原点は現場にあると言い続けて参りました。このことを土木学会の活動で例えるならば、原点は支部にあると言えます。全国を俯瞰した方針は本部が示し、それを受け、地域特性を踏まえ地域住民の方々及び諸機関と一体となった支部活動が大切であります。今回、「安全な国土への再設計」支部連合プラットフォームが発足しました。この活動の見える化を含めすべての支部の更なる活性化が裾野の広い活動となり、そのことが土木学会への信頼を得るものと確信しています。
さらに、2014年、土木学会は100周年を迎えます。100周年を迎えるにあたってさまざまな議論を重ね、秋には、記念事業の実行委員会が設立される予定です。また、今年度は、この4月に設立した国際センターでの的を絞った活動、土木技術者資格の活用策の検討、土木ボランタリー寄付の教宣なども展開してまいります。 最後に会長としての職責を遂行するにあたり、私の思いを述べさせていただきます。 震災以降、関係学会の間で「想定外」に関する議論が重ねられています。土木学会のルーツでもある日本工学会では、社会の多様化するニーズに呼応し、分化・発展しながら、技術の高度化に伴う専門・細分化は当然の流れであるとの認識の一方で、「垣根」「隙間」で表現される課題が「想定外」の現象を発生させたとの指摘がなされています。同様の課題は、土木工学の領域でも長年にわたって諸先輩から「人・組織・技術の総合化の実現」として問題提起されてきました。私は、土木学会として今まで果たしてきた役割を今一度思い起こし、「工学連携におけるコンダクターとしての自覚と自信」をもって行動すべきと考えております。
「技術」も「組織」も専門分化したことで、プロジェクト全体を、さらには社会全体を俯瞰するという関わりが薄れてきたことが、「国づくり」を担うという土木技術者の「気概」をも失わせてきたのかもしれません。しかし一方では、「世のため、人のため、未来のためになる仕事に誇りを感じる」という土木技術者の声も多くあります。今回の震災で反省すべきことは謙虚に反省し、その上でこれまで積み重ねてきた役割を誇りに思い、「行動する土木学会」を目指していこうではありませんか。私も土木技術者の倫理規定改定の原点を忘れることなく、社会から信頼される土木界を目指していく覚悟であります。
会員の皆様方の格別のご協力、ご指導をお願い申し上げ、会長就任の挨拶といたします。
Last Updated:2015/06/12