土木学会土木史研究委員会
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2006年7月6日
社団法人 土木学会
景観・デザイン委員会 委員長 篠原 修 土木史研究委員会 委員長 伊東 孝 文京区立元町公園の保存・活用の検討に関する要望書時下ますますご清栄のこととお慶び申し上げます。 さて、現在貴区におかれましては、旧元町小学校および区立元町公園の敷地に総合体育館の建設を計画中であること、それに伴い、元町公園を小学校敷地へ移すための都市計画変更の手続きを進められていることを、聞き及んでおります。 本会は、帝都復興事業の貴重な遺産である元町公園の歴史的価値が、適切な形で後世に継承されることを重視する立場から、かつて開園当時の姿に復元工事を施され、元町公園の歴史的価値を維持する努力を継続してこられた貴区に対し、深く敬意を表するものです。また今回の計画変更は、公園の使い勝手向上や体育館移設の必要性と、公園の歴史的価値の保存の重要性の狭間での、苦渋の決断であろうこと、拝察致します。しかしながら、貴区が公開されました「都市計画変更(元町公園)に関する説明会の意見要望及び回答について」を拝見する限り、今回の計画変更は、元町公園の歴史的価値を維持してこられた貴区のこれまでのご努力を無にするものとしか思われません。 ご承知のように元町公園は、昭和初期のモダンな意匠をよくとどめている貴重な近代ランドスケープ遺産であり、復興小学校と一体の空間として計画され建設されたユニークな近代都市計画遺産です。そして同時に、台地の縁の高低差を利用してカスケードを設けるなど、地形を活用したオープンスペースの創出という意味で優れた近代土木遺産でもあります。 今回体育館を建設するにあたり、公園敷地の変更を前提とするならば、例え新たな公園のデザインに歴史性を付加する努力を行おうとも、斜面地形と一体化したオープンスペースという元町公園の歴史的価値の本質は完全に失われることとなり、後世に継承されません。申すまでもなく、回答中に示されているバリアフリー対応、治安向上、防災拠点化などの理由が、元町公園の敷地を変更するための動かしがたい根拠であるとは言えず、このままでは区民の理解は得られないものと想像致します。現在の敷地のまま(計画変更せずに)、公園の歴史的な価値を保全しながら利用勝手を向上させる方法を見いだすことこそ、かつて復興事業に携わって現代の東京の基礎を築いた先達に対する敬意であり、同時に、歴史ある元町公園を誇りに感じている区民に対する行政の責任ではないかと考えます。本会は、体育館と公園とを一体で考えて、公園の敷地変更を伴わない代替案を専門家や区民の参加のもとに検討されること、施設の実現と公園の使い勝手向上・歴史的価値の継承を同時に満たす計画の立案のご努力を、強く希望するものです。 貴区「基本構想実施計画」におきましても、「レクリエーション施設・スポーツ施設の整備・充実を図る」とともに、「歴史遺産の価値に対する共通認識を醸成し、その保存と活用を図る」「地域の歴史の再発見を進め、郷土愛を育む」が謳われており、今回の計画は、「基本構想実施計画」の意義が問われる試金石とも言うべき極めて重要なプロジェクトであると拝察いたします。どうか、貴重な歴史遺産を失って禍根を後世に残すことのないよう、いま一度、格段のご配慮を示されたく、お願い申し上げます。 以上 |
土木学会土木史研究委員会
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