序文 (灘岡和夫,平成21年10月)


海岸工学論文集の掲載論文数はここ数年300編前後で推移しており,今回は295編であった.一方,申し込み論文数は今回381編であったが,こちらの方は第49巻の462編をピークに漸減傾向にある.このことに対応して採択率は上昇してきており,今回は77.4%になっている.申し込み論文数漸減傾向の原因はいくつか考えられるが,その一つとして,海岸工学分野以外からの論文申し込みの伸び悩みがあるのではないかと推察している.

地球環境問題の顕在化は沿岸防災に新たな対応を迫っており,干潟,藻場,サンゴ礁などの浅海生態系を中心とする沿岸生態系の劣化の問題も深刻の度を深めてきている.このような,防災面や環境保全面等での現実の問題に学術面で貢献して行くには,言うまでもなく,個別的・断片的な対応では限界があり,総合的・包括的なアプローチが不可欠となる.海岸工学論文集にとっての課題は,そのためのプラットフォーム的機能を有した論文集の一つになれるかどうかである.その意味で,上記の申し込み論文数漸減の原因の一つとして他分野からの申し込み数の伸び悩みが事実であるとすると,他分野から見て,投稿しがいのある魅力的な総合プラットフォーム的論文集に進化させていくための努力が必要になる.

ところで,今年は海岸工学論文集を取り巻く状況に一つの大きな動きがあった.それは,土木学会論文集の再編に伴う動きである.大きな変更点は,海岸工学論文集が,土木学会論文集の一部として「土木学会論文集B2(海岸工学)」として位置づけられることになったことである.具体的には,年間4回発行される土木学会論文集B2のうちの1回分(No.4)を特集号として位置づけ,それが海岸工学論文集に対応することになる.ただし,この特集号(海岸工学論文集)の編集は,従来どおり海岸工学委員会が責任を持つことになり,現行の編集体制が継続される.また,このような土木学会全体としての論文集再編の動きに連動して,論文集のJ-Stage搭載の準備が進んでおり,数年後,電子ジャーナル化する予定である.

このようなJ-Stage搭載や数年後の電子ジャーナル化の方向は,学会員以外の様々な分野の方達からの論文集へのアクセスを容易にし,上記の総合プラットフォーム的論文集への進化を後押しするものである.もちろんそれだけでは,総合プラットフォーム的・ポータル的論文集の地位を築くことはできない.他分野から見たときの投稿のし易さということについての検討を様々な観点から行うとともに,論文集の内容面での充実が欠かせない.その意味で,様々な分野からの招待論文,レビュー論文といった,いままでにない企画も今後検討していく必要がある.

いずれにしても,いまは,海岸工学論文集にとって,次の新たな発展に向けての大きな節目の時期にあると考えるべきである.