序文 (堀川清司,昭和54年11月) 海岸工学が,アメリカ合衆国において土木工学の新たな一分野として創設さ れたのは1950年(昭和50年)のことであり,間もなく30年を経過することにな る. この動きを受けて,昭和29年に神戸市で士木学会関西支部の主催により海岸 工学研究発表会が開催されたが,これに引き続いて土木学会に海岸工学委員 会が常置委員会として設置され,その活動を開始した.その目的は当初次の 2つであったと考えられる.第1は,昭和31年に海岸法が施行されるにあたっ て,各省庁共通の技術基準を作成する必要があり,その前段階として海岸保 全施設設計便覧を編集することであった.第2は,海岸工学の普及とその研究 の振興のために講演会を開催することであった.前者に対しては,昭和32年 に刊行され,これはその後作成された『海岸保全施設築造基準』に反映され た.更に,この設計便覧は昭和44年に改訂された.後者に対しては,神戸市 での研究発表会を第1回海岸工学講演会とみなし,その後講演会を毎年開催し て,今年は第26回を数えるに至った.講演会で発表された論文は講演集,論 文集に集録されており,その編数1554編にも達し,まさに壮観と称しても過 言ではないであろう.これらの研究成果は海岸工学上の工学技術の進歩に著 しい貢献をしてきたものと推測される. 更には国際的な学術交流が重要であるとの認識から,英文論文集『 Coastal Engineering in Japan』が昭和33年より刊行され,現在はVol.22の編集が進 行中である. 以上のように,海岸工学委員会は過去25年の間に実に多くの成果を挙げて来 たのであるが,これは初代 本間 仁委員長をはじめとする歴代委員長を中心 に多くの委員が献身的な努カを傾けてきた賜物である. 講演会で対象とするテーマも,当初の防災,海岸保全から,次第に社会状勢 の変遷と共に拡大され,今や海岸環境の整備から,海洋工学関連までの広範 囲を包含するに至っている.また海岸工学に従事する研究者,技術者の層も 驚異的な程に増大し,国内での活躍は言うに及ばず,国際場裡においても, われわれの占める役割は一段と高くなってきている. このような動向は,われわれにとってまことに喜ばしいことであるが,一方 において本委員会としては,講演会の運営上,また論文集の印刷業務上,ほ ぼその限界に達してきたことも事実である.過去数年の間,委員会において, これらの問題について繰り返し検討を重ねつつも,情勢を見守ってきたので あるが,いよいよ具休的な行動を起こすべき時期に来たように思われる.し たがってわれわれは,従来の良き伝統は極力推持しつつも,講演会の運営方 針について基本的な見直しをする必要に迫られている.これらの問題につい て,委員はもちろんのこと,講演会に参画して下さる各位からの積極的な御 意見を期待したいし,また御協力を切にお額いする次第である. 今回第26回の海岸工学講演会を鹿児島市で開催するにあたっては,地元であ る鹿児島大学工学部海洋土木開発工学科の教官各位の絶大な御尽力をたまわ った.また論文集の編集の,印刷,校正にあたっては,海岸工学委員会論文 集編集小委員会委員ならびに土木学会事務局担当者の献身的な努力に負う所 が絶大であった.ここに,これら関係各位に対して深甚な謝意を表わする次 第である.