公開シンポジウム 「明日の仙台海岸を考える」
- 日時:2002年4月21日(日) 13:00-16:00
- 場所:宮城県仙台市戦災復興記念館 5階会議室
- 参加者:約50名
- 13:00-13:35 佐藤愼司 (東大)
- 「海岸保全の中長期展望に関する提言」について 説明
- 13:35-14:35 真野明 (東北大)
- 「仙台海岸における課題と展望」
- 仙台海岸の現状
- なぜ砂浜海岸は災害に強いのか
- 沿岸漂砂のメカニズム
- 松川浦漁港,荒浜漁港,閖上漁港における沿岸漂砂の遮断
- 阿武隈川からの土砂供給 洪水時の浮遊砂観測
- 阿武隈川河道からの土砂採取
- 将来展望
- 阿武隈川から南の海岸 ヘッドランド+養浜で静的安定へ
- 阿武隈川から北の海岸 阿武隈川供給土砂の活用 荒浜漁港でのサンドバイパス
休憩
- 14:45-16:00 総合討論 司会:田中仁 (東北大)
総合討論冒頭での話題提供
- 「地形学的な仙台湾の形成過程について」 松本秀明 (東北大)
- 自然の摂理の観点から考えると、崖海岸の侵食は自然状態であるが、 砂浜海岸の侵食は自然の摂理に反しており、問題視されるべき事項である。
- 仙台湾は5,000年程度(海水面がほぼ現在の位置になった後)前から、阿 武隈川からの供給土砂および福島沿岸からの沿岸漂砂により汀線が前進しつ
つ形成されてきた。
- 上記については、浜堤列の位置と形成年代を把握することにより確認さ
れ、堆積(汀線の前進)速度は0.4m〜1.5m/年程度である。3列の浜堤列は, それぞれ約5000年前,約2000年前,約700年前に発達した.
- 「ゴミ問題に関する取り組みについて」 伊藤実 (クリーンアップ蒲生)
- 毎年全国200箇所程度で浜のゴミに関する調査を実施しており、仙 台海岸でも数箇所で実施している。河川近くのゴミの量は、各河川の流域人
口に比例している傾向が見られる。九十九鳴浜ではゴミにより鳴き砂が鳴か なくなっている.
- プラスチック粉砕片についても海域ではどんどん増加していることが報告 されている。仙台海岸における砂浜での調査では増加傾向は伺えないが、今
後調査を続けていくことにより実態が把握できると考えられる。
総合討論
- 供給土砂が減少した状態で平衡となる海岸を目指した場合、沖合いへの流出土砂も減少することが予想されるが、その場合、いろいろな面で問題とならないのか。
- 小委員会で議論しているのは波による移動限界水深相当の水深20m 程度までの領域である.さらに沖合への土砂損失量は充分に把握できていな
いのが現状である。また、海底への土砂供給がなくなる影響はこれからの検 討であるが、生態系等への影響が考えられる。
- 海面上昇の問題については、小委員会でどのように取り扱うことを考えているのか。
- 現段階では、温暖化の影響による水位上昇よりも、例えば海流の変 動等による水面変化の影響が大きく、温暖化の影響を定量的に把握すること
は困難と考えられる。上昇量の予測精度を高める努力をはかる必要がある.
- 海岸法が策定された当時(昭和30年代)、自然の砂浜の管理をどこが管理するかという問題があったが、その当時も砂浜が防災の機能をするという観点から、建設省で管理する経緯があった。海岸法改正の理念や今回の提言の内容をみると,第一線で国土を守る砂浜の機能が積極的に評価されており,当時の判断が妥当であったと考える。
- 沿岸方向への漂砂を含めた連続性について考慮することには基本的には合意する。しかし、漁港利用者からすると、岸沖方向の利用が前提となる。沿岸方向の堤防の高さ等も含め、その海岸を利用する立場からの海岸防災の在り方も考慮してほしい。
- 地域の個性を殺さないようにすべきである。ただし、今までは、あ まりにも局所的効率化を目指しすぎていたのではないか。全体を見る考え方
が必要と考える。
- 仙台海岸南部ではヘッドランド工法で静的安定を目指すとしているが、沖向き漂砂は考慮しなくて良いか。静的な平衡状態は本当に存在するのか?
- 時化時には沖向きに漂砂が移動するが、その後、岸に戻り、長期的 には岸沖はつりあっていると考える。しかし、さらに長期的に見ると一定量
の維持養浜は必要と考える。
- 海域のゴミの問題には大変関心を持っている。有明海では本来住んでいる生物に深刻な影響が出ている。陸域の生活環境のツケがすべて海に出ている状態である。今後、有明海以外の内湾でも同様な状態が発生するであろう。強力な行政指導が必要ではないか.
- 日本では規制されていても、海外でPCBが使われており、それを 含んだゴミが流れ着くなどの問題がある。また、船底の塗料の問題などもあ
る。
- 戦後50年間を地理学的スケールで見た場合、人間が及ぼした影響と自然に生じている過程とではどちらが卓越したと考えられるのか。
- 例えば、海面上昇については、過去5000年間で安定しているといっ ても2m程度の振幅はある。今後は下がる傾向にあるから、温暖化による海
面上昇はそれほど問題とならないとも考えられる。
- また、過去の陸域に残された浜堤の位置をその時の汀線位置とし、 海水面変動との関連で見た場合、土砂の供給が十分にあれば海面は上昇して
も浜は前進しているため,自然海岸では海面上昇の影響は小さい。
- 新海岸法は防護、環境、利用をうたっているが、仙台海岸で計画しているヘッドランド等の海岸施設は、海岸環境にどのように配慮しているのか。
- 砂浜が復活すれば砂浜に住む生物が復活する。また海岸を散策するなどの 利用にも可能となる。川から出たゴミが砂浜に打ちあがることで、ゴミの回
収が容易となり、海域の清掃効果もある。また海浜植物が生息可能となった り、ラグーン等の形成にも漂砂は寄与することから、そこに住む様々な生物
にも良い影響を与える。
- 「海岸保全の中長期展望に関する提言」の内容は理念的には正しい.これを実現するためには,地質・地理学,水産分野,環境などの従来の海岸工学以外の分野も視野に入れて、海岸保全を考えることが重要である。
河北新報記事(4月22日版)
砂浜の環境守ろう 仙台でシンポ
「明日の仙台海岸を考える」と題したシンポジウムが21日、仙台市青葉区の仙台市戦災復興記念館で開かれ、砂浜の環境保全について、学識経験者らが意見を交わした。
土木学会海岸工学委員会などの主催で約50人が参加した。東大の佐藤慎司教授は「全国では年平均で約1・6平方キロメートルの砂浜が失われ、1000年かけてつくられた地形が20年で変形してしまう。油流出事故、生態系の変化などもクローズアップされている」と問題提起を行った。
東北大大学院の真野明教授は航空写真を使い、1963年と99年の阿武隈川河口周辺の侵食状況を報告。「川の南側は放置すると侵食は進む。沿岸の漂砂量を抑えるためにはヘッドランド(人口岬)の設置が有効だ」と強調した。
宮城野区の市民団体「クリーンアップ蒲生」代表の伊藤実さんは、七北田川河口付近の清掃活動を通じた経験から「最近はプラスチックのごみが目立つ。プラスチックは自然分解するのに400年以上かかる。安易に捨てないでほしい」と訴えた。
2002年04月22日月曜日
Strategy on Beach Preservation, Coastal Engineering Committee, JSCE,
2002-4-21