序文 (首藤伸夫,平成2年11月)

1990年は,国際防災の十年の最初の年である.そもそもの始まりは,1984年
第8回地震工学会議の基調講演における,フランク・プレス米国科学アカデミ
ー会長の提案である.1987年9月には,中曽根首相が第42回国連総会演説で,
防災問題の重要性に言及した.その年の12月,日本,モロッコを主提唱国と
する93カ国が共同提案し,国際防災の十年は国連総会において全会一致で可
決された.更に1988年第43回国連総会では,国連加盟国159カ国の内141カ国
が共同提案国となり,国際防災の十年に関する決議案が再び採択された.こ
れらをうけて本年の秋には,開始を記念する会議が横浜と鹿児島において盛
大に開かれたのである.

国際防災の十年とは,20世紀の最後の十年の間に,世界中の自然災害の防止
と軽減を目標として,これに賛同する国々,諸機関,人々が互いに努力しよ
うという国際運動である.21世紀の人類に,より安全な地球を残すための枠
組みを,今世紀中につくることをめざしている.活動の主な柱は二つである.
各国各機関が防災の実をあげるための自助努力を推進すること,及びその余
裕の無い発展途上国への技術移転である.

我が国の海岸防災技術は,伊勢湾台風,チリ津波を契機として,ここ30年の
間に格段の進歩を遂げ,各国から熱い期待の目を注がれるようになっている.
この国際防災の十年では,重要な貢献をなすべぎであろう.

それと同時に,自らの足元をも注意深く見直さねばなるまい.我が国の重要
な沿岸防災計画の中には,昭和30年代につくられ,それが見直されないまま
踏襲されて現在に至っているものが少なくない.当時の計計画手法のいくつ
かは,今日ではもはや通用しないものである.しかも,その根拠を理解しよ
うとしても,これを明確に記した書物さえ容易には見つからない事態となっ
ている.防災計画がしょっちゅう変わるのは不安で困るという考え方ば十分
理解できる.しかし,その反面,この30年の進歩の結果が国民のために役立
てられていないというのは,もっと因った事ではなかろうか.最近,ウォー
ターフロント開発が叫ばれているが,ここらで新しい技術や実測結果の集積
を活かしながら沿岸部の防災計画に再検討を加え,安全性の確保と向上を図
るべきである.

今回の講演会にあたっては,八戸工業大学を始め青森県,八戸市,建設省八
戸港工事事務所等地元の方々に,大変お世話になった.厚く御礼を申し述べ
たい.また,論文査読者,海岸工学編集小委員会,学会事務局,あるいは業
界案内を通しての御支援を項いている各社にも,感謝の意を表したい.こう
した方々の不断の御協力があればこそ,海岸工学研究の進歩が支えられてい
ることを,毎回確認している次第である.

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