序文 (岩崎敏夫,昭和45年11月) 狭い国土に稠密な人口を擁し,乏しい資源より高い生産を挙げることを可能 ならしめたのは,わが国が面積の割りに比して長い海岸線を保有しているた めであり,臨海地域の開発はそのまま生産量の増加をもたらした.これに対 し,自然災害は開発の効用に対立する意味で取り上げられて来たと考えられ る. 海は広大であって,生産に伴って生ずる廃棄物の自然的な処理場であると考 えられてきた.しかし今や海は未処理の廃棄物のために黒く濁り,港はヘド ロの放つ悪臭に満ち,船は港に近よらなくなるという事態が生じてきた.公 害は海岸工学に大きな問題を提起しているといえよう. 技術は常に新しい課題を見出だし,従来の手段にとらわれない新しい方法で 解決することを要求する.このことは公害についてもいえることであるし, また,海洋開発との関連についてもいえることである.今日ほど海岸工学が 従来の型にはまらないが,現実的で論理的でかつ創造性に富んだ研究企画を 必要とする時期はないといっても過言ではないであろう. さて海岸工学講演会も今回は第17回目を数え,とくに発表論文数は65編にお よび,新たに参加された部局も二,三にとどまらない.つぎに,海岸工学委 員会では1年間にわたる慎重審議と,関係方面の了解のもとに,従来の海岸工 学講演会講演集を海岸工学講演会論文集の名称に変更した.これは過去16回 にわたる本講演会提出の論文内容の質的水準が高く評価されたためと考えら れる. さらに9月にはアメリカWashington, D.C.において第12回国際海岸工学会議が 開催された.このような内外にわたる海岸工学の発展は御同慶に耐えないが, 上に述べたような方向で今後さらに努力が払われて行くのではあるまいか. おわりに今回の講演会に論文を発表された諸氏に敬意を表するとともに,会 場,見学会,懇親会などの準備に努力を払われた運輸省第一港湾建設局,建 設省北陸地方建設局,新潟県,新潟市など地元の諸官庁の諸氏および講演集 の編集印刷のために尽力された海岸工学委員会編集小委員会および土木学会 編集課の方々に厚く御礼申上げるものである.