1.まえがき
教育企画・人材育成委員会は,会員,土木技術者,土木系学生・生徒及び学童を含む一般市民を対象としながら,中・長期的視点より社会基盤に関わる教育全般の企画と実施について具体案を提言し,実行することを目的としている.
したがって,委員会の活動は,
@土木技術者の生涯教育に関するグランドデザインの作成に関すること,
A土木系学生・生徒に対する専門教育の調査と指針の作成に関すること,
B学童から一般市民までを対象とした社会基盤に係る啓発と教育に関すること,
C上記の3 点に係る学会戦略の構築に関すること,
Dその他,教育企画および人材育成に関すること,
などにまとめられる.
2.委員会の活動の経緯
教育企画・人材育成委員会の発足に至る経緯は以下のようである.平成11 年度に分散していた大学土木教育委員会,高校土木教育委員会などの教育系委員会を統合した「土木教育委員会」が発足し,建設分野の人材確保,工学教育の国際整合性,倫理教育,生涯学習の充実などの課題に対応し始めた.その後,平成15
年度に,JSCE2005 の答申を受けて土木学会の中に教育企画部門が新たに設置され,同部門内に教育企画委員会が発足し,土木教育委員会も調査研究部門を離れて教育企画部門に移った.平成16
年度より教育企画委員会と調査研究部門に設置されていた土木教育委員会が統合され,教育企画・人材育成委員会が立ち上がり,「カリキュラム」,「人材育成」,「社会に対する働きかけ」を当面のテーマとし,実行のための戦略が検討され,技術者倫理教育などによる技術者の育成,初等教育における総合学習の支援が新たに活動の中に取り入れられた.
現在では,教育企画・人材育成委員会の下に,大学・大学院,高等専門教育,高校教育の教育機関別の3 つの小委員会,およびマネジメント教育,倫理教育,生涯学習,ジェンダー問題の課題別の4 つの小委員会,合計7 つの小委員会が設置され,活発な活動がなされている.継続教育については,技術推進機構の継続教育実施委員会を中心に継続教育の推進が図られているので,当委員会の活動とは距離を置いている.
出版活動としては,平成15 年5 月に倫理教育用教材「土木技術者の倫理-事例分析を中心として-」,平成17
年3 月にマネジメント教育用教材「若き挑戦者たち-国土を支えるシビルエンジニア-」,平成17
年9 月に「技術は人なり-プロフェッショナルと技術者倫理-」を出版し,技術者倫理の普及活動やマネジメント教育の啓蒙を実施している.
3.現在の活動
現在の活動を要約すると,以下のようになる.
(1)JSCE2005 で提示された土木技術者の生涯に渡る学習継続の重要性に鑑み,
教育機関,学会,民間,官庁を含めた一貫性ある技術者教育・学習システム
の検討・提案を行う.
(2)各教育課程(大学・大学院,高専,専門学校,短大,高校)における土木教育の実態,
課題把握および対策について検討する.
(3)技術者倫理,マネジメント教育のあり方について検討し,普及活動を実施する.
(4)社会と土木界との係わり合いを強めるために,小学校への総合学習支援を行う.
(5)土木界におけるジェンダー問題を調査し,提言を行う.
4.今後の重点課題の例
(1)エンジニアリングデザイン教育
平成16 年12 月のJABEE 国際シンポジウムでのエンジニアリングデザイン教育についての議論を踏まえて,わが国の土木工学関連分野における大学教育(大学院教育・高等専門学校教育を含む)にエンジニアリングデザイン教育を定着させるためには,産学が協同して新たな教材作成とカリキュラム開発が必要であるとの共通認識のもとに,コンサルタント委員会と教育企画・人材育成委員会が協力してワーキンググループを設置して活動を開始している.そのための準備として,当委員会では,他学科の大学・大学院教育の調査およびエンジニアリングデザイン教育の実態調査を行っている.
(2)ジェンダー問題
平成16 年度,17 年度の2 年間,ジェンダー問題検討特別小委員会を設置し,土木工学関連分野におけるジェンダー問題に関する課題について整理,検討を行うとともに,教育に関する講習会,シンポジウムの開催およびジェンダー問題に関するシンポジウム等の協力を行った.現在,内閣府男女共同参画局が推進している男女共同参画やキャンペーンの趣旨に賛同し,積極的に活動を行っている.
(3)総合的な学習の支援
本委員会に設置された生涯学習小委員会において,総合的な学習の支援を行った経験から,小学校の総合的な学習の支援では,学童が興味を持って楽しんで参加できるようなテーマがよいと考えている2).そのためには,学会全体として組織的に授業支援を行う必要があると思われる.そのためのテキストの作成も考えておく必要がある.また,学会本部や支部において,学童の夏休みの宿題などの相談や指導を行うことも考えられる.いずれにしても,総合学習の支援では,学童の楽しみの中に土木を染みこませる必要があるように思う.
(4)他の学協会とのコラボレーション
建築学会を含む他の学協会との協同も,社会基盤整備の必要性を若い世代へ引き継いでいくための方策として重要であろう.それゆえ,社会基盤整備に関係の深い建築学会とコラボレーションして土木や建築の必要性を積極的にPR
する必要がある.
(5)ビデオや教科書の教材作成
中・高校生向けに,土木の技術や社会基盤の大切さを理解してもらうためのビデオや本を企画・作成する.
高校生が土木分野を目指すときの手助けになるような資料作りを目指し,完成の暁には,土木系学科のホームページに常時掲載していただくことを考える.
(6)人材育成サイクルの構築
理想的な土木技術者のたどるキャリアパスを描き,キャリアアップをどのように図るかを検討する.
(7)一般市民向けの活動
定期的に市民大学講座を提供することを企画する.特別上級技術者や調査研究委員会委員に講師をお願いする.市民大学講座に対する期待が大きいことは,ホームページで検索すればすぐに理解できる.この期待に答えられるかどうかが,最も重要なことかも知れない.国民全体の期待に答えることができないまでも,最良のものを与えるように努力しなければならないと考えている.聞くところによると,宝石鑑定の修行をさせるときには,偽物と本物の宝石を区別させる訓練をするのではなく,本物の宝石を毎日見させると云う.そして十分修行を積んだあとには,偽物と本物が難なく区別できると云う.一般市民向けの講義も世の中に迎合することなく本物を提供したいものである.
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