序文 (岩田好一朗,平成5年11月) 1954年(昭和29年)に第1回目の海岸工学講演会が神戸で開催されてから本年で 丁度40回目の講演会を迎える.人間の経世プロセスから言えば,“不惑の年” に相当するわけである.また,来年1994年10月に28年振りに国際海岸工学会 議(第24回)が神戸で開催されることになっている.海岸工学は,従来の物理 環境のみならず,生物・化学環境,さらには人間の感性に直結する景観面の 分野に及び,他の工学・理学分野との学際色を強めながら多岐に広がってい る.そして,最近の地球温暖化に関わる地球規模環境問題と連動しながら, 大きな飛躍を秘めたキーエンジニアリングの一つとして力強く進展している ことは非常に喜ばしいことである.海岸工学講演会における発表論文は,第 1回の講演会では16編,第10回の講演会では32編,第20回の講演会では93編, 第30回の講演会では133編と増加し,今回の第40回の請演会では236編の論文 が発表されるという盛況になった.このように,40周年を迎えるにあたり, 海岸工学の発展と隆盛をもたらしていただいた先輩諸先生を始めとする関係 各位に改めて深甚の謝意を表する次第である. さて,わが国は,臨海部に富と人口が集中している“水際線国家”であると よく言われる.東京湾や大阪湾などの大きな半閉鎖性湾岸のシーフロントの 開発・利用・保全などのあり方の基本理念については多く議論されているが, 開放性沿岸海域のシーフロントに関する議論は極めて少ない.200海里経済水 域を見据えた,そして長期的な視野に立った開放性沿岸シーフロントのあり 方及びその将来像を検討・論議することは海岸工学の分野に課された重要な 一課題として受けとめ,調査・研究すべきであろうと考える. 今年8月12日マグニチュード7.8の北海道南西沖地震により大津波が起こり, 波源域内にあった奥尻島を中心とする地域に甚大な被害が発生し,多くの人 命が失われた.今後このような津波災害が発生しないように更なる調査・研 究が必要である.1990年代は,国際防災の10年(IDNDR)として位置づけられて おり,この一環として,くしくも8月下句,和歌山で国際津波シンボジウム’ 93が開催された.また8月未〜9月初め,東京で開催された第25回国際水理学 会会議でも津波のセッションがあり,真摯な討議がなされた.このような討 議を踏まえて津波災害の防止技術が向上していくものと考えられ,両国際会 議を開催された組織委員会や実行委員会の委員長を始めとする委員各位に深 甚の謝意を表する次第である. 海岸工学委員会では,40周年記念事業として,30周年記念事業で編纂された 海岸編と港湾編のスライドライブラリーを再編纂することになり,ここ10年 間で進歩したり,新しく発展した工法や学術上の知見に関するスライドの補 充追加作業を開始した.来年には,装い新たになったスライドライブラリー を御披露できるものと思っている.その節には是非御利用頂きますようお願 いする次第である.また,海岸工学委員会では,合田前委員長の時代の1991 年から「地球規模環境問題研究小委負会」と「研究現況レビュー小委負会」 の2つの研究小委員会で,それぞれ,「海岸工学に関する地球規模環境問題」 と「波・構造物・地盤の調査設計手法」について活発な調査・研究活動を行 ってきた.そして,両小委員会の委員長を始めとする委員各位の精力的な調 査・研究活動により,今年6月に,立派な内容の調査・研究報告書がとりまと められた.この成果は,今後,海岸工学の学術レベルを高めるために大きな 貢献をするものと期待され,来年度,土木学会の出版書籍として公刊される ことになっているので,広く御利用頂きますようお願いする次第である. 海岸工学講演会を函館市で開催するのは初めてであり,講演会の開催に際し て絶大なる御後援を賜った北海道大学工学部を始め北海道開発局,北海道, 函館市,寒地港湾技術研究センター等地元の方々に深く感謝する次第である. また,論文集の刊行にあたっては,いつも論文査読者,海岸工学編集小委員 会および土木学会事務局各位の献身的なご努力に負うところが大きいこと, さらに,業界案内を通して各種法人・民間各社から御支援を頂戴しているこ とをここに記し,深く感謝する次第である.