とびきりの好天気ではない、ややうす曇の秋の終わりに訪れた。それでも、太井出堰の再生を含む嘉瀬川の整備部分は、雄大で気持ちよく、場所の空気感が感じられる素晴らしいものであった。天気の良い日には、どれだけの気持ち良さがあるのだろうと想像できる場所感があった。象の鼻や天狗の鼻から石井樋にいたる水辺部分も悪くない。しかし、いわゆる陸上の部分、公園部分がいかにも残念である。嘉瀬川の素晴らしい空間性との連続感がない。むしろ、それをスポイルしているとさえ感じさせる。歴史的水システムの復元という注目すべき事業で、河畔林の保護・保存などをはじめとして技術的な部分もおそらく素晴らしい業績だと想像できるだけに、川との空間的連続性を意識していないかのように思えてしまう、公園部分に点在する施設やモノのデザイン、ディテールだけが、ここでは非常に残念であった。土木デザイン、そして景観の本質もまた、連続する時空間にある。
(江川)
この作品は、最優秀賞でもおかしくない面を持っている。嘉瀬川だけではなく利水、治水の面で大変な功績を残した成富兵庫茂安の仕事をしっかり伝える事例として、素晴らしいものを感じる。「石井樋」とは、石で作った「井樋」という意味で、この「井樋」は取水口の小さな石造の構造物であるが、これとともに水流をコントロールする構造物が設けられ、全体として佐賀城や城下町を支える重要な施設であった。史実を踏まえた計画設計は、しっかりとした姿を再現しているように感じられた。また、付属施設(佐賀水物語館)のデザインも評価できる。
残念なことは、この再現のための土木デザインとは別に、以前に行なわれた事業や別発注の(と思える)建築物、橋、樋門等のデザインがトータルなものとなっていない点であり、それらの存在が小さくないので、全体の印象を低下させている点である。
(小出)
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