(平成12年11月)
沿岸域環境を取り巻く状況は近年大きく変わりつつある.その底流には,沿岸域に対する国民の認識や関わり方の変化,すなわち従来の単なる受動的な立場から,沿岸環境のあり方や沿岸域の健全かつ多角的な利用のあり方について,より積極的にコミットしていこうとする新たな動きがある.また,沿岸環境・利用に関して重要な位置を占める水産業をみても,国連海洋法条約の精神にも見られるように,沿岸水産資源の適切な管理の必要性がこれまで以上に高まってきており,周辺の陸域をも包含した沿岸環境・生態システムをトータルにとらえ,システム全体の改善を図っていく努力が求められてきている.これらの動向・要請を受けて,環境影響評価法の制定,海岸法の改正,港湾法・漁業法・漁港法の改正検討など,わが国の沿岸環境に関わる法体系も大きく変わりつつあり,今後の沿岸域の環境保全・修復,水産資源管理,沿岸防災等々のあり方・将来像を,より多面的・包括的な観点から追求していくことの必要性が強く認識されつつある.
「沿岸環境」という複雑な研究領域で,このような時代要請に「学」が具体的に応えていくには,「沿岸環境研究」に関わる様々な分野の研究者が,従来の専門の枠を越えて,広範に連携を取りながら取り組んでいく場を持つことがきわめて重要になってくる.しかし残念ながら,そのような連携の場はきわめて限られている,というのが現状である.
このような問題意識のもとに,沿岸環境を共通の研究フィールドとしている関連学会の関係者の参加を得て,互いの問題意識の接点を探り,将来の方向性を議論するためのジョイントシンポジウムを,"「これからの沿岸環境」―「沿岸生態系」の持続的利用,その維持と修復に「学」は何をなすべきか―"というテーマのもとに,土木学会海岸工学委員会/日本海洋学会海洋環境問題委員会/日本水産工学会/日本水産学会環境保全委員会が主催する形で,本年7月4日に東京・星陵会館において行った.同シンポジウムでは,約200名の参加者を得て活発な議論が行われたが,シンポジウム終了後も,これを単発の試みとして終わらせることなく,関連学会間の様々な連携の可能性を今後も恒常的に探っていく場を設ける必要があるという点で,多くの方々の意見の一致を見たところである.
ここで設立を提案する「沿岸環境関連学会連絡協議会」は,このような背景に基づいて,沿岸環境に関わる上記の4学会が中心となり,学会間連携の具体化を推進していくための,意見・情報交換,連絡調整の場である.この協議会では,例えば以下のようなアクションプランの実現に向けての検討を行う.
本来は,沿岸環境問題の解決あるいはより望ましい沿岸環境の実現には,沿岸関連学会だけの連携ではまだ限界があり,陸水学など陸域環境システムに関わる関連学問分野や水文気象学・水資源学などとの連携も将来的に必要になる.さらに,学会間連携だけでなく,行政や民間,住民(市民,NGO)との連携も視野に置く必要がある.したがって,今回の「沿岸環境関連学会連絡協議会」の発足は,その第一ステップとして位置付けられるものである.
以 上