序文 (合田良実,平成4年11月)

本年度の海岸工学講演会は,本土復帰20周年の節目にあたる沖縄で第39回を
開催することとなった.沖縄は琉球王朝時代から独自の文化を持ち,中国や
東南アジア諸国との交易を通して豊かな国際性を育ててきた土地である.人
々の暮らしのなかで海との絆が深く,また海岸線には随所に珊瑚礁が発達し,
マングローブ樹林が繁る場所も多い.一方,強烈な台風による高波やサーフ
ビートの諸現象など,本土とはスケールの異なる問題もある.工学の問題は,
現地を訪れ,生の情報に触れて初めて現実のものとなる.今回の沖縄での海
岸工学講演会を契機として,海岸工学の分野がさらに広がることを祈念する
次第である.

さて,本年6月にはリオデジャネイロで「環境と開発に関する国連会議(地球
サミット)」で開催され,地球の自然環境の保全ならびに経済産業活動の及ぼ
す環境影響の問題が大きく取り上げられた.フロンガスによる成層圏オゾン
層の破壊や,大気中の二酸化炭素蓄積による温度・海面上昇の問題は新聞等
でもしばしば報道されている.特に後者については,海岸工学委員会でも「
地球規模環境研究小委員会」を設けて調査・研究を進めており,先般,中間
報告書を取りまとめたところである.また,土木学会全体としても,海岸工
学委員会を含む8常置委員会を横断する「土木学会地球環境委員会」が平成4
年度から発足し,記念シンポジウムの開催を始めとする活動を精力的に開始
した.

地球環境の間題は,従来のような開発と環境保全の二者択一ととらえるべぎ
ではなく,人類全体が快適な暮らしを享受するための戦略・方策を編み出す
工夫が問われている.人間の手をまったく加えない山,川,海を残すことが
環境保全であるとの論もあるが,やがて120億人以上に増大する世界の人口を
養う施策も不可欠である.いま望まれているものは,人間と他の生態系に優
しい環境造成の具体的方法てはなかろうか.そのときの一つの視点は,生物
相の種と総量を造成以前よりも豊かなものとすることであろう.土木学会誌
1992年6月号別冊増刊の「エコ・シビルエンジニアリング読本」は,そうした
視点を育てる一つの手引としてまことに有益と思われる.海岸工学は沿岸域
の生態系と直接に係わる分野であり,今後は生態系に優しい環境造成の技術
に関する問題を取り扱うことが多くなるものと老えられる.

海岸工学委員会ては,1991年から上述の「地球規模環境間題研究小委員会」
と並んで「研究現況レビュ一小委員会」を設けて“波・構造物・地盤の調査・
設計手法”についての検討を進めており,これについても中間報告書をとり
まとめた段階である.両小委員会の成果は,次年度以降の然るべき時期に公
刊し,広く利用して頂くことを検討中である.また,懸案であった「海岸工
学用語集」も担当各位の大変なご努力でこのたび出版にこぎ着けることがで
きた.用語の統一,英訳の指針,キーワード選択などの面でお役に立つので
はないかと期待している.

沖縄で海岸工学講演会を開催するのは関係者の永年の希望であったが,その
実現にあたっては琉球大学工学部,沖縄総合事務局開発建設部,沖縄県土木
建築部,那覇市港湾部を始めとする地元の方々から絶大なご尺力を賜わった.
また,論文集の刊行にあたっては,論文査読者,海岸工学論文集編集小委員
会,ならびに土木学会事務局各位の献身的なご努力に負うところが大きい.
さらに例年,業界案内欄を通して各種法人・民間各社からご支援を頂戴して
いる.こうして海岸工学講演会を支えて下さっている関係各位に対し,ここ
に心からお礼申し上げる次第である.

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