ミャンマー・サイクロン災害緊急調査団(第1次)現地速報

柴山調査団長より

第1報

5月11日 23:30

5/11 18:45 に無事にヤンゴンに到着しました。灌漑局の自動車が迎えに来てくれたのですが、5年ほど前にJICAが灌漑局に贈った自動車でした。
電柱が倒れて電気が送れないための停電が多く、市内はかなり暗くなっています。
一部の電線を既に地下化してあったところと自家発電装置を持っているところは灯りをともしています。到着したのが夜のため、市内の様子はまだよくわかりません。
サイクロン被災地では収穫間近であった田圃が海水下に沈んだために、本年の米の生産は20%減になる見込みだそうで、主食の米の値上がりが始まったそうです。まず人命の救助が先決ということで灌漑局の復旧事業は2−3ヶ月は始められない見通しだそうです。
一方で通信事情も悪く、市内にいくつかあるインターネットカフェはいづれも長蛇の列になっています。私の宿泊しているホテルでは、ビジネスセンターに1回線だけLANがありますので、このメイルはそこが空いている送れる時に送ります。しばらくお待ちください。メイルはこのビジネスセンターで1日1回程度の頻度で受け取るつもりです。




ヤンゴン川右岸 河口から40km 内陸に1km 水路に沿って高潮が侵入し、氾濫した跡 (水田地帯)
(N16度36分10.6秒 E96度13分12.1秒)


ヤンゴン川左岸 河口から90km 川から高潮が進入した跡 
(N16度46分58.5度 E96度13分58.1秒)

第2報

5月12日 20:05

本日は明るい中でヤンゴンの街を見ました。植えてから50年ほどの木が折れたり根から倒れたりしており、片付けは進んでいません。この大量の倒木と落ち葉をどうするかも大きな課題です。停電で営業できるガソリンスタンドがわずかのため、スタンドには長い列ができています。

灌漑施設の調査の途中に米の値段を聞きました。脱穀していた農民(Wing NaingOoさん)が脱穀して乾燥後に売る値段が1パスカル(底面直径約40cm、高さが約30cmの円錐台のかご2杯分)で、サイクロン前に200チャット(約20円)だったものがサイクロン後に350チャット(約35円)に値上がりしたそうです。米作地帯が収穫前に被災した結果と思います。

ヤンゴン川の河口から約90kmのヤンゴン市内(N16度46分5.2秒、E96度9分43.5秒)で、高潮の計測をしました。渡し守の証言によると、サイクロンの最中に水位が急上昇し、堤防を越えて地面から120cmのところまで水位が上がりました。この位置は本日(16:13)の水位からは6.02m 上です。多くの船が岸に打ち上げられ、また水底に沈んだそうです。この水位はほぼ4日間続き、今は平水位に戻っています。この間、この川の上流にある灌漑用の貯水池では、サイクロン直後に水位が30cm上がり、すぐに元に戻ったそうですからこの水位上昇は降雨によるものではありません。

本日夕刻に私の招聘元である灌漑局の災害対策会議が開かれました。農業大臣からの下命で、被災地の灌漑施設の復旧対策をするために幹部が集まりました。
各部長が、今後の調査と対策について話し合いました。会議の直後に調査に行く責任者になった副局長に私は高潮災害の専門家で、役に立つから連れて行くように頼んだのですが、残念ながら答えはNoでした。外国人を伴うようなことは副大臣でも許可できまいとのことです。
上記のようなことで被災地の中心に行くことは難しくなりました。河川、海岸線に何とか到達して、高潮の分布を計ろうと思います。
インターネットの制約が厳しく、たとえばホテルに一台あるパソコンからはYahooMailへのアクセスはできないようになっています。いつこのメイルを送信できるか心配ですがとりあえず書いておきます。

第3報

5月13日午前10時

これまでの話を総合すると高潮が来た時の状況は以下のようです。
「サイクロンの来ることは天気予報を通じてヤンゴン市内にも、イラワジ河口域にも一応伝わっていた。ただ、大きな高潮や強風にみまわれたことがこの地域の人は数十年にわたってなかったため(70過ぎの老人も覚えがないと語った)、人々はどのようなことが起こるのか具体的なイメージがなかった。

サイクロンの来週は夕方から夜中のため、人々は家にとどまっていた。そこにイラワジ河口からヤンゴン川河口にかけて高潮が押し寄せてきた。南よりの風が強く、特に吹き寄せの効果が大きかった。潮位はヤンゴン川河口部でも6mに達するところがあった。高潮は河口から河道をさかのぼり、各所で氾濫し、特に地盤高の低いところで大きな被害をもたらした。

一方でヤンゴン地域では強風も大きな被害をもたらした。植えてから50年ほどの木が折れたり根から倒れたりしており、片付けは進んでいない。この大量の倒木と落ち葉をどうするかも大きな課題となる。倒木がぶつかって電柱が倒壊し、さらに送電線が寸断されている。」

外国の学術調査隊の被害の大きかった地域への立ち入りは難しいと思います。これらの地域は現在、軍が管理しているため、政権の中枢の意向がない限り許可されることはないようです。工学的な調査としては、ある程度軍による片付けが終わったところで、交渉するしかないようです。

こちらの通信状況はかなり悪く、衛星電話(イリジウム)を持っているのですが、こちらから日本にかける場合も屋外で場所を選んでかける必要があります。音質もかなり悪いです。電話で私に連絡をとろうとされる方は、このメイルに電話番号をお知らせください。こちらからかけます。

メイルもホテルに1回線でしかもブラウザー経由のみ、あるいはyahoo mail は禁止など大変不便です。便利なものにいろいろの規制をかけて使えなくしているため、時間がかかります。したがって申し訳ないのですが皆様からの個別のメイルにお答えできていません。申し訳ありません。

第4報

5月13日 11:41

本日は高潮の河川遡上を把握するために何箇所か計測しました。それぞれヤンゴン川の支流での値です。
N16度55分32.6秒 E96度04分20.6秒 2.34m (14:07に計測、潮位補正が必要)N16度48分33.3秒 E96度07分18.2秒 1.09m (証言により、高潮で上昇した値)

今回の高潮では被害が大きかった都市は
(1)Laputta (2)Bogale (3)Kungyangon
ですがヤンゴンから近いKungyangonに、明日行く予定です。途中船に乗る必要があり車で直接はいけないのですが、軍隊による片付けが進んだらしく、何とか行ける様になったようです。灌漑局副局長も明日視察の予定だそうです。このような感じで土木学会第2次隊、第3次隊が派遣される頃には行ける場所が少しずつ増えていくのかと思います。

ヤンゴン近郊でもいまだに有線電話は不通、携帯電話も中継局が壊れて不通、電気も停電という地区があり、国内電話が使えないので調査の際に不便をしています。

第5報

5月15日 12:59

本日はヤンゴンから川をわたり、被害の大きかったKungyangonに行く予定でしたが、残念ながら検問所のために途中からは行けませんでした。灌漑局の人が楽観していたのと異なり、外国人は入れない方針は変わらないようです。周辺の人に聞いたところではKungyangonの市内で2m、周辺部分で最高4mほどの地盤上の水位があったそうです。

仕方がないので、半島の反対側で2mほどの地盤上の水位があったというLatkegonに目的地を変更しました。道路状況が悪いため、バイクに乗り換えました。途中Rankhine村(N16度39分37.5秒、E96度11分11.6秒)では川を高潮が遡上し1.5mの水位上昇と越流がありました。また、その先の村では10cmくらいの冠水でしたが、45-60cmくらいの波高の波があったそうです。その後、村に常駐しているらしい監視者に見つかってしまい、外国人はこの先に行けないとのことで止められてしまいました。「決して無理をしないように」と言っていた古木専務理事の言葉を思い出し、ここで転進しました。

その後はヤンゴン川本流の高潮水位調査に戻りました。
N16度46分58.5秒、E96度13分58.1秒では高潮来襲直前の水位から4.33m
N16度47分10.3秒、E96度14分40.1秒では高潮来襲直前の水位から3.50m
また、第2報にあった「ヤンゴン川の河口から約90kmのヤンゴン市内(N16度46分5.2秒、E96度9分43.5秒)で、高潮の計測をしました。渡し守の証言によると、サイクロンの最中に水位が急上昇し、堤防を越えて地面から120cmのところまで水位が上がりました。この位置は本日(16:13)の水位からは6.02m上です。」の場所で、本日の潮位(13:26)がサイクロン来襲時に似ているという情報を基に測りなおしたところ3.18mでした(第2報の時間とは本日は3m弱潮位 が違っていました。)
以上のことから、ヤンゴン川本流部で概ね3−4m位と考えてよいと思います。

本日JICAミャンマー事務所の梅崎所長に聞いたところでは、6月中旬頃になれば外国人が立ち入れるところも少しは増えるのではないかと予想していました。
ただ、根拠は必ずしも確かではないようです。


第6報(最終)

5月16日 9:05

5月初旬はSummer Paddy の収穫期で、5月中旬はMonsoon Paddy の植え付けの時期です。サイクロンが襲ったときはちょうど収穫の時期で田には稲穂が実っていたことになります。

本日はヤンゴン川左岸に沿って調査しました。

Thilewaa Port の古いほうの港で調査しました。ここは修理中の軍艦が停泊しており、海軍のメジャーから写真をとらない条件で調査を許してもらいました(案内、説明、監視役の水兵さんまでつけてくれました)。N16度39分42.6秒、E96度15分36.1秒 の場所です。100mほど内陸の農家では、近くを流れる水路を伝って高潮があふれ、道路上15cm、農家の軒下まで水が来たそうで、近くのお寺に逃げて助かったそうです。この水は18時間程度で引いていったそうです。川岸では12:50の川の水際線から高さ1.16m,水平距離で48.08mの地点まで高潮が遡上し、さらに2.17mの波高が発生していたそうです。遡上域には大量のごみが打ち上げられていました。最高遡上点の座標は N16度39分 37.6秒、E96度15分25.4秒です。

Mawwon Creek に面したKyauktan City(右岸)では浸水はありませんでした。Ceekの左岸では大きな被害が出たとのことですが、ここは陸軍 がいるために近づくことができません。この他にヤンゴン川左岸には南にいくほど大きな被害のあった村落がいくつかあるのですが、いづれも道の入り口に陸軍の歩哨が立っており、入れてもらえません。陸軍は警備のために出動しているため、歩哨の段階で帰れといわれてしまいます。上記の海軍のように上官に会えないので交渉の余地もありません。

先ほど高木隊員とともにヤンゴン空港に到着して待合室に座りました。このメイルは成田からの発送になると思います。

Last Updated:2008/05/19