北海道新幹線(新青森‐新函館間)建設現場見学
北海道新幹線
北海道新幹線とは、東北新幹線新青森駅を起点とし、函館付近および小樽市を経由して札幌に至る延長約360kmの北海道旅客鉄道(JR北海道)が運営する路線であり、2015年に新青森−新函館間の開業を目指している。
北海道新幹線の開業による効果は、札幌−新函館間の移動時間が新幹線整備前では約3時間だったものが整備後は約1時間、札幌−東京間では約10時間から約4時間となり、大幅に短縮することができる。このような時間的に北海道と関東、東北が今よりも近くなることで新たな交流圏が生まれることが予想でき、北海道新幹線の開業は大きな経済波及効果やライフスタイルの変化が生まれると期待されている。
しかし、北海道新幹線開業後に問題となるのが並行在来線である。基本的に並行在来線はJRから経営分離されることとなるが、具体的な経営分離区間については、当該区間に関する工事実施計画の許可前に、沿線地方公共団体とJRの同意が必要となる。
JRは2010年3月、新函館−函館間の分離を表明した。これはつまり、新函館駅(仮称)が北斗市に設置されることから、函館には新幹線が乗り入れしないことを意味していた。これについて、函館市では経済界から強い反発があったため、JRは函館市から経営分離の同意が得られず、札幌−新函館間については着工できずにいた。
しかし、2011年12月、新函館−函館間の経営分離後は道が主体的になって第3セクター支援することを表明したことから函館市は苦渋の決断の末、経営分離に同意した。これで札幌延伸着工条件の沿線15自治体の同意が得られたことで北海道新幹線の札幌延伸がまた一歩現実に近づいた。
なお、札幌−小樽間は、利用人口が多いことから、引き続きJR北海道が経営するものと判断され、並行在来線と新幹線の共用を想定されている。
現場見学
2010年9月、北海道新幹線の函館総合車両基地、鶴野高架橋、飯田高架橋、大野川橋梁の4か所の建設現場(図1)を見学させていただいた。建設工事は鉄道建設・運輸施設整備支援機構が主体として行っている。
@ 函館総合車両基地
函館総合車両基地では地盤改良の現場(写真1)を見学できた。工期は平成20年2月22日〜平成24年3月15日。東京ドーム8個分の面積、約34haを有する函館総合車両基地は新函館駅の約1km手前の新幹線とJR函館本線の間に建設されている。ここでは新幹線の車両を点検・修理等を行うのだが、北海道新幹線が札幌まで開通しても、この車両基地のような施設は函館総合車両基地だけであり、札幌には留置線のみ設置される予定であるため、北海道で新幹線を整備するための重要な拠点となる。
図−1 北海道新幹線路線図及び見学現場
この車両基地の周辺地域は田園地帯であり、ピート層や溺れ谷が確認されるなど軟弱地盤が広がっている。そのため、車両基地の建設では約2mの盛土を行い、平地を形成している。見学時では軟弱地盤対策としてプレロード工法、圧密促進工法により、構造物建設前の圧密沈下を促していた。また、盛土する際は、周辺地域の地盤の影響などをFEM解析などにより予想し、基地沿いにある函館本線や周辺地域に影響が出ないように慎重に行っていた。特に線路沿いは車両が走っている時間などは作業できないため、時間を調整しながら進めているとのことであった。圧密沈下を促進させた後は排水設備、路盤工、舗装工を実施する。
写真−1 北海道新幹線路線図及び見学現場
函館総合車両基地は新函館駅の近くに設置されるが、今回、見学を案内してくださった方の話によると新函館駅は現在も使用されている渡島大野駅の位置に建てられるため、新函館駅の建設はまだ始まっていないとのことであった。新函館駅の建設は、同年、12月から渡島大野駅の近くに仮駅舎を造り、移転させたあと取り壊し、その跡地に新函館駅を建設するとのことである。
A 鶴野高架橋
亀田郡七飯町鶴野にある鶴野高架橋では場所打ち杭の施工現場(写真2)を見学することができた。工期は平成22年12月21日〜平成25年5月20日。場所打ち杭は直径1.3〜1.5m、深さは平均15mのものを施工していた。
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場所打ち杭とは、現場で組んだ円筒状の鉄筋を掘削した地盤の中に落とし込み、後からコンクリートを穴の中に流し込み、固めて杭を形成するものである。この現場ではケーシング(パイプ)を反復回転させながら地盤に圧入し、ケーシング内に落下させたハンマーグラブで中の土砂を掘削し、掴み取るようにして排出後、円筒状の鉄筋を挿入し、ケーシングを抜きながらコンクリートを打設して杭を形成するオールケーシング工法(写真3)で施工されていた。オールケーシング工法は掘削孔壁をケーシングチューブで保護するため周囲に与える影響が少なく、汚水処理・地下水への配慮など環境保全に有利な工法であるため、田園地帯のこの現場に適した工法である。
この鶴野高架橋の区間長は2,186mで場所打ちRC杭は全部で492本であるが、見学時では約半分が施工された状態で、あたりには場所打ち杭の現場や、橋脚の形に組まれた鉄筋が多く点在していた。
B 飯田高架橋
北斗市白川・稲里、亀田郡七飯町緑町・飯田町を跨ぐ飯田高架橋(写真4)の現場では高架橋の橋脚に登らせていただき見学させてもらった。工期は平成22年3月5日〜平成25年2月4日。飯田高架橋の区間長は1,906mであり、高さ約12m、1径間10mのRCラーメン高架橋を3〜6径間が連続したものを高架橋の1連として全29連が施工される。
写真−4 高架橋
鶴野高架橋のような場所打ち杭を打設した後は、隣接する場所打ち杭を地中梁コンクリートでつなぎ、柱コンクリート、床板コンクリート、地覆コンクリートの順で打設して高架橋の主要部分が完成となる。あとはレールを敷き、電気・通信設備、遮音壁などを設置する。見学時では飯田高架橋の橋脚部の施工についてはほぼ終了しており、地覆コンクリートを打設し、レールや設備などを設置するだけであった。
今回見学した飯田高架橋、鶴野高架橋等が位置する新函館駅手前の路線の軌道は一般的な路線よりも急なカーブを描いており、その曲線半径は3000mである。この数値は新幹線の路線設計にしては小さな値で、本来は新幹線の走行速度の関係から4000mで設計するのが妥当である。しかし、今回のような現場では新幹線が新函館駅に入るために速度を落とすため、このような小さな曲線半径の軌道が可能となるようだ。
C 大野川橋梁
2級河川である大野川に架けられる大野川橋梁(写真5)は全長164m、4径間の橋梁であり、工期は平成21年10月9日〜平成25年3月8日である。基礎形式は他の高架橋と同様に杭基礎で、橋梁はエレクションガーダー工法により架設されている。
写真−5 大野川橋梁建設現場
エレクションガーダー工法とは、桁下が道路や水上など、支保工の設置や作業スペースに制約がある場合に、エレクションガーダー(仮設桁)を架設径間に設置し、これを支持桁として本設の桁を建設する工法である。仮設桁にはレール式の台車があり、製作ヤードで造られた本設の桁を1スパン分、または分割された状態で架設橋の台車に吊り下げて移動させて設置する。
見学時は時間が合わなかったため台車で仮設桁を移動するところを見ることができなかったのは残念であったが、巨大で迫力のある橋梁の建設現場を見ることができたことや現場の人とお話し出来たことは良い経験になった。
終わりに
今まで北海道で生活する私たちにとって新幹線は少し遠い存在であった。しかし今回、2015年開業となる北海道新幹線の建設現場を見学したことで、新幹線は本当に近い将来、私たちの身近な存在になるのだと実感ができた。
北海道新幹線の開業は関東、東北からの観光客の集客効果や経済効果などが目立ちがちだが、北海道以外の地域に就職や転勤などで北海道を離れる人々がいる中、北海道新幹線が開業することで、ふるさとの北海道に帰ろうと思えば、今までよりも容易に帰れるようになる。この逆もまた然りで、これはそのような人たちの小さな心の支えとなるだろう。
日々の仕事に疲れたと思ったら、新幹線でふらっと、ふるさとに帰るのはいかがだろうか。