安全問題研究委員会の活動概要
2004年5月
(1) 過去10年の委員会活動の成果
1) 活動の経過
土木学会安全問題研究委員会において,現在の形態による委員会活動が行われるようになったのは,1990年9月に松本嘉司(東京理科大学教授:当時)委員長,長尚(信州大学教授:当時)幹事長の下に新たな委員会が組織されて以降である。爾来,委員長,副委員長,幹事長,小委員会委員長,委員等の交代等を経て今日に至っている。
委員会構成は,広範な安全問題に対処するため,産官学からの25名(本委員会)の委員による編成とし,本委員会では委員会活動の方針を定め,具体的な調査・研究活動は本委員会の下に小委員会ないしは分科会を設けて実施している。
2) 調査研究活動の成果
これまで,調査・研究活動の成果については,各分科会,小委員会での調査・研究活動の成果を適宜,土木学会全国大会での研究発表(例:1992年「建設労働災害の国際比較」)や出版(例:1994年「安全問題研究委員会活動報告書」)を行うとともに,土木学会全国大会研究討論会を通して公表してきている。また,1997年3月には,安全問題研究委員会主催による「第1回安全問題討論会」を開催した。以降,2年に1回の頻度でその時機を得た課題を選定した「安全問題討論会」を開催し,同討論会においてそれまでの成果を公表してきている。現時点では,安全教育,労働災害,安全知研究,ヒューマンファクター研究並びに安全問題討論会実行委員会の5小委員会の下で調査・研究活動を行なっており,そこでの成果を「安全問題討論会」や「土木学会全国大会研究討論会」等で公表することとしている。
3) 対外的・社会的貢献
日本学術会議人間と工学研究連絡委員会安全工学専門委員会と連携を図り,土木工学以外の幅広な分野との交流を通した安全問題にも取り組んでいる。具体的な活動としては,日本学術会議が毎年主催している「安全工学シンポジウム」の受け皿委員会として,毎年同実行委員会に委員を派遣するとともに,数年(現時点では7年)ごとに幹事学会として同シンポジウムの運営の中核的業務をこれまで実施してきている。同じく,日本学術会議が4年に1回主催している「構造物の安全性・信頼性に関する国内シンポジウム(JCOSSAR)」においても受け皿委員会としての役割を担っている。このほか,安全工学協会からの「高度安全教育技術者プログラム開発プロジェクト」に関して,建設業界での実情調査に対する協力や委員派遣の要請に対応してきている(平成14年度)。このように,土木工学のみならず他分野を含めた幅広な分野での安全問題にも積極的に取り組んできており,これらを通して,「安全」に係わる技術や人間の意識の質的な向上を図るために,上記研究討論会・シンポジウム等を通して広く安全意識の普及に努めてきている。
(2) 小委員会の活動
1) 構成と活動内容
当初は,自然災害,供用時安全,施工時安全に関する3分科会を設け,それぞれの分科会による活動を実施してきたが,現時点では,下記5小委員会の下で調査・研究活動を実施している。
a. 安全教育小委員会
安全教育が大学も含めた教育界や実社会でどのように実施されているかを調査するとともに,そこでの問題点を整理し,今後の安全教育のあり方について検討する活動を進めている。広範な安全教育問題に対処するために,日本学術会議人間と工学研究連絡委員会安全工学専門委員会との合同の下に活動を実施している。
b. 労働災害小委員会
建設業での主要安全問題のひとつである労働災害について,その実態把握と今後の安全対策のあり方に関する調査活動を実施している。
c. 安全知研究小委員会
安全という社会・技術的な課題について,安全の定義やその評価法等の安全に関わる基礎的事柄を体系的にとりまとめる等の活動を実施している。
d. ヒューマンファクター研究小委員会
労働災害に関わるヒューマンファクター(労働者を取り巻くすべての要因を含む)を分析し、建設産業における安全管理のあり方等に関する調査活動を実施している。
e. 安全問題討論会実行委員会
安全問題研究委員会が2年に1回主催している「安全問題討論会」を開催するための小委員会であり,他の小委員会と連携しながら企画・運営活動を実施している。
2) 受託研究
1996〜1997年度の2ヶ年に亘り,建設省建設経済局から「建設施工現場における安全管理技術指針策定」に関する委託研究を受託し,施工分科会(研究代表者:國島正彦東京大学教授)が担当し,国内での建設施工安全管理技術の実状調査と数度の海外実態調査を踏まえた調査研究報告書を同局あてに提出した。
(3) 編集出版物
1) 関連出版物
これまでの安全問題研究委員会による主な編集出版物は下記の通りである。
a. 安全問題研究委員会活動報告書 1994年3月
b. 建設施工現場における安全管理技術指針策定業務報告書 1997年3月
c. 土木学会安全問題討論会’97研究論文集 1997年3月
d. 土木学会安全問題討論会’97報告集 1997年8月
e. 建設施工現場における安全管理技術指針策定業務報告書 1998年3月
f. 土木学会安全問題討論会’99資料集 1999年3月
g. 土木学会安全問題討論会’99報告集 1999年10月
h. 土木学会安全問題討論会’01資料集 2001年3月
i. 土木学会安全問題討論会’01報告集 2001年10月
j. 土木学会安全問題討論会’04報告集 2004年8月(予定)
(4) 委員会の主催行事
1) 小委員会主催を含めたこれまでの委員会主催行事は下記の通りである。
a.
1993年9月 土木学会全国大会研究討論会
テーマ「 施工時の事故・災害への取り組み」
b.
1995年9月 土木学会全国大会研究討論会
テーマ:「安全問題に学会はどう取り組むか」
c.
1997年3月 第1回安全問題討論会
テーマ:「安全問題へのアプローチ」
d. 1999年3月 第2回安全問題討論会
テーマ:「社会基盤施設の安全問題」
e.
2001年3月 第3回安全問題討論会
テーマ:「土木構造物の信頼性回復を目指して」
f.
2004年3月 第4回安全問題討論会
テーマ:「土木と危機管理」
g. 2004
年9月 土木学会全国大会研究討論会
テーマ:「安全教育の現状と今後の課題」(予定)
2) 学会内他委員会および外部組織との関係
外部組織と連携し当委員会が関与した活動は,日本学術会議人間と工学研究連絡委員会が主催する下記会議に共催及び実行委員会幹事学会として参画した。
a. 1994年7月 第24回安全工学シンポジウム(共催)
b. 1995年6月 第25回安全工学シンポジウム(幹事学会)
c.
1995年11月 第3回構造物の安全性・信頼性に関する
国内シンポジウム(共催)
d. 1996年10月 第26回安全工学シンポジウム(共催)
e. 1997年7月 第27回安全工学シンポジウム開催(共催)
f. 1998年7月 第28回安全工学シンポジウム開催(共催)
g. 1999年7月 第29回安全工学シンポジウム開催(共催)
h. 2000年7月 第30回安全工学シンポジウム開催(共催)
i.
2000年11月 第4回構造物の安全性・信頼性に関する
国内シンポジウム(共催)
j. 2001年7月 第31回安全工学シンポジウム開催(幹事学会)
k. 2002年7月 第32回安全工学シンポジウム開催(共催)
l. 2003年7月 第33回安全工学シンポジウム開催(共催)
m.
2003年11月 第5回構造物の安全性・信頼性に関する
国内シンポジウム(共催)
n. 2004年7月 第34回安全工学シンポジウム開催(共催)
(5) 他委員会,他学会,外国学会,国際会議との関連
1) 当委員会の調査・研究活動内容と密接に関わる課題として,建設マネジメント委員会「ヒューマン・ファクター研究小委員会」での調査・研究活動があり,これまで同小委員会との情報交換を行ってきた処である。今後は,同小委員会の活動を本委員会での活動として継続実施する予定である。
2) 2000年度に,安全工学協会の「高度安全教育技術者プログラム開発プロジェクト」に関する調査委研究委員会から建設業界での実情調査に関する依頼協力や委員派遣の要請があり,同要請に対して受け皿委員会として対応した。
(6) 委員会活動の課題および将来計画・展望
社会の安全に対するニーズが高まっているにも拘わらず,一方で未だに安全を専門とする研究者や学会レベルで活動が可能な実務者は少なく,加えて,昨今のリストラ等の影響により学会活動に対する所属機関の理解が十分に得られずにその活動に支障をきたす委員が出るなど,委員会運営が思うように任せないことも事実である。
かかる状況の下で,当委員会としては,委員会の量的な規模は決して大きくないものの,昨今,大規模な産業災害が続発している社会情勢を考慮して,土木分野でのヒューマンエラーの分析研究,安全教育など,安全意識の欠如がもたらしたと思われる事故・災害を防止するために,これらの課題に対して,少ない委員数の下で他分野での専門家の協力を得ながら,量的よりは質的に内容の高い成果を得ることを目指して調査・研究活動を行うこととしている。