倶多楽湖公園線
倶多楽湖公園線は登別市登別町から支笏・洞爺国立公園内にある登別温泉街、そして倶多楽湖を経由して中登別町までを結ぶ延長約15kmの観光道路であり、その区間内には登別市内唯一の公的医療機関である登別厚生年金病院も含まれている。そのため、普段は温泉街住民にとっての重要な生活路線でありながら、緊急車両等が通過する緊急輸送経路としても重要な路線となっている。
現場見学
室蘭・苫小牧ブロックでは、倶多楽湖公園線の改築工事現場を実際に見学させていただいた。既存の道路(以下、現道)は山の斜面に沿って造られているため、線形が悪く急勾配区間を有しており、さらに幅員も狭く歩道もないため、自動車だけでなく歩行者・自転車などが危険な状況での通行を強いられていることから、安全で円滑な交通の確保及び歩行空間を整備することを目的として改築工事(以下、新道)が開始された。
現道は生活道路・観光道路・緊急輸送道路という3つの役割を担う道路としては大変心もとなく、実際に見学現場へと訪問した際には幅員が狭く曲がりくねった線形・急勾配を直接体感する事ができた。さらに冬季には積雪によって路面状況の悪化やさらなる幅員の減少が起こる事も考慮すると、本工事の意義は非常に大きいと言えよう。
図−1 見学の様子
本事業の計画段階では、現道に隣接する山の斜面を新たに掘削して現道を拡幅する切土案と、現道をショートカットするように結ぶ橋梁案が検討されていた。しかし、切土案については、現場一帯が上述の通り国立公園に指定されており、かつ区間内に市内唯一の公的医療機関が存在することに対し、山体斜面の掘削と現道の通行止めを必要とするため、自然環境への配慮及び緊急輸送道路としての機能確保といった観点から採用に至らず、また、狭小な山間部での施工となることから大規模な部材の運搬を必要とする橋梁案も採用には至らなかったという経緯がある。
メタルロード工法
上記の経緯から、本工事では「メタルロード工法」が採用された。メタルロード工法とは、通常のように切土・盛土を施した上に道路を整備するのではなく、斜面に杭を一定のスパンで打設し、上部に桁材を接合することによって立体ラーメン構造体を構築していくことで、道路を延長・拡幅する工法である。そのため、自然環境への影響を最小限に抑えながら部材の小型化・軽量化を達成でき、なおかつ現道の通行を妨げることなく施工できるといった理由から、本工事において採用されることとなった。また、施工の際に切土・盛土を必要としないため、現場一帯の急峻な斜面の安定性を損なう恐れが少ないことも本工法が採用された理由のひとつである。
施工手順
メタルロード工法の施工手順は、(1)杭の打施、(2)桁の架設、(3)覆工板の設置、(4)床板の構築、という4つの段階に大別される。
(1)杭の打設
事前のボーリング調査によって頑丈な支持地盤が存在しないことが明らかとなっていたため、本工事では鋼管杭(図−2)を用いた摩擦力による支持方式が採用されている。この鋼管杭を15tの油圧ハンマーを用いて2〜3本ずつ並行に打設していく(図−3)。打設する深さは最大42mにもおよび、打設途中の段階でも垂直落下させた15tの油圧ハンマーが跳ね上がる程の摩擦支持力が得られている様子が窺えた。
図−2 鋼管杭
図−3 杭の打設
(2)桁の架設
打設した鋼管杭の上に桁を架設していく。架設の際には、鋼管杭と桁材の間に杭頭ブロック(図−4)が用いられており、この部材は一部が伸縮可能な構造になっているため、打設の際に生じる誤差を吸収するという重要な役割を担っている。
図−4 杭頭ブロック(中央の台形部分)
(3)覆工板の設置 〜(1)杭の打設
鋼管杭と桁材によって構築されたラーメン構造体の上に覆工板を設置したのち、次の杭を打設していく。
図−5 覆工板の設置
(4)床板の構築
全区間の杭打〜覆工板の設置までが完了したのちに、覆工板の撤去と床板の設置を繰り返しながら出発した地点まで後退していき、施工完了となる。
施工後の予定
本工事で建設中の新道部分(写真下部)が完成した後の現道(写真上部)は遊歩道として利用される予定となっている。現場付近には観光スポットが数多く存在しており、今後の登別市における観光産業を支える道として、新道開通後も引き続き重要な役割を担っていく。道内に限らず日本全国で改修が必要な土木構造物が増加している中で、こういった既存の土木構造物の新たな活用方法の検討が進んでいる様子を垣間見る事ができた。
図−6 現道と新道