序文 (喜岡 渉,平成17年10月)
節目の第50巻を経て,52巻を重ねた.歴代委員会で積上げてきた「日本の海岸工学に関する全てがあり,大学,研究所,コンサルタント,行政,建設会社などにおいて,研究,調査・解析,設計,施工,維持管理といった広範囲な立場から"海岸"に直接関わる者に加えて,関連分野の人々も含めた多彩な方々に支持された論文集」を引き続き編集の基本方針としたい.
昨年12月26日にインドネシアのスマトラ島西方沖で発生した巨大地震による津波は,インドネシア,タイ,スリランカ,インド,モルジブからアフリカ諸国にまで来襲し,インド洋全域に渡って未曾有の大被害を発生させ,世界各国に Tsunami の恐ろしさが衝撃をもって伝えられた.我が国からも多くの研究機関が被害実態の調査や津波早期警戒システム構築の支援のため現地入りしており,その調査研究の成果の一部が本論文集に発表されている.本年3月20日には,福岡県西方沖地震により,博多港の港湾施設を始め,多数の施設が被災を受けた.この夏にも7月23日千葉県北西部,8月16日宮城県沖,8月21日新潟県中越地方と強い地震が相次ぎ,いまや人々のマインドは地震や津波は何時どこで起きても不思議でない状況にあり,予想される海岸部被害を出来る限り小さくする戦略的な防災・減災対策,地震に強い港湾づくりの具現化に向けて関係機関で精力的な検討が行われている.支援技術等を含めて関連論文のさらなる投稿を期待したい.
本巻への応募論文は前巻より12編増えて412編であったが,査読の結果,291編の論文が登載されている.応募論文の増減でやや目立つのは,災害調査報告に関する論文が10編の増,漂砂関連がさらに増えて13編の増,逆に構造物・施設の論文は17編減り,そのほかの分類項目については大きな変化は見られない.沿岸域の環境と生態の応募論文は,前巻から微増の90編にとどまっており,2006年からの第3期科学技術基本計画に国として戦略的に推進すべき基幹技術の一つとして位置づけられた"地球規模の統合観測・監視システム"に関する論文とともに,海岸工学をとりまく課題の中長期的な展望に立って論文数の増加を図りたい.
日本の海岸工学に関する全てが海岸工学論文集にあっても,世界の中の海岸工学,アジアの中の海岸工学には通用しない.海岸工学委員会では,本年で47巻となる英文論文集 Coastal Engineering Journal を年4号刊行している.また,中国海洋工学会(COES)および韓国海岸海洋工学会(KSCOE)と共催する形で,アジア・太平洋沿岸域を対象とした国際会議 Int. Conf. on Asian and Pacific Coast(APAC)を,ASCE が主催する Int. Conf. on Coastal Engineering(ICCE)開催年と1年ずらせて隔年に開催している.本論文集との相互補完的な役割を担っており,積極的な論文投稿,会議参加を願うものである.