北海道開発技術センター会社訪問/当別ダム建設工事現場見学

北海道開発技術センター会社訪問

 日本の最北端にある北海道。 ここには、冬期間の厳しい気候条件の中で生まれてきた人々の営みがあり、そして開発されてきた独自の技術「寒地技術」というものがある。 これらの技術は、世界的にも注目を集めるようになってきている。 そして、北海道で育まれてきた技術をより一層発展させつつ、さらに国際社会に寄与するべく、 産・官・学の領域を超えた取り組みが行われている。 私たちは、寒地技術を発展・発信する事業・研究を行っている北海道開発技術センターを訪れた。

北国の暮らしを支える

 広大な北海道において、人の交流や物流は自動車交通に頼るところが大きく、 冬期間は多くの観光客が訪れることからも、交通安全の確保は重要な課題である。 北海道開発技術センターでは、各地に設置されたwebカメラを利用して、 誰でも視程を確認することができるシステムというものを開発している。
 さらに、冬期間の移動が危険なのは自動車に限ったものではなく、 まるでスケートリンクのようにツルツルになることもある雪道は、歩行者にとっても危険である。 しかし、路面管理者だけでは、全ての歩道に対処するのは不可能に近い。 そこで、行政・民間などの機関や地域団体だけでなく、 住民の方々も交えて雪国特有の「冬期バリア」を解消しようという取り組みもなされている。 ユニークなのは、住民が特派員となって路面状況を発信するという取り組みや、 歩行者が自ら歩道への砂まきを行う「砂まきボランティア」の取り組みである。 これには160名のボランティアが集まり、地域の交流も活発になったと伺った。 人をつなぐ土木、そんな姿がこの取り組みには見られた。

地域を、人を結ぶ

 次に、シーニックバイウェイ北海道の取り組みについての説明を受けた。 シーニックバイウェイ北海道は、みちをきっかけに地域住民と行政が提携し、 美しい景観づくり、活力ある地域づくり、魅力ある観光空間づくりを提案し、 競争力のある美しく個性的な北海道の実現を目指してスタートしたという。
 現在、9つのルートがあり、各地で色々な立場の方々が協力し合い、様々なイベントが催されている。 その一つである「ウィンターサーカス」は、雪を使ったランドアートをアーティストが発想し、 地域の人たちと共同で制作するというユニークなプロジェクトである。 冬の地域資源を活用化した冬季観光の取り組みとして毎年行われている。 このように、地域住民、観光客、行政、自然環境など様々なものを結び付けるユニークな取り組みがされているのである。

図-1 北海道開発技術センターの様子

当別ダム建設工事現場見学

 近年、土木構造物の建設ではコスト削減や環境への配慮が求められており、 その中でもダム建設については、より一層強く求められている。 新しい工法である「CSG工法」を用いて建設中のダムがあるという。 CSG工法とは何なのか?どのような工事が進められているのだろうか?

初めての本格的台形CGSダム

 当別ダムは2006年に着工し、治水、かんがい用水、水道用水などを目的とした多目的ダムで、 2012年の完成を目指して工事が進められている。 完成すると高さ52m、総貯水量7450万立方メートルにもなる巨大なダムである(図-2参照)。 そして、このダムが初めての本格的台形CSGダムである。 CSGとは、“Cemented Sand and Gravel(セメントで固められた砂礫)”の頭文字をとった略称で、 ダム建設地点やその近傍で得られる砂礫に水を混ぜ合わせて作ることから、発生土砂を有効活用することが可能になる。 しかし、強度は一般コンクリートの1/10程度で、ばらつきもあるという。
 一方、ダムの形状を「台形」とすることで、ダムに働く力(水圧や地震力など)に対して安定度を高めることができる。 この「台形ダム」と「CSG」を組み合わせることによって、工事費の削減と環境保全が可能になる。 この新しい技術は、日本が独自に開発したものである。

図-2 当別ダムの建設現場風景

環境に配慮した施工

 本体のコンクリート打設作業は、昼夜を分かたず24時間施工を行っているという。 ちなみに、完成後にできる人造湖は、北海道が管理する多目的ダムとしては屈指の規模となる。
 ダム周辺は豊かな緑の山々に囲まれており、猛禽類も多数生息している。 そこで、施工は周辺の生態系に配慮して、様々な工夫がなされていた。 はじめに、ダム周辺調査が行われ、調査項目としては地質、水質汚濁の他、自然景観や生物層の調査を15の項目に分け、 その調査で確認された動植物の重要種の生育環境が、ダム建設によって大きな影響を受ける場合、個別に様々な対応策を行っていた。 この対応策は、専門家が環境アドバイザーとして指導していただいた上で行われていた。
 例えば、両生類のエゾサンショウウオは、産卵場や生息環境の減少が予測された。 その対応策として、貯水池周辺に産卵場として溜まりの整備、卵塊の移植が行われた。 また、植物のカタクリやヤマシャクヤク、エゾキンポウゲ等は生育地が焼失してしまうため、個体の移植が行われた。 猛禽類に対しては、オジロワシ等希少種も生息しているため、多くの対応策を行っている。 チュウヒのためのヨシ原等の整備や水辺草地の生息環境の整備だけでなく、猛禽類が巣立った後に工事を行うという工夫がされていた。 工事期間中は、コンディショニング運転といった対応策がとられている。 コンディショニング運転とは、猛禽類は非常にデリケートであるため、色や音の変化にも敏感に反応してしまう。 そのため、重機を徐々に増やすなど生態系へ配慮することで、 猛禽類にストレスを与えないようにする対応策である(図-4)。
 また、施工は急速に行うため、工期には24時間施工を行っている。 そのために夜間必要な照明を必要最低限にするため、CADでシミュレーションをした後使用している。 例えば、夜間施工の際に用いる照明は、シミュレーションで周囲に対する影響を検討し、設置しているという。
 当別ダム建設現場では、対応策を行った後も継続してモニタリング調査を行っている。 生息環境の整備や移植ではなく、ダムの施工後も貴重種が生息、生育している環境を造ることを目的としている。 モニタリング調査を行っていると、もし対応策が不十分であり貴重種の個体数が減少していたならば、 新たな対応策をとることができ、目的の達成に近づけることができるのである。 そのため、継続的にモニタリング調査を行う事は重要なのである。近年様々な企業や団体が環境改善のための活動が行われている。
 例えば、植樹活動がその一つである。 しかし、それらの多くは植樹することが目的となっており、植樹後は生育していなくても放置されていることが多々ある。 当別ダムはしっかりと目的を見据えた上で、人と自然の共生を目指した取り組みが数多く行われていた。

大和田 塁
RUI Ohwada

学生連絡委員
北海道工業大学大学院

霜鳥 知行
TOMOYUKI Shimotori

学生連絡委員
北海道大学大学院
工学院 北方圏環境政策工学専攻

田中 俊輔
SYUNSUKE Tanaka

学生連絡委員
北海学園大学大学院
工学研究科 建設工学専攻

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