序文 (細井 正延,昭和51年11月) わが国の社会活動,生産活動の高度成長の過程で,海岸スペースの開発も著 しく進展し,その結果災害のポテンシャルも急速に増大してきており,海岸 工学の対象は量的にも質的にも大きな変化を見せつつあるが,今後もなお予 期しないような新しい課題がつぎつぎと現われてくるであろう.ここ20年間 を振り返ってみると,たとえば伊勢湾台風時の被害にかんがみて河口部およ び港湾の高潮対策や海岸堤防の構造などが問題になり,またチリー地震津波 の発生によって海岸地形と津波の性状との関係が明らかにされ,そして新し い津波防御対策が提案されたり,あるいは河川流域の開発によって全国諸所 の河口周辺の海岸に発生した大規模な侵食現象が検討された.そのほか水質 を対象とした海域の環境間題,シーサイドリゾート施設の造成,水産資源の 保護・開発の方法,海洋開発におけるステーションの設計・施工などの問題 に対する海岸工学的研究など,つぎつぎに課題が提起され研究が行われてき たし,今後もさらに未知の分野が開かれてゆくであろう. 今回,本論文集に搭載された論文数は昨年より16編も増えて113編であり,そ れを所属機関別にみると,官庁と民間を加えた編数が大学のそれとちょうど 同じになっている。従来は大学関係者の方が上廻っていたが,次第に現場関 係者の数が増えて,ついに本年初めて両者が同数となったわけである.現場 に存在する問題点をとらえ,まだ現地の調査資料が提供され,研究が行われ た成果が現場に還元されて,相互に有機的関係を保ちながら研究が推進され うる態勢にあることを認識して,まことに心強い限りである.まだ,論文数 が増加することは大変喜ばしい現象であるが,他方には頁数の増加による論 文集価格の上昇,編集事務量の増大,講演会場のやりくりなど多くの困難を かかえている.本年から1編当り6頁を限定とし,また裏白をつくらないよう にして全体の頁数の増加を極カ抑えたのも,このためである. 本年7月11日より7日間にわたりハワイのホノルル市において第15回海岸工学 国際会議が開催され,27か国から約450名が参加し,提出論文は275編の多数 にのぼった.次回は2年先に西ドイツのハンプルク,1980年にはオーストラリ ヤで開催されることが決定している. おわりに,この福岡市での講演会は当委員会と士木学会西部支部の共催で行 われるもので,3日間にわたる会場の設営,懸親会,シンポジウムの準備を引 き受けて下さった九州大学の方々や地元の関係官庁のご後援に心から感謝す ると共に,諭文集の編集に大変苦労された当委員会論文編集小委員会及び土 木学会事務局の方々に厚く御礼を申し上げる.