富山駅の北口を出る。前方左手に路面電車の停留所があり、観光客だろうか、路面電車をバックに記念写真を撮っている。電車はカラフルでおしゃれである。乗ってみたいという気にさせる。新しいスタイルの路面電車が、富山市のシンボルになりつつあるという予感を抱いた。すぐ乗りたい気持ちを抑えて、路線に沿って少し歩くことにした。向こうから赤色の電車がやってくる。駅の方からは緑色の電車。かっこいい。停留所もおしゃれである。シェルターやベンチ、サイン、協賛企業の広告デザイン、電車を待つことも楽しみになるかもしれない。電車に乗る。車内は明るくシンプルである。座ってもよいし、座らなくてもよい。ふらっと乗ってふらっと降りる、そんな車両空間なのである。
路面電車は、まち歩き・生活感覚の公共交通システムといってよい。乗りたいときに乗れる便利さが求められる。しかし、便利であっても乗る人が少なければ立ち行かない。LRT化する前の富山港線は利用者が減り、したがって運行本数が減り、利用しようにも不便。まさに廃止の危機にあった。それが今、運行本数が増え、便利になり、利用者が増えている。その理由は何か。社会資本のデザインで大事なことは、人の気持ちに響くということではないか。人の気持ちが動くデザイン、乗ってみたくなる公共交通システムである。
(吉村)
富山LRTは、車両のデザイン、駅施設のデザイン等々の質も評価されるけれど、これをそういう点からだけで捉えるべきではない。
まず車両のデザインはまちに明るい要素を与えた。また、駅の施設のデザインも質は高い。そして、地域の民間事業者と行政が協力して、広告などによってまちに新しい表情を加えたことも大きな成果の1つである。さらには、北前船のまち(岩瀬)にも今後の可能性を与えているのだと思える。このプロジェクトには、都市デザイン、富山LRTの鉄道、構造物のデザインの複合的な要素がある。
今、全国の地方都市は例外なしに悩んでいる。長く皆の投資を集め、皆が集い、にぎわいを楽しんできた「まち」が立ち上がれないほど疲弊している。商業者を中心に活性化のシナリオを描き、活動してみても目に見える効果は実感できるほどのものにはならない。 富山も中心市街地で様々な計画、事業に取り組んでいる。そういう状況の下で、廃線になってもおかしくない路線を技術、デザインを結集して再生した。様々な切り口もあるけれども、トータルな都市計画、都市デザインの成果である。
とはいえ富山LRTの問題は、これが完成ではなく(鉄道高架事業による南への延伸もこれからだが)、街の再生、展開の始まりである。(総評で述べたように)回りが、まちがLRTのデザインをどう受け止めていくかである。景観・デザイン賞は別の意味では激励の賞でもある。
(小出)
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