序文 (服部昌太郎,昭和63年11月) 本年6月20日より5日間,スペインで開催された第21回海岸工学国際会議には アメリカの104名に次ぐ65名がわが国より参加し,50余編にのぼる論文発表が なされた.また,今回の第35回海岸工学講演会には250編にのぼる論文・報文 の応募があり,論文採択率は68%とまだ非常に厳しいものの,採択論文数はこ れまでの講演会のなかで最高の171編となった.この様にわが国の海岸工学に おける研究活動は極めて活気に富み,その成果は国際的にも高く評価されてい ることは誠にご同慶のいたりである. 大現模な沿岸域の開発利用構想と共に,防災機能に加えて海岸の積極的な利 用を意図した各種の海岸構造物の開発と施工などの解説がより頻繁に報道機 関に取り上げられている.空間利用としてのウォーターフロント問題への国 民的関心の高まりにともない,海岸工学の新たな活動分野が開かれているこ とも明らかである.しかし,この一年の間に発生した冬期の低気圧と台風の 暴浪による防波提の大規模被災やこれまでと異なった形態の構造物の破壊な どは,海岸・港湾構造物設計の体系化がほぼ完成の域に近づいていると考え ていた多くの海岸工学関係者に,大きな問題を投げかけたものと言える.設 計・施工技術の高度化にともなって沿岸利用の大水深化と設計の合理化とが 進むに従い,これまでまだ十分に解明されていなかった,あるいは我々が問 題視していなかった何かがこれらの被災に関係しているものと考えられる. われわれはこの自然界の警告を謙虚に受け止めるだけでなく,この様なとき にこそ海岸災害防止のもつ重要性を再確認すべきである. 海岸工学委員会より推挙し,5月27日に行われた土木学会第74回通常総会で名 誉会員となられたM.P.O'Brien教授が,7月28日にニューメキシコで85歳で ご逝去された.P. O'Brien教授は海岸工学の生みの親であるだけでなく,わ が国の海岸工学の進歩に絶えず関心をもたれ様々なご援助を下された.ここ に,P. O'Brien教授のご冥福を喪心よりお祈りしたい.今回の海岸工学講演 会にP. O'Brien教授の最後の職場であったフロリダ大学のDeen教授を招聘し, P. O'Brien教授の土木学会名誉会員推挙状をご遺贈すると共に,同教授の特 別講演をお願いすることとなった.海岸工学委員会の要請を快くご承諾下さ れたDeen教授に心より謝意を表する次第である. 終わりに,講演会の開催に当たり絶大なるご支援をいただいた土木学会中国 四国支部,愛媛大学をはじめとする地元各関係機関の方々に対し心より感謝 する.また,講演会論文集の編集にご努力下された論文査読小委員会並びに 編集小委貝会の委員と学会事務局担当者に厚くお礼申し上げる.