公開シンポジウム 「新潟海岸の砂浜再生−その方策と課題−」
土木学会海岸工学委員会
海岸保全中長期展望検討小委員会
日時:2002年9月14日(土) 14:00-17:00
場所:新潟県新潟市万代市民会館
参加者:約70名
14:05-14:35 佐藤愼司 (東大)
「海岸保全の中長期展望に関する提言」
について説明
14:35-15:30 泉宮尊司 (新潟大)
「新潟海岸における課題と展望」
新潟海岸の現状
海岸侵食の3つの原因 大河津分水,新潟西港防波堤,天然ガス採取による地盤沈下
侵食対策の経緯
将来展望と3つの対策案
海岸保全施設の連続的な施工
大河津分水で土砂を本川側に流す工夫をする
寺泊から土砂を輸送する
これらの対策案を,緊急性,経済性,河川・海岸環境への影響などの観点から検討して最適案を選択すべきである.
休憩
15:45-17:00 総合討論 司会:高木利光 (アイ・エヌ・エー)
総合討論冒頭での話題提供
「地質学的に見た越後平野の形成過程について」
卜部厚志(新潟大学)
新潟平野(越後平野)には10列の砂丘列があり,それらは大きく分けて3つの時代に分けて発達した.
信濃川からの莫大な土砂供給により新潟平野が発達した.その過程は,バリアとその背後のラグーン(砂丘と潟湖)の形成としても解釈することができるし,河口デルタ(三角州)の発達としても解釈することができる.
味方排水機場の地中19mの地点には古砂丘の跡と思われる地層がある.
現在の砂丘列は約2500年前に完成した.
新潟平野は平均値として,3mm/年の速度で沈降し続けている.地球規模の温暖化で海面上昇が危惧されるなど,地質学的にみても海岸線がさらに後退する要素が多い.
「日本海夕日キャンペーン」
津吉孝司(同実行委員会代表)
五十嵐浜の砂浜を利用して無料コンサートを開催している.
利用にとって砂浜は最適であるが,近年砂浜が狭くなって残念である.コンサート会場の設営にも影響を受けている.
新潟市民には,海岸に対する愛着がある.「佐渡まで自分たちの土地である」「海は生命の母,命の源」「夕日が似合う新潟海岸」などの声がコンサート参加者から寄せられている.一方で,「冬の海は怖い」「消波ブロックでやっと守られている新潟島」という声もあり,高波や侵食の厳しさも認識されている.
一般市民と行政関係者,技術者,研究者のコラボレーションによって,かけがえのない砂浜を再生したい.
総合討論
長期的な地殻変動は、海岸の侵食に影響しているのか?
数百年、数千年単位の長期的な地殻変動は、現在生じている新潟海岸の侵食にはほとんど影響していない.明治以後の環境改変の影響が大きい(佐藤).
治山事業が進めば海岸に供給される土砂は減ると思われるが、やはり海岸侵食に影響を及ぼすのか?
治山事業により流出土砂が減れば海岸侵食の要因にはなる。しかし、土砂を流してしまうと河床が上がり、洪水の流下に問題が出るなど別の問題が発生するので難しい(泉宮)。
消波ブロックを設置したことにより、返り波(反射波?)が発生し、そのことがかえって砂を流出させているのではないか?
その地点の状況にもよるが、消波ブロックは、その設置を適切に行えば、背後の静穏域に砂を堆積させる効果がある.消波ブロックの設置がなければ,新潟島(信濃川河口から関屋分水路に至る海岸)の一部はさらに消失していたであろう.海岸に沿って高い砂丘列が存在したことも侵食を最小限に食い止めるのに大きく貢献した.(泉宮)
森林保全と海岸環境の関係は?
森林を保全することは、そこから流れ出る川から海へ栄養源がもたらされ、生物種の豊かな沿岸域が維持されるという効果もある(泉宮)。
冬の海が好まれないという海岸利用者の意見があったが、その背景は?
おそらく波が強く、怖いというイメージのせいであろう。また、浜茶屋は夏季限定である。ただ、冬の夕日も見てもらいたい(津吉)。
今行われている対策は短期的なものではないか。日本海の高い波のエネルギーを利用できるようなもの、例えばそれらをコンクリートのブロックで必死に守るのではなく、そのエネルギーを利用するような、長期的な夢のある対策はないのか。ただし、完全にエネルギーを吸収するとまた他に影響が出るであろうから、ある程度のエネルギーのみを吸収するようなものを考えてはどうか?
初期の海岸侵食対策は短期的な対応しかできなかったが,現在では長期的に土砂の移動を制御して海岸を防護する対策も実施されている.波力エネルギーの利用については以前から検討されているが、もたらされる便益に比べてコストが高いので,離島などを除いて実用化は難しい状況にある(佐藤)。
エネルギーを作る面から見た場合には、確かに電力会社よりはコストが高くつくかもしれないが、既に施設は海岸を保全するために効果を発揮しているのだから、その施設にエネルギーを生み出す付加機能をつけるのは、プラスアルファの効果とみれるのではないか。そのような夢のある施設を作れば、子供たちも海岸に興味をもつようになるのではないか。
是非、そのような夢のある海岸を実現していきたい(佐藤)。
地質学的に見ても、海岸線が前進する要素がないのは残念なことであるが、場所的に地盤の沈下量は推定できるのか? できるのであれば,長期的にみて必要な養浜量が推定でき,長期計画を立てる際の目標になる(佐藤).
新潟平野の平均地盤沈下量は3mm/年であり、場所的な変化も推定可能である(卜部)。
自分は小学校の教師をしているが、海岸侵食に対して自分達一般の市民にできることは本当にあるのだろうか? 子供たちには何を伝えれば良いか?
このような侵食の実態を正しく理解することで、その場所だけでなく、全体を見る広い視野を養うことの重要性が共通の理解となる.それを土台として、侵食対策を進めるにあたっての合意形成に加わって頂くことが大事だと思う(佐藤)。
砂浜ができることはいいが、今度は冬季風で飛砂が生じ、住民から苦情が出る。このようなことに対しても、合意形成と言う面で砂浜の必要性を理解していただきたい(行政担当者)。
松林の保全が十分されていないため、飛砂の被害が発生している。そのような問題に対しての研究はなされているのか?
飛砂対策として、植生や保安林の効果などは研究されている。飛砂量の低減効果なども計算できる(泉宮)。
合意形成は事業の計画や実施にあたり必要であるとされているが、実際になされているのか。また、住民は立場が弱いので、ある程度行政がイニシアティブを取っていくべきと思うが、どうか?
合意形成と言う考え自体歴史が浅いので、これから皆さんと一緒に考えていきたい。海岸事業を実施している行政機関では、ホームページなどを通じて情報を発信し、一般の人からの意見を聞く場も設けている。各行政機関のホームページなども見て欲しい。(行政担当者)
失敗事例の公開など、情報公開がしっかり出来ていないと、不信感ばかりがつのって合意形成は得られないのではないか?また、海岸の事業に対しての合意形成は漁業者だけで済まされているように見えるが、それでよいのか?
情報公開と合意形成に対しては、未だ対応が十分でない点もあるが,法律の改正などにより推進のための枠組みは整えられているので,今後地域住民,一般市民がますます力を持つ方向に進むのは間違いない。ただし、同時に自己責任もますます重要となってくるため、自然現象や各種対策についての正しい知識を共有する必要がある。学会においても、最先端の研究を進めると同時に、正しい知識の発信を含めて広く社会と連携していく必要がある。今回のシンポジウムのような場を積極的に活用して、砂浜再生の動きを全国的に展開して行きたい。(佐藤)
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Strategy on Beach Preservation, Coastal Engineering Committee, JSCE, 2002-9-14