序文 (井島武士,昭和53年11月) 昭和29年11月,神戸市において我が国で初めての第1回海岸工学研究発表会が 行われ,翌昭和30年土木学会に海岸工学委員会が設置された.そして第2回海 岸工学講演会が東京において開かれ,以来年1回の講演会が続けられて今回に 及び,第25回ということになった. 第1回から数えるとちょうど4半紀を迎えたわけである. 第1回と第2回の論文発表数はそれぞれ16篇および19篇であったが,年と共に 増え続けて今回は130篇もの論文が発表されることになった,この間の変化を ごく大雑把にふり返って見ると,最初の10年位は海岸防災の立場から波と標 砂の問題が多く取りあげられた基礎固めの時期であったと思われる.その後 の約10年位は我が国が高度経済成長の波に乗って建設に熱中していた最中で, 海岸工学の研究面においても防災から開発への意識転換が起り始め,新しい 着想と応用的な研究が大胆に取り上げられたように思う.この時期の最も大 きな出来事は研究面への電子計算機の導入である.これによって海岸工学の 研究手法は理論的に一段と精密になり,従来の未解決問題への再挑戦と新分 野の展開が極めて括発に行われるようになった.また,この電子計算機は数 学解析が苦手な土木技術者にとって,天与の魔法のように堅固な理論式の中 に開じ込められていた秘密を解き明かす喜びを教えてくれたものでもある. しかるに,最近は経済成長の影響が公書や環境破壊の形で現われるに及んで, 海岸工学はいままで経験しなかった生物学や化学の分野にわたる問題にも対 応しなけれぱならず,従来の力学的手法の中にのみ閉じこもることができな い時代を迎えているように思われる.若い研究者の方々の意欲的な努力に期 待するものである. 今回は運輸省第二港湾建設局,同港湾技術研究所を始め地元関係各位の御支 接により,この横浜市において意義深い第25回の講演会を盛大に開催するこ とができることを深く感謝し,厚く御礼申し上げる次第である.