平成14年6月
1. 事故の概要........................................................... 1
2. 事故原因の分析....................................................... 1
2.1 事故に関わる事実.......................................................... 1
(1) 基本計画............................................................. 1
(2) 構造設計............................................................. 2
(3) 施工................................................................. 2
(4) 管理................................................................. 2
(5) 防砂板............................................................... 3
1) 防砂板の設置状況.................................................... 3
2) 防砂板の損傷........................................................ 3
3) 波浪による防砂板の変形.............................................. 4
4) 防砂板の材質の確認.................................................. 5
(6) 投入土砂の材質....................................................... 5
(7) 空洞・陥没の状況..................................................... 5
(8) 他の人工海浜の調査................................................... 5
1) 人工海浜における陥没等.............................................. 5
2) ケーソン構造の人工海浜.............................................. 6
2.2 事故原因の推定............................................................ 6
(1) 防砂板の損傷原因..................................................... 6
(2) 空洞の発生原因....................................................... 7
(3) 空洞の成長原因....................................................... 8
(4) 陥没の発生原因....................................................... 9
3. 今後の復旧対策の提言................................................ 10
4. 今後の安全管理に向けて.............................................. 10
(1) 人工海浜の設計技術の向上............................................ 10
(2) 巡視・点検.......................................................... 11
<巻末資料>大蔵海岸陥没事故調査小委員会の概要......................... 12
設立趣旨..................................................................... 12
開催経緯..................................................................... 12
委員......................................................................... 12
<用語解説>........................................................... 13
平成13年12月30日12時51分頃、兵庫県明石市大蔵海岸東地区(図 - 1.1)において、父親と散歩していた4歳の少女が、東側突堤際の砂浜に突然発生した陥没穴に転落し、生き埋めとなる事故が発生した(写真- 1.1)。<図・表・写真は一括して巻末に掲載>
事故は、少女が砂浜から東側突堤の上に上がろうと突堤部に近づいた時に、突堤部際の砂浜下に発生していた空洞が、少女の重みで陥没したことで起きたものである。
少女は約25分後に救出されたが、脳が低酸素状態となり意識不明の重体のまま、平成14年5月26日、低酸素性虚血性脳障害のため、入院していた明石市立市民病院で死亡した。
事故が発生した砂浜は、兵庫県と明石市が計画した人工海浜であり、突堤で囲まれた内側に砂等を投入して造成され、平成10年3月から供用開始されていた。
以下に事故原因と関係ありうる事実を、各段階毎に列挙する。なお、(5)以降は事故後の調査により判明したことである。
平成元年、海洋性レクリエーションへの関心が高まり海浜をうるおいとふれ会いの空間として利用していきたいという要請が強くなっていること、また東播海岸においては明石海峡大橋が建設中であり、沿岸域の地域整備の機運が高まっていた状況において、整備計画の策定に関する協議、関連する各種事業の円滑な実施に係る連絡・調整を行うことを目的として、建設省、兵庫県、神戸市、明石市の間で東播海岸CCZ(用語解説)整備推進連絡協議会が設置された。
第1回の協議会では、東播海岸の整備計画に関するスケジュール、海岸保全施設計画、神戸市、明石市CCZ計画原案などに関して意見交換をした。
一方、兵庫県と明石市は、平成元年に明石東部海岸整備基本計画策定委員会を設置し、平成2年に明石市および明石東部海岸の立地条件、および明石海峡大橋等の関連プロジェクトから明石東部海岸の整備方向、導入機能および計画テーマを提案し、レクリエーション需要量推計と施設の具体化から土地利用計画、事業計画(図 - 2.1)をまとめた。
第2回協議会は平成3年に開催され、舞子および大蔵海岸の養浜形状、埋め立て護岸、人工リーフ、離岸堤、人工磯(用語解説)などに関して意見交換をした。
朝霧川以東の人工海浜の主要施設である東西および南側突堤は、設計当時の海岸構造物のための設計基準である海岸保全施設築造基準(1987)、港湾の施設の技術上の基準・同解説(1989)をもとに設計された(図 - 2.2,図 - 2.3)。
まず、これら施設を設置する水深が5〜8mとなることからケーソン(用語解説:巻末掲載)構造が適切であると判断している。その場合、ケーソンの目地部からの背後の養浜砂の流出を防ぐため、一般的な方法である防砂板(用語解説)を取り付けるよう、設計された。防砂板については、設計当時においては基準等で規格が示されてなく、その当時一般的に用いられていた防砂板を採用している。また、ケーソンは施工後、波浪や地震などの影響で不等沈下が起こる場合があり、その場合でも目地部の開きに対応できるよう、U字型の突起がついた防砂板を使用した(写真− 2.1,図 - 2.4)。
まずケーソンを載せる基礎部であるマウンドを、捨石を投入して築き、その上に大型クレーンでケーソンを据付けた。ケーソン据付後は砕石によりケーソンの中詰をするとともに、目地部に防砂板を取り付けた。その後、ケーソン背後を雑石(用語解説)により埋め立て、さらにその上に砂を養浜した。
東側突堤のケーソンは平成7年1月から4月にかけて据えられ、ほぼ同時期に防砂板も設置された(表− 2.1)。その後、7月から11月にかけて雑石が投入され、その後翌年4月から5月にかけて砂が投入されている。防砂板を取り付けた後、砂を投入するまでに約1年間の期間があったため、波浪の影響により、南側および東側突堤ケーソンの防砂板を押さえていたフラットバー(図 - 2.4参照)が緩んだ状況が確認された。そこで、養浜砂投入直前において、事故個所の防砂板も含め新たなフラットバーで補強を行っている。さらに、南側突堤ケーソンNo.4-5〜No.10-11の目地部において、防砂板背後に不織布を当て、土のうを積み上げることにより、防砂板の補強を行っている。
大蔵海岸東地区の埋立造成工事は平成8年12月には終了し、その後、人工海浜部においては明石市が週1回の定期パトロールを実施してきた。砂浜表面のくぼみ(用語解説)は、平成11年1月26日の定期パトロールにおいて、南側突堤ケーソンNo.8-9およびNo.9-10間の目地部背後で最初に発見された(図 - 2.5)。その後、平成13年1月4日に同じく南側突堤のケーソンNo.6-7間の目地部で陥没(用語解説)が見つかった。そのため、明石市は平成13年1月19日に陥没個所を掘削し、砕石で埋め戻した(図 - 2.6)。さらに平成13年1月29日には、同じく南側突堤ケーソンNo.6-7とNo.8-9およびNo.9-10目地部において、掘削し水砕スラグを入れたトン袋(用語解説)を3〜4段積にして埋め戻す対策を講じた。
その後、平成13年2月21日に南側突堤ケーソンNo.7-8目地部背後の砂浜でくぼみが発見され、さらに平成13年6月11日に今度は東側突堤ケーソンNo.11-12の目地部でもくぼみが発見されるに至った。その間の平成13年4月18日には、南側突堤ケーソンNo.7-8、No.8-9およびNo.9-10の目地部において掘削調査を実施したところ、防砂板に破れが確認されたため、目地部に新たな防砂板を重ねて設置し、砂を入れたトン袋を1段積にして埋め戻す対策を再度講じた。
その後、5,6月にかけて、ケーソンNo.7-8,8-9および9-10目地部でくぼみや陥没が発見されている。明石市は8月23日にブルドーザーにより砂浜の敷き均しを実施している。
このような相次ぐ陥没を受け、明石市は平成13年12月7日に南側突堤部背後域をトラロープ等で囲み、立ち入り禁止とした。
そして、平成13年12月30日に、立ち入り禁止とした範囲の北端から約50m離れた東側突堤ケーソンNo.17-18目地部背後の砂浜において陥没事故が発生した。
事故後において、事故個所を含む東側突堤および南側突堤のケーソン目地部付近の砂浜部を掘削し、使用されていた防砂板の取り付け状況を確認したところ、以下のことが明らかとなった。
・ 事故個所の防砂板はU字型の突起部がついたものが使用されており、ケーソン目地部にその突起部が挿入され、フラットバーでケーソン本体と固定されていた。
・ 事故部以外の防砂板については、事故個所と同様、突起部が目地部に挿入されていた個所もあったが、突起部が挿入できないほどケーソン目地部が狭い個所については、突起部が陸側に向くような形で取り付けられている個所もあった。
事故個所を含めた防砂板を取り外して、その損傷状況を確認した(図 - 2.7)。
・ 事故個所である東側突堤ケーソンNo.17-18の目地部に取り付けられていた防砂板は、平均海面付近(T.P.-0.29〜T.P.+0.05m)のU字突起部に縦方向に約34cmにわたって亀裂が発生しており(写真− 2.2,写真− 2.3)、またその周辺は厚さ1mm以下と薄く(新品で約5mm厚)、亀裂上端部周辺には径0.5mm程度のピンホールが多数あいている状態であった。また、亀裂の生じている付近の陸地側表面には細かな凹凸が無数に確認された。
・ 防砂板の海側表面には、細かい亀甲状のひび割れが生じており、カーボンブラック(用語解説)が遊離し、表面上に墨状に付着していた。
[事故個所以外の防砂板]
・ 事故個所の防砂板と同様、U字突起部に、亀裂、摩滅、欠損等の損傷個所が集中している。
・ 損傷個所は平均海面付近から、それ以下の部分がほとんどであり、損傷個所の陸側背後は雑石層部分に相当する。
・ 事故個所付近と比べ、南側突堤の防砂板の損傷が激しく、亀裂が広範囲に砂層まで及び、また欠損している部分も多い。
・ 一方、南側突堤と比べ、東側突堤の事故個所周辺については、損傷の程度は小さく、亀裂は平均海面付近の雑石層部分に集中しているものが多い。
・ 事故個所の南隣であるケーソンNo.16-17の防砂板は、理由は不明であるが他の個所とは異なり、U字型部分ではなく平坦な部分が目地部に固定されており、他の個所で見られた平均海面付近の亀裂は確認されなかった。
・ 西側突堤において砂浜から20m西に離れた埋立部分の同種防砂板を掘削により調べた結果、平均海面付近では防砂板が薄くなり、数cm程度の小さな穴が数ヶ所発生していた。
東側突堤のケーソンNo.11-12目地部に設置されていた防砂板を部分的に切除して、50倍に拡大し観察した結果、以下のことがわかった。
・ 海側表面には、細かい亀甲状のひび割れが生じており、カーボンブラックが遊離し、表面上に墨状に付着していた(写真− 2.4)。
・ 陸側表面の平均海面より上部には、細かい縦長のひび割れが生じていた(写真− 2.5)。
・ 損傷の著しい平均海面付近の陸側表面には、固いもので擦れたような細かい凹凸が生じていた(写真− 2.6)。
事故後において、東側突堤ケーソンNo.11-12の目地部で実施した加速度計による防砂板の加速度・変位観測によると、
・ 海象条件としては比較的穏やかな場合でも、防砂板のU字突起部は来襲する波浪の周期に対応して小刻みに振動している。
・ 最高波高約40cmに対し、防砂板に挿入されているU字突起部が陸側に最大約10cm前後押し戻されるような動きをしている。
東側突堤のケーソンNo.11-12目地部に設置されていた防砂板を部分的に切除して、材質を分析した結果などから、以下のことがわかった。
・ 防砂板は、最新の設計基準「港湾の施設の技術上の基準・同解説(1999)」で標準的であると示されている5mmの厚さ以上のものが使用されていた。
・ 調べた防砂板と未使用の同製品とは、ゴムの配合成分に大きな差異はなかった。
・ 未使用の同製品に対し、JIS K6251(旧JIS K6301)の「加硫ゴム物理試験方法」に従う硬さ、引張強さ、伸びおよび老化試験を実施した結果、「港湾工事共通仕様書 平成13年4月」に規定されている防舷材と同程度のゴムの材質基準を満たしていた。
事故個所付近の砂浜部およびその下の雑石部の材料について、粒度試験を実施した。
・ 砂浜部の養浜材の粒径はほぼ0.2〜10mmの範囲に分布し、中央粒径約1mmである。
・ 雑石部の材料は粒径0.2〜300mmと砂浜部粒度よりも広い範囲に分布し、中央粒径10〜100mm程度である。
事故後に実施した現地調査により以下のことがわかった(前出図 - 2.7)。
・ 事故個所の陥没の深さは現海浜地盤表面より下約2mであった。
・ 事故の個所に近い東側突堤ケーソンNo.14-15の目地部において、事故後に発見された空洞の規模・形状は、現地の測定や発泡ウレタンによる空洞の型取りを実施した結果、現地盤より下約0.6mから下方約1.4mにわたって、直径約0.8mの縦長であることが確認された。
・ 南側突堤ケーソンNo.5-6およびNo.9-10の目地部付近にも、東側で発見されたよりもやや規模は小さいが、空洞が確認された。
・ 事故に至るまでは、南側突堤周辺で砂浜表面に現れるくぼみや陥没はあったが、事故個所周辺ではくぼみや陥没は発生していなかった。
事故発生後、国土交通省が海岸管理者に指示をして実施した巡視等の結果によると、供用中の人工海浜を有する全国247地区の海岸のうち、平成14年1月4日以前に大蔵海岸以外の5地区で、陥没やくぼみが確認されていることが分かった。
さらに、平成14年1月4日以降、巡視等を強化した結果、陥没やくぼみが確認された人工海浜が、大蔵海岸以外で7地区報告されている。
これらの地区のうち、ケーソンにより砂浜を取り囲む構造形式は、大蔵海岸以外では1地区(兵庫県神戸市舞子地区)である。
全国の247地区(国土交通省所管)の人工海浜のうち、大蔵海岸以外でケーソンにより砂浜を取り囲む構造形式のものは2地区である。また、これらの2地区では、ゴム製の防砂板は採用されていない。
また、これらの2地区は、大蔵海岸の設計・施工時期にはまだ供用されていなかった。
なお、海岸保全施設以外のケーソン背後の埋立部分における陥没はこれまでも確認されているが、台風などの高波浪の直後に広い範囲で陥没が生じる場合が多く、高波浪が確認されていない時期におけるケーソン目地部分での局所的な陥没は確認されていない。
先に示した各段階での事実関係から、工学的知見に基づき、事故原因を以下のように推定した。
事故は、砂浜下に発生していた深さ約2mの縦長の空洞が、その上に載った子供(4歳の少女)1名の重みにより、陥没したことにより発生した。縦長の空洞は、東側突堤として並べられ設置されたケーソンの目地部に砂止め用に設置された防砂板が破損したため、目地部に進入した波が押し寄せるときに海水が破損部から侵入し、波が引くときに海水とともに防砂板背後の砂が破損部を通じて海側に徐々に流出して生じたものと推定された。
防砂板の破損原因は、来襲する波浪がケーソン目地部に進入し、目地部に挿入された防砂板のU字突起部が繰り返し波の力を受け、そのためにその部分が動かされ、その背後の砂および雑石と摩擦を続けたため、摩耗損傷したものと推定される。
防砂板の損傷原因は、来襲する波浪がケーソン目地部に進入し、目地部に挿入された防砂板のU字突起部が繰り返し波の力を受けるためにその部分が動かされ、その背後の砂および雑石と摩擦し続け、摩耗損傷したものと推定される。
外力が波浪である理由は、
・ 破損が激しい個所は、波の力が最も大きく作用する平均海面付近を中心とした水面下に位置する部分に集中している。
・ 防砂板に取り付けた加速度計による観測によると、波浪の周期に合わせて、破損個所が集中していた防砂板のU字突起部が往復変動していたことが確認された。
・ 対象地点の波浪は、近隣の波浪観測結果から、南西方向から進入するものが卓越しており、そのため波浪を直接受けやすい南側突堤部の防砂板の方が、波浪の遮蔽域となりやすい東側突堤部の防砂板よりも、波浪の影響、すなわち、波浪による往復変動の程度が激しく、その結果損傷の程度も激しい。
損傷が防砂板背後の砂あるいは雑石との摩耗であることの理由は、
・ 防砂板陸側のU字突起部には、堅いものと接触して削り取られたと思われる無数の細かい凹凸が確認されたこと。
・ 損傷部は波の作用により動きやすいU字突起部に集中していること(観測によりU字突起部が往復変動していることを確認済み)。
なお、防砂板の海側表面に見られた亀甲状の細かいひび割れや、防砂板の平均海面より上部に見られた細かい縦長のひび割れは、空気中や海水中に含まれるオゾンや酸素の影響によるゴムの劣化の表れと思われる。この防砂板表面の劣化が、防砂板の摩耗を促進させたと推定される。
今回の事故調査の結果、波浪の長期的な繰り返し作用によって防砂板が部分的に変動し、背後の砂等との摩擦によって損傷するという、これまで知られていなかったことが明らかになった。しかし、防砂板の損傷の度合いは場所によってばらつきがある(図-2.7参照)ため、いつ、どの程度損傷が生じるのかなど詳細に把握することはできなかった。
事故の原因とされている空洞は、東側突堤ケーソンNo.17-18の目地部に、砂止め用に設置された防砂板が破損したため、破損個所から砂浜部の砂が抜け出して生じたものと推定された。その理由は、以下のことによる。
・ 事故個所を含むその周辺で確認された砂浜の陥没あるいは空洞の発生個所がケーソン目地部のすぐ背後であった。
・ 陥没、空洞が発生していた個所の目地部に取り付けられていた防砂板には、亀裂や欠損等の砂が流出しうる損傷が見られた。
・ 防砂板が破損した場合、波が目地部から進入し押し寄せるときに破損部から海水が目地背後に侵入し、波が引く時に進入した海水とともに砂が破損部を通じて海側に流出する状況が、同様の状況を想定した水理模型実験により確認された。
・ 潜水調査により、事故個所のケーソン目地部に、防砂板損傷部から流出したと推定される砂の存在が確認された。
事故個所の空洞は、事故による空洞の崩壊によりその規模は明確でないものの、4歳の少女が頭まで埋まってしまった事故時の状況、および事故個所に近い同じ東側突堤部ケーソンNo.14-15の目地部において確認された空洞規模から、深さ2m程度、直径1m以内程度の縦長の空洞であった可能性が高い。このような形状、規模の空洞が発達した要因としては、以下のことが想定される。
・ 空洞は、周囲の砂が乾いた状態や完全に水で飽和した状態であれば崩壊しやすい。しかし、事故個所の空洞は平均海面付近から上部に発生していたことから、平均海面より上の砂層では毛管現象により不飽和層(用語解説)が形成され、砂粒子同士が引き合う力(サクション)(用語解説)が働き、その結果、空洞は崩壊しにくい状態であった。
・ 上記に加え、地盤深部の空洞は、アーチ作用(用語解説)により上層からの荷重に対して崩壊しずらく、ゆっくりとした砂の流出によって空洞が上方向へと拡大していったと考えられる。
・ 防砂板の損傷は、南側突堤と比べ、東側はその程度が小さかったこと、また南側と比べ、作用する波力が小さかったことにより、砂の流出速度が小さくなったことが考えられる。
・ そのため、防砂板の損傷程度が事故個所より大きく、砂の流出速度が速かったと予想される南側突堤では、砂の流出により砂浜表面の陥没となって現れたのに対して、事故個所では砂の流出が時間をかけて徐々に進行したため、砂浜表面が陥没しにくく、空洞が大きく発達する原因となったと考えられる。
・ 南側突堤では、高波浪時にケーソンを越える波浪の飛沫が多いため、空洞が発生しても、海水が砂浜表面から供給されることにより、空洞上部の砂が緩み、空洞は早期に崩れやすかった。その反対に東側突堤は波浪の遮蔽側となることから、そのようなことが生じにくかった。
・ 水理模型実験によると、事故個所と同じように平均水面下の雑石層部分に防砂板の亀裂が生じた場合には、縦長に空洞が発達することが確認された。
今回の事故調査の結果、波浪の影響により防砂板の破損個所から砂が抜け出し、空洞が形成され、大きく成長していることが明らかとなった。しかし、防砂板が破損している個所においても、空洞や陥没が確認された個所と確認されない個所があり(図-2.7参照)、どのような状況で空洞が発生し、成長するのかなど詳細に把握することはできなかった。
一般的には、地盤中に空洞が存在しても、必ずしも上からの荷重によって陥没が発生するものではない。しかし、事故個所においては、土砂粒子間のサクションおよびアーチ作用等によって空洞が大きく成長した結果、地盤の自重と被災者の重みに耐えられずに空洞が崩壊し地盤が陥没したと考えられる。
空洞は、その規模や位置、あるいは土質条件などによってその安定性が異なるが、具体的に陥没が発生する条件については十分な知見が無く、今後詳細な研究が必要である。
今回の事故調査を通して、大蔵海岸をより安全な海浜として復旧するためには、以下の工法が提案できる。設計に際しては、これらを参考として、万一異常が発生しても事故への進展を抑制できるよう、必要な対策を講じることが望ましい。
@ 防砂板の選定
現地状況を考慮して、適切な防砂板を選定する必要がある。摩耗を起こしやすい環境においては、波浪により変位しやすいU字型の断面形状をもつ防砂板は避けるべきである。
A 裏込材の配置と防砂シートの敷設
マウンドからの浸透波圧等による埋立土の変形や砂の吸い出しを抑えるために、大粒径の石材を使った裏込材をケーソン背面部分に砂浜表面の高さ以上に積み上げ、その背後に防砂シートを敷設することが有効である。
B
フィルター材の敷設
万一、防砂シートに亀裂等が発生しても、砂の吸い出しを抑えられるように、裏込材と防砂シートとの間に数o〜数p程度の中間粒径の石材を敷設することが効果的である。
C 砂層を薄くする
現地のケーソン周辺の砂層厚は約2.5mであるが、砂層下部を雑石もしくはフィルター材に置き替え、砂層を1m程度以内に抑えておけば、万一陥没が生じた際にも深刻な人身事故を回避できると考えられる。
D ケーソン間に目地材を充填
突堤の上面から削孔し、樹脂等の目地材をケーソン間に充填し、複合的に機能を向上させることも有効である。
今後、人工海浜がより安全で快適な空間として市民に提供されるよう、以下に示す観点から検討が進められることが望まれる。
海浜は、本来大きな波浪エネルギーなどにより若干の変形の生じうるものである。しかし、利便性と安全性の両面からの配慮が必要である人工海浜においては、目に見えないところで異常が発生しても事故への進展を抑えられるような対策の検討が重要である。また、万一陥没などの事故が発生しても、人身に及ぶ被害を軽い範囲に抑えることのできるような対策の検討も重要である。
なお、今回の事故調査により現象が明らかになった、防砂板の損傷、空洞の発生・成長、陥没の発生については、今後より詳細に工学的な検討を進めることが必要である。
海浜地は日常的に地域住民など公衆の利用する空間であるため、管理者における巡視・点検のみでは手の届きにくいきめ細かな情報を海浜利用者から募ること等により、危険な状態を早期に検知できる住民と行政の連携による管理体制の充実が期待される。
明石市大蔵海岸は、海岸保全機能のより一層の充実と合わせて、白砂青松を復元し、明石海峡大橋の人工美と海峡の自然美が調和する緑豊かな海浜レクリエーションの場の整備がなされてきた海岸である。
平成13年12月30日12時51分頃、大蔵海岸東突堤付近において人工砂浜の陥没事故が発生し、砂浜上部付近にいた4歳の女児が陥没した場所に吸い込まれ、意識不明の重体となった。
このため、本小委員会は、大蔵海岸で発生した人工海浜の陥没事故について、近畿地方整備局及び明石市より調査の依頼を受け、工学的な観点から事故の原因究明と今後の対策の提言を行うため、(社)土木学会海岸工学委員会内に設置するものである。
第1回委員会 平成14年1月12日 (於:兵庫県明石市)
第2回委員会 平成14年2月 2日 (於:兵庫県明石市)
第3回委員会 平成14年2月23日 (於:大阪府大阪市)
第4回委員会 平成14年4月13日 (於:大阪府大阪市)
第5回委員会 平成14年6月 1日 (於:大阪府大阪市)
委員長 酒井 哲郎 京都大学大学院工学研究科土木工学専攻教授
委 員 泉宮 尊司 新潟大学工学部建設学科教授
〃 宇多 高明 国土交通省国土技術政策総合研究所研究総務官
〃 島田 広昭 関西大学工学部土木工学科専任講師
〃 関口 秀雄 京都大学防災研究所教授
〃 善 功企 九州大学大学院工学研究院建設デザイン部門教授
〃 高橋 重雄 独立行政法人港湾空港技術研究所海洋・水工部長
〃 辻本 剛三 神戸市立高等専門学校都市工学科教授
〃 出口 一郎 大阪大学大学院工学研究科土木工学専攻教授
〃 名合 宏之 岡山大学環境理工学部環境デザイン工学科教授
〃 御船 直人 財団法人鉄道総合技術研究所
ISO審査登録センター審査課長
・ CCZ:Coastal Community Zoneの略称。CCZ整備計画とは、昭和62年に建設省が制定した施策で、豊かな国民生活を生み出し、海洋性レクリエーションの要望等に対応できるよう、様々な機能を備えた海浜空間を整備し、地域の人々が気軽に海と親しめる、うるおいのある空間をつくりだそうとするものである。 整備にあたっては、海岸、公園、道路、下水道などの公共事業を重点的に実施し、加えて民間活力を積極的に導入した諸施設の整備やイベントなどの開催によって海浜地域の有効利用を目指すものである。
・ 養浜:砂礫等を投入することで、砂浜を造成したり、侵食した海浜を復元すること。
・ 人工リーフ:サンゴ礁の地形のような浅瀬を人工的に石材等で海中部に造成し、波をその部分で砕かせることで波浪を低減し、海岸を越波や侵食から守る構造物。
・ 離岸堤:波消しブロックを汀線から離れた沖合いに置くことで、波を弱め、その背後の海岸を越波や侵食から守る構造物。
・ 人工磯:礫や岩などで造った人工的な潮溜まり。
・ ケーソン:コンクリート製の箱型(中空構造)の函塊であり、通常、陸上で製作して、設置場所まで浮揚させて運搬し、中空部に砕石等を投入し海底部に着底させ、設置する。複数のケーソンを並べて設置して、港湾の防波堤等を建設する。
・ 防砂板:ケーソンの目地部に設置する砂止め用の板状の製品。
・ 雑石:天然石または破砕石もので、ふるいを通さないため比較的粒径の分布が広い。
・ くぼみ:砂浜表面がなだらかな形状でへこむ状態。
・ 陥没:砂浜表面が部分的に不連続な形状でへこむ状態。
・ 水砕スラグ:製鉄所の溶鉱炉から出る溶融した鉱さい(スラグ)を水中で急冷して得られる砕石状のもの。
・ トン袋:通常の土のう袋よりも大きい袋状のものであり、土のう袋と同様、土砂等を詰めて押さえ等に使用する。土砂を詰めた場合、1トン程度の重さとなる。
・ カーボンブラック:ゴムを補強する充てん材。
・ 不飽和層:土砂の空隙に含まれている水分が負の間隙水圧をもつ状態の層。負の間隙水圧をもつため、土砂に見かけの粘着力が発生し、形が崩れにくくなる。
・ サクション:引き合う力。この場合、土砂の不飽和層内で生じる負の間隙水圧によって生じる圧力。
・ アーチ作用:緩く湾曲した構造に垂直な方向からの力が作用する場合、その力を湾曲軸方向へ分散させることで、垂直方向からの力に対して抵抗する作用。アーチ橋、アーチダムなどが、その作用を利用した構造物である。