開港都市としてのこれから 〜函館港北埠頭の改良・函館港の修復〜
現場見学に関する概要
函館地区の学生による現場見学は、11月19日に北海道開発局函館開発建設部函館港湾事務所協力のもと4名の学生達が、函館港北埠頭の改良工事及び函館漁港の修復工事を見学させて頂いた。
青森と函館を結ぶ青函航路は、航路部門全国2位の取扱貨物量があるため重要な役割を担っている。そのため、港湾施設の性能・整備向上が求められている。函館港北埠頭における改良工事の見学では、函館港の重要性や工事に関する概要を聞いた後、小型船で地盤改良混合処理船まで移動し、改良船の特徴や仕組み等の説明を受けた。
次の見学場所である函館漁港の石積み防波堤は、明治中期に近代土木の父である「廣井勇博士」によって造られた北海道初の港湾施設である。そのため非常に価値の高い防波堤だが、著しく劣化している現状であるため、当時の工法や材料を再現して修復をする事業を進めている。
学生達は、普段見学することができない施設や重機の凄さを身近に感じることができる数少ない機会であるたため、皆真剣な眼差しで現場の方々の説明を聞き、メモを取って自身の知的向上に励んでいた(写真−1)。
写真−1 工事内容の説明を受ける学生達 |
函館港北埠頭地区複合一貫輸送ターミナル整備事業
青森港と函館港を結ぶ青函航路は、航路別の取扱貨物量では道内1位、全国第2位となっており、本州と北海道の物流や人流を支える大動脈である。特に、北海道で生産される農水産品の約4割が当航路を利用しており、我が国の食料供給において極めて重要な役割を果たしている。しかしながら、写真-2に示す函館港の北埠頭地区を利用しているフェリーは、横風や横波を受けて船が動揺する縦付け係留を余儀なくされており、離着岸時の時間ロスや非効率な荷役を強いられている。また、北埠頭は一般貨物船も利用しており、これら船舶と荷役時に輻輳することが問題となっている。さらに、近年の需要増に対し、大型フェリーが接岸出来る岸壁水深とはなっていない。これらのことから、大型フェリーに対応し、安全な係留と離着岸時における時間のロスを解消することを目的に整備事業が進められている。
写真−2 函館港北埠頭航空写真 |
写真−3 深層混合処理船 |
整備事業は平成24年に着工したばかりで、現在は地盤改良を行っている。函館の地盤は、七重浜・亀田地区が陸繋砂州(トンボロ)によって函館山と陸続きになった陸繋島であるため、市街地の地盤は砂質地盤である。そのため、大地震が発生したときには液状化の被害を受ける可能性があるため、地盤を改良することが必要となる。耐震機能を有した岸壁は函館初で、震度6強まで耐えることが可能となる。
写真-3は地盤改良を行う深層混合処理(DCM8号)船を示す。DCM8号船での地盤改良は、同写真右側の処理機が行う。地盤改良を行う処理機の高さは50.5mで、そこから伸びた回転軸(写真-4)の先端には回転翼(写真-5)が取り付けられており、この回転翼からスラリー化したセメント系硬化剤を軟弱地盤に注入し、軟弱地盤とともに回転翼により拡販混合することで、化学的に固化するCDM工法を採用している。函館港北埠頭地区はN値(地盤の強度)が低い軟弱地盤のため、岸壁本体を地盤が十分支えられるように、水面下8.1m〜34m程度までの地盤改良を行う。
写真−4 処理機の回転軸 |
写真−5 回転翼の刃先 |
今年は地盤改良を中心とした工事内容となっているが、平成26年3月の供用開始を目指し、来年はケーソンの作成や据付、コンクリート打設、アスファルト舗装といった工事を本格的に進めいていく予定である。
函館漁港船入澗防波堤の修復工事
函館は安政6(西暦1859)年の開港以降、数多くの大型外国船や商業船が来航するようになった。これにより、大型船の入港が必要になったことから、港内の浚渫や漂砂防止、船着場や防波堤、造船所の整備を目的とした一大事業が行われた。函館漁港船入澗防波堤(写真-6)は、当事業の一環として行われたものである。
函館漁港船入澗防波堤は、西風の際に波浪が港内に進入することを防ぐ目的で、明治29(西暦1896)年に近代土木の父である廣井勇博士(写真-7)が監督技師として着工したもので、同博士が建設した国内初の本格的外洋防波堤である小樽港の前身として、明治32年に北海道初の近代港湾施設として整備されたものである。完成時の大きさは、南北に延びた北側104m、南側54mの防波堤であった。
当漁港は、江戸時代末期の開港に伴って防備目的で整備された弁天岬台場の解体に際し発生した土塁石垣の石材を積極的に流用するとともに、旧台場を石積み防波堤の基礎であるコンクリートブロックの製造基地として使用した。
このように、近代港湾の始まりとなった港湾構造物として評価されているだけでなく、110年以上経過しているにも関わらず、現在でも防波堤施設としての機能を十分に発揮しているため、2004年に土木学会「選奨土木遺産」、2009年には経済産業省「近代化産業遺産群」に選定されている。
しかし、近年頻繁に発生する地震や台風によって、南側の防波堤は10mまで減少し、北側では通路となっている幅約1m程度の天端部において欠損箇所が目立つなど,著しく劣化している現状にあるため、当時の設計や材料を模倣し、再現する修復事業を昨年から行っている。
再現・修復工事に際し、始めは文献調査から開始した。設計書や文献は存在したものの現代語ではないため、専門用語の解読に困難を極めたそうだ。
基礎コンクリートブロックの不等沈下が特に激しい北側堤頭部は、基礎ブロックを再配置する必要があるため、当時と同じ材料の花崗岩を海上クレーンで運びだし、植木職人が一つ一つを手作業で成形し再配置する(写真-8)。また、堤体などにおける石積みの欠損個所は、海底から回収した石材や同種の新材を使い積み直す方式を取っている。堤頭部以外の堤体では、下部は基本的に現状のままとするものの、通路となっている幅約1mの小段部分は、後付けの構造物を撤去し、竣工当初の形状に復元する。さらに、崩落している所が多い胸壁上部は「練り積み」により当時の高さまで戻す予定である。「馬踏み」と呼ばれる形状の石材が使われていた堤頂部では、ほとんどが壊れているため同種石材で再現する。船入澗防波堤の修復・再現に伴い、南北の防波堤の提頭部に配置されていた2脚の灯台は、2004年に古写真が発見されたことにより、デザインが判明したため、一脚450万円で一新されることになった。
このような当漁港の再現・修復工事事業は来年3月までとなっており、完成後は函館の新たな観光資源として活用される予定である
今年は地盤改良を中心とした工事内容となっているが、平成26年3月の供用開始を目指し、来年はケーソンの作成や据付、コンクリート打設、アスファルト舗装といった工事を本格的に進めいていく予定である。
写真−6 函館漁港の石済み防波堤 |
写真−7 廣井 勇博士 |
写真−8 函館漁港の修復現場作業風景 |
おわりに
今回、我々は函館港北埠頭の改良工事及び函館漁港の修復工事を見学し、普段見る事のできない深層混合処理線や防波堤の断面部を見る事ができ、非常に貴重な体験をさせて頂いた。また、滅多に見る事ができない事業ゆえ、工事見学希望者は15名程度いたものの、平日開催ということもあり、キャンセルが相次いでしまった。今後は企業の方々並びに学校関係者と話し合い、開時時期に工夫する必要があると思われる。
謝辞
今回、我々の企画にご協力いただいた、北海道開発局函館開発建設部函館港湾事務所ならびに高木組、竹中土木、松本組の皆様には大変お世話になりました。ここに感謝の意を表します。