序文 (椹木 亨,昭和58年11月) 昭和29年11月に,神戸において第1回目の海岸工学講演会が開かれてから本年 で丁度30回目の講演会を迎えることになり,当初防災科学を主体とした海岸 工学も,海面の利用とそれにともなう海域環境の変化に関する研究,さらに はその管理技術の進展を目指すというように変りつつある.このように,新 しい工学体系として認識されてきた海岸工学も30年という年輪を経ることに よって,周囲の情勢に対応した次世代の構築へのスタンスが必要であること は,昨年の掘口前委員長の序文にも述べられている通りである.“30にして たつ”という言葉は一人の人間の経世過程において古くから言われているこ とであるが,30年は確かに学問の進歩発展の上からでも,一つの節目である ことには間違いなかろう. 振り返ってみれば,昭和29年の第1回海岸工学講演会において,大学院修士課 程の一年生であった私は,16人の先生方から従来講義では聞けない新しいお 話を直接耳にする機会を得た幸連な一人であったわけであるが,自分が将来 においてもこの海岸工学を専攻し,30年後にこの海岸工学を新しいスタート 台に乗せるための記念事業を主催するとは思ってもみなかった.いまこの序 文を書くに当って,当時の講演会論文集(その時は海岸工学研究発表会論文集 といっていた)を紐解いてみると,既に御他界された先生方のお名前が多いの に驚くとともに,この30年間の重みをひしひしと感じざるをえない.先に述 べたように16編から発足したこの講演会の論文数も本年に到っては応募論文 189編にものぼった.残念ながら数年前から実施している登載論文120編前後 という登載論文の限定のために,約30%の論文が本講演会では発表されない 状況ではあるが,30周年を迎えるに当りこのように本会の隆盛をもたらして いただいた先輩諸先生方に改めて深甚の謝意を表する次第である. この飛躍すべき30周年を記念して,昨年度より記念行事を行ってはという意 見が海岸工学委員会の内部にあり,本年度の委員会において特別記念講演, 委員会の変遷と海岸災害の年表作成等が決定され,その他の事業も現在検討 中である.このうち,特別記念講演については,海岸工学委員会の初代委員 長としてこの海岸工学講演会の育成に長年にわたって御尽力頂いた東京大学 名誉教授の本間 仁先生ならびに委員会創設当初より委員として御活躍頂き, また委員辞任後は委員会の相談役として委員会の活動を温かく見守ってい ただいた北海道大学名誉教授の福島久雄先生に本講演会の席上御講演項くこ とになっている.さらに委員会の変遷と海岸災害の年表については服部幹事 長以下数名の委員の御努力によって本講演会論文集に併わせて載せられてい るので御参照して預きたい.この年表においてもお判りいただける様に,海 岸工学は当初から現場(災害復旧)に密着した研究が主として行われ,その精 神は現在の海岸工学講演会論文集においても受けつがれている.このために 本論文集は現場と研究室とを結ぶ太いパイプとして利用して預きたいと念願 している. 以上30周年記念にあたって記念事業の一端を御紹介させて預いたが,同時に この記念すべき講演会を御当地室蘭において開催するにあたって絶大な御後 援を頂いた土本学会北海道支部,室蘭工業大学をはじめとした地元各関係機 関の方々に深く感謝するとともに,本講演会論文集の作成に御努力頂いた論 文編集小委員会の方々にも御礼申し上げる次第である.