平成13年3月21日 |
国土交通省 中国地方整備局 局長 久保田 荘一 殿 |
(社)土木学会 土木史研究委員会 委員長 佐藤 馨一 |
神戸堰の保全的存続に配慮した河川改修に関する要請 |
益々ご清栄のこととお喜び申し上げます。 貴局におかれましては、神戸川の拡幅改修に絡み神戸堰の全面的な改築を検討しておられるとうかがいました。 昭和3年に竣工した神戸堰は、規模こそ小さいのですが、多連のアーチ状になった形態は唯一無二の存在であり、わが国近代の河川構造物として比類のない傑作であります。平成12年度中に刊行される土木学会出版物『日本の近代土木遺産―現存する重要な土木構造物2000選』におきましても、最重要のAランクに分類されております。 因みに、中国地方に所在するAランクの構造物は、鳥取県2件、岡山県11件、島 根県3件、広島県9件、山口県8件の計33件で、内訳は橋6件、水道建屋5件、水門3件、防波堤・護岸3件、灯台3件、砂防2件、ダム2件、トンネル2件、軍事施設2件、堰1件、河川舟運1件、発電所1件、駅舎1件、その他1件とあらゆる分野にまたがっています。うち河川構造物は、井風呂谷川三号堰堤(岡山)、小部下・小部上砂留(広島)、恩原ダム(岡山)、本庄水源地堰堤(広島)、神戸堰(島根)、勝山の舟着場(岡山)の6件しかありません。その中の一つが神戸堰というわけです。 建設省河川局と土木研究所が平成11年9月にまとめた「第二次河川技術開発五箇年計画」では、五つの 重点技術研究開発項目の一つとして、「歴史・文化特性への配慮」、すなわち、地域の歴史・文化特性に配慮 した川づくりのための技術開発が明確に志向されています。そして、その基底にあるのが、周知のように平 成7年の河川審議会の答申でありました。一方、新聞報道等でご存知とは思いますが、土木学会では平成12 年度より土木学会選奨土木遺産の制度を発足させ、毎年10件づつ優れた土木遺産を表彰することに致して おります(中国支部では京橋、四国支部では大谷川砂防堰堤が選定されました)。こうした情勢を勘案すれ ば、「神戸堰を地域資産と認識し、河川整備を行うにあたって保全的に改修しつつ次世代に継承していくこ と」が、十分に検討の余地のある選択肢の一つとなることは明白であります。河川整備と歴史・文化の保全 をどう両立させていくかに智恵を働かせることは、土木技術者にしかできない新たな課題であり、新しいも の、大きなものを造るだけでない多様なやりがいの源が提供されるのではないかと思われますし、それが社 会的評価と結び付けば、21世紀における公共事業の一つのモデルにもなり得るのではないかと考えます。 なお、上記では、堰の保全的存続、保全的改修など曖昧な表現を用いておりますが、それは河川拡幅を伴 う改修そのものを否定しているわけではなく、改修にあたって堰を保全的に取り込むような形で新しい堰を 設置していただきたいと要望しているからであります。概念的に申せば、中央部もしくはどちらかの岸に寄 せた形で旧堰をそのまま残し、左右に新堰を接続させる形が最も望ましいのではないかと考えます。恐らく 状況はそんなに単純なものではないかもしれませんが、河川技術者が本気になって取り組めば、保存と改修 を両立させる解答は幾通りも出せるのではないかと思います。最後に、本要請文と同一のものを、中国地方 整備局出雲工事事務所長・五道仁実様にも提出致しましたことを申し添えさせていただきます。 |
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