序文 (椹木 亨,昭和59年11月)

昨年30周年を迎えた海岸工学講演会が,本年は144編という登載論文で新しい
段階に進展してきたのは御同慶のいたりである.本年9月アメリカ,ヒュース
トンで開かれた国際海岸工学会議で選抜された論文数においても,日本から
45論文の多数を数えたことは,わが国の海岸工学研究の質の向上が国際的に
も認められた証査であり喜ばしい限りである.また海岸工学講演会論文集を
母体とした英文のCoastal Engineering in Japanについても,Coastal Engineering in Japan
査読小委員会の方々の努力によって諸外国から大きな評価をうけ,オランダ
のElsiver社から販売したいとの申入れを受けるまでにいたったことは,日本
の海岸工学のポテンシァリティが高く評価された結果といってよいであろう.

本年は世界にも稀な本格的な海上空港となる関西国際空港建設のための新し
い会社が発足し,今後益々われわれの海岸工学の知識が実際の建設に必要と
されることと思われる.この海上空港建設以外にも各地で21世紀に向かって
の多くの計画が樹てられているようであるが,それはいずれも海の空間利用
であり,そこにはまた現状の環境変化が伴ってくる.このような海の環境変
化に最も敏感なのは,海を住居としている生物であろう.海の環境変化を研
究する研究者は,われわれ海岸工学研究者にも多数あるが,それがどのよう
に海の生物に影響を及ぼすかといった研究は全くみあたらない.今後の海岸
工学では,やはり生態学をも含めた新しい観点からの研究が必要となってく
る.その為には単に工学の分野のみならず,他分野との協力による研究成果
が,この講演会においても発表されることが望まれる.

この他,上述の様な大規模工事の着手に伴い,多くの新しい技術が開発され
ていくであろう.従来海の工事に対する新しい技術開発は他の分野に比較し
て極めて遅々たるものがあったが,これらの新しい技術開発に関する論文が,
本論文集に投稿されることが期待される.

この様に海岸工学研究の将来への期待は極めて大きいが,さらに現在の学生
及び現場技術者に海岸工学に対する理解を深めるべく,海岸工学委員会では
昨年度より30周年記念事業の一環として海岸,港湾の二部にわけて,スライ
ド集の編纂にとり組んでおり,近々皆様に御披露できる予定である.その節
には是非皆様の御協力をお願いし,今後益々の発展を願うものである.

最後に本年の講演会を開催するに当って絶大な御後援を頂いた土本学会関東
支部,中央大学をはじめとした各関係機関の方々に対して深く感謝するとと
もに,本講演会論文集の作戒に仰努力頂いた海岸工学講演会論文集編集小委
員会の方々にも御礼申し上げる次第である.


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