建設コンサルタント委員会
日 時;平成11月1月29日(金)
会 場;土木学会図書館講堂
基調講演1 「公共事業とPFI」
渡口 潔 建設省
国土の遺産を有効に活用するという国土マネジメントという考え方に立った総合的な観点からの国土造りが強く求められている。こうした中で、建設省では「民間投資を誘導する新しい社会資本整備検討委員会」が設置され検討が進められている。平成10年5月に「日本版PFIのガイドライン」が中間報告としてまとめられ発表された。この建設省の取組みとPFIについての方針を発表する。
内容は、@新しい社会資本整備方策の考え方、A新しい整備方策の適用が考えられる事業分野、B推進のための環境整備、C事業実施手続きの例で構成している。
基調講演2 「海外におけるプロジェクトマネジメント」
海外業務におけるコンサルタントの特色的なこととしては、@計画立案業務、A工事契約調達業務、B工事管理業務に主体的な役割をもって参画できる場であることである。しかし、それらの役割を担う環境はかなりの勢いで変わっている。海外における建設事業の状況の変化を披露し、現在のPMに近い立場の業務状況や今後の展開について発表する。
内容は、@海外事業をとりまく最近の趨勢、A海外市場における日本の建設業及び建設コンサルタントの課題、
BProject Management(PM) / Construction Management(CM)、C海外プロジェクトにおけるコンサルタントの位置づけ/役割、D海外PFI事業におけるコンサルタントの役割で構成している。
パネルディスカッション
座 長 : 瀬崎 明 日本工営(株)
パネラー: 西 健 (株)プロシード
富樫 俊文 日本下水道事業団
有岡 正樹 (株)熊谷組
川畑 豊 パシフィックコンサルタンツ(株)
パネルディスカッションの要旨
主旨 (座長)
建設事業は、社会環境変革によるインフラのニーズの変化に加え、バブル崩壊後の躓きも大きな課題となっている。このような変動の時代において、公共事業のあり方の基本的な見直しが必要とされ、発注方式の国際化により土木技術者の役割も大きく変わろうとしている。このシンポジュームを通して、我々、土木学会コンサルタント委員会第3小委員会の研究テーマである「プロジェクト・マネジメントに関する研究」の将来的な方向づけができ、かつ、技術者の新たな展開の場が探れればと考えている。
基調発表
西 健
日本の建設分野には、VE、ISO9000、ISO14000、PMなどの施策が、フェスティバルのごとく導入されはじめ、それに応えられなくては公共事業に参加できないくらいの機運にある。これらはほとんどが米国の国防省から発信されたものである。レスターサローは、現在の世界の動きを、「グロバリゼーション」「リレギュレーション」「テクニカルイノベーション」という言葉で整理している。
昨年米国で開かれたグローバルスタンダード会議では、米、英、加、スウェーデン、オーストラリア、ニュージーランド各国が集まって討議した。PMに活用されるアーンドバリューマネジメント手法が、昨年4ヶ国で国家規格として制定され、ISO9000sと同様に国際規格化の動きにある。
80年代のTQM、最近のIT、いずれも失敗したが、これはデザイナーの意図を理解できないためである。PM、ISO9000sなどのマネジメントのスタンダードは、一端導入したら元に戻すことはできないであろう。
富樫 俊文
日本下水道事業団は発注者側としていち早くPMに取組んでいる。これは、ここ数年世論をにぎわした高コスト、丸投げ、非効率など特殊法人への批判と無縁ではなく、これらの批判に素直に耳を傾けるところからPMの検討をスタートした。
下水道事業団は自治体が「発注者」となったオーナーサイドのPMである。IDEF流のものの考えを導入し、事業団はプロフェッショナルサービス部分を分担していく。発注者よりもうまく管理を行なわなくては事業団の存在意義が無く、WBSを導入してマネジメントを高度化するつもりである。WBSを判りやすく作成し、顧客からお金をもらう部分の理由を明確化していく。
有岡 正樹
オーストラリアでは、州を単位として、公共事業の民営化が進んでいる。PFIは究極のPMと考える。PFIの特徴の第1点は、通常の事業執行形態は直列型であるが、PFIの場合は、関係者が並列型につながるところにある。第2点は、運営にウェートがおかれ、リスクを先送りすることなく企画を立てなくてはならないことにある。第3点は、プロジェクトファイナンスが重要であることである。
PFI事業を成功させるための6大要因は建設技術対応力、ライフサイクルエンジニアリング力、マーケット対応力、ファイナンス調達力、法的対応力、リスク対応力である。PM能力とは、この6つをマネージメントし、能動的に進めていくことである。6つの要因は、プロジェクトライフサイクルで重みが異なる、初期はファイナンス、企画・設計、施工、運営へと段階を追ってプロジェクトマネジメントに必要とされる能力は変化していく。
川畑 豊
わが社がPMの活用を検討することになった動機は、@PFIを適用する業務には、近代的なPM手法が必要なこと、ACALS的な業務処理にはPM手法が必要であること、B 日常業務のマネージメントにPM手法を取り入れたいことにある。
コンサルタントが、コンソーシアムの一員となってPFIに参画する場合には、近代理論に基づくPMが必要となる。CALSで業務の効率化につなげるには、単なる「データ」から「情報」への転換を可能としなくてはならず、その推進にはPMが不可欠である。コンサルタントの業務との関連では、PMにはWBSとEVMSが結びつけられ、過去の教訓を生かせるシステムが組み込まれている。
ISOには継続的な改善が取り込まれており、欧米のやり方をそのまま取り入れるのではなく、日本型のマネジメント手法を考え出していく必要がある。
討議の要点
座長:PMをビジネスにどのように活用しているのか。
西 :米国の調査によると、全体コストの35%はインフォメーション関係費用である。生産性とは、どの方法を使えば最大化できるか、Outputを見極めてInputを決めることである。この面でPMは有効であり、日本でも情報コストを管理する企業が現れた。
富樫: PMとは、IDEF流のものの考え方の集合体であり、WBSを作成するとリスクが明確になる。
座長:インターネットやメールへの対応で、コンピュータと対話している時間が急速に増え、生産性が落ちている。CALSとPMでどのように簡素化するか?
川畑:CALSの進展には、コンピュータリテラシーを一定の水準に引き上げることが重要である。CALSは要素技術よりもエンドユーザーに目を向けた開発であるべきである。
富樫:事業団では、CALSとPMとをどう使うか考えている最中である。情報のコード化をまず目指す。
西 :「早くて、安くて、良いもの」を実現するためには、使用者、発注者、受注者のシナジー(相乗)効果が必要となる。シナジーとは「共に働く」=Partnering-ship=いったん契約したら結婚したと同じという意味である。EVM(Earned Value Management)は、Netの費用、Sub-Contractorの費用などの公開を強制するので、契約、情報、信頼性、Securityなどの面で葛藤が起こる。
有岡:PFIは、英国であれだけ騒がれて10%台、日本の市場でどれだけ可能か? Management of Project(MOP)がPFIである。現在、PMだけを行っている英国のエンジニアリング会社の最終的なねらいはライフサイクルマネジメント、ファシリティーマネジメント(維持管理段階)にある。
<会場からの質問>
Q : ERPさえもカスタマイズしているが、日本から発信できるか。
A : 欧米人は2005年にはこういうマネジメントでありたいというビジョンを持っており、ISO化を推し進めている。日本人は発信していない。業界の常識は、その他の業界では非常識ということわざがある。ヨーロッパではベストプラクティスクラブがあり、グローバル化につながっている。マイナーでもグローバルスタンダードへ参加していける。
Q: ISO14000にほとんどの企業が追随するというのは非常に難しい。どう対応すべきか?
A : これまで発表された多くのマネジメントシステムはレビューされたことがない。「アメリカは、インターナショナル(鵜飼い)志向、日本はグローバル(現地人を使いこなす)志向である」という日本人に勇気を与える声を米国で聞いたことがある。
座長:海外で使われているPFIが日本に持ち込まれた時、どのような問題が起こるか?
有岡:日本型PFIの構築の可能性があり、ブレークスルーできれば発信が可能である。
富樫:下水道事業団は、PFIではConsulting業務を担うことになろう。
西 :米国では事例を聞かないが、NASAはそれに近いといえるのではないか。
座長:PFIのリスクをどう考えるか?
川畑:PFIに関しては、コンサルタントに建設・運営の経験がないので、極めてリスクが大きい。
有岡:参画リスクをまず考えることである。ある程度の規模のプロジェクトを対象に、デシジョンメーキングツリーを作成し、成功報酬的な考えに慣れることが必要となる。PFIはフグ料理みたいなものであり、認定された腕達者な料理人でないと料理できない。政府、銀行などへのアドバイスが不可欠であるが、PFIをチャンスにコンサルティング業務は広がっていくと予想する。
以上、 第12回 建設コンサルタント シンポジウム報告