新送毛トンネル施工現場見学レポート
札幌から留萌間を結ぶ国道231号は、日本海を望む風光明媚なルートである。日本海オロロンラインの一部であり、多くの区間で海を眺望できる。この国道はかつて「陸の孤島」呼ばれる雄冬海岸などの断崖絶壁の地形が多く、1981年11月10日に雄冬岬トンネルが開通し、陸の孤島から解放されたものの、同年12月に崩壊事故が発生した。再度開通するまでには2年以上の歳月を要したが、現在では「萌える天北オロロンルート」の一部としてシーニックバイウェイ北海道の指定ルートにもなっており、夏には観光客も多く訪れる。
国道231号は北海道地域防災計画における北海道緊急輸送道路ネットワークにおいて、第1次緊急輸送道路としてその重要性を担っているものの、落石崩壊などによる特殊通行規制区間、道路防災点検による要対策個所を含んでいることが示唆された。そこで防災対策や危機管理の充実・迅速化に寄与することを目的に、石狩市厚田区安瀬から石狩市浜益区雄冬までの延長11.6km区間を整備している。当該区間での5本のトンネルは、今も現役としてその役目を果たしているが、送毛トンネルは老朽化が著しく、構造物自体の更新の時期を迎え、新たに延長2992mにもなる「新送毛トンネル」の工事が現在行われている。
普段見る機会のないトンネル工事の現場。そこにはどんな世界が広がっているのだろうか。その世界を感じてみたい!私たちは、新送毛トンネルの建設現場へと向かった。
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求められる臨機応変な対応と掘削技術
新送毛トンネルの施工にはNATM工法が用いられている。NATM工法は、ロックボルト・吹付けコンクリート工法と呼ばれ、ロックボルトと吹付けコンクリートを主な支保部材として地山の強度劣化を極力控え、地山が本来もっている耐荷能力を積極的に活用しながら、現場計測の管理のもとトンネルを掘り進める。その一連の流れとしては、削孔→装薬→発破→ズリ出し→支保工建て込み→コンクリート吹付け→ロックボルト打設→計測・測量となる。
トンネルの設計・施工を効率的かつ合理的に行うためには、地山条件(岩種、性状)を類型化して評価するが、実際の施工ではケースバイケースで対応を求められる場合が多いようである。また岩盤の緩みや移動は掘削後、直に起こるが、ある期間が経つと岩盤特有の自助体可能力により平衡状態が確立される。良質な岩盤の場合では、長期間にわたり自助体可能力が維持されるが、岩盤の質が劣れば劣るほど、支保の必要性が増す。新送毛トンネルではボーリング調査により、起点側(札幌側)は安山岩質火砕岩で地山分類はCU、終点側(留萌側)は、安山岩溶岩で地山分類はDTに分類され、比較的安定した条件といえる。全断面工法で掘削は進められているが、一回の掘削進行スパンは1mと地道に作業が進められている。
施工が進むにつれて、起点側では切羽及び下半盤から湧き上がる水で路盤がぬかるんでしまい(泥濘化)、作業効率を悪化させるため、敷鉄板の敷設と所要の排水ポンプを稼働させ路盤の維持を図りながら施工が行われている。また終点側では施工中の湧水が多量なことから、定着剤の流出、ロックボルトの落下などを生じさせる可能性があるため、スエレックスボルトでロックボルトを施工している。このスエレックスボルトは、掘削孔の凹凸に合わせて形を変えることで瞬時に耐荷能力が発揮され、定着剤なしに施工できるため、湧水による影響を受けないなどの特徴がある。
この他にも、ベルトコンベアによるズリの運搬、施工時に出る濁水の処理、騒音の低減を図った発破方法、冬期における対策など、地形や地域特有の問題点などを考慮した施工方法の選定が行われており、ケースバイケースで対応を求められる場合が多いようである。
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土木工事現場の仕事、気持ちを感じる
現場に着いてまず始めに驚かされたことは、現場で働く人の多さである。工事の最盛期ということと、24時間現場が動いているということにより多くの人が現場で動いていると伺った。トンネルの中では掘削やコンクリートの打設など多数の作業が同時に行われていた。その作業は起点と終点の両側から行われており、現場内にある多くの作業を24時間止めないように進めるという事はその都度変わっていく作業工程・状況を常に把握しなければならないようだ。完成してしまえば一つの構造物であるけれども、多くの工程と工種が組み合わさって一つのものが完成していく過程を知ることができた。
この仕事のやりがいについて伺うと「自分の子供に完成したものを見せられる所」と話してくださった。人に誇れるものが仕事となるのは幸せなことであり、誇れるものを造りたいという技術者としての意志を感じた。
いつも何気なく利用しているトンネル。普段は見ることできない施工の現場を見ることで、そこには多くの方々の尽力と情熱があることを知った。施工現場を直接肌に感じた興奮・感動と技術者の方々への感謝を胸に、私たちは現場を後にした。
写真−5 参加者全員で記念撮影