入り口から建物は見えない。クレパスをイメージしたというコンクリート壁の通路を降りて冒険館に入る。建物の中に入っても、通路はコンクリート壁に囲まれた形でまっすぐ外に突き抜けている。外に出て展望テラスに立つと遊水池の水面と雑木林が広がる。閉じられた空間から開けた空間への対比が、未知の世界を求め未知の世界に立った植村直己を思わせる。旧館と新館の間が中庭空間になっており、クライミングウォールが設けられている。人気の施設らしく、冷たい雨だというのに子どもたちが賑やかに遊んでいる。中から外に視線を移すと山里の風景が広がる。赤い実をつけた柿の木が印象的である。建物周りは棚田の技術を用いており、周辺の地形や風景と建築を一体化させるという意図が伝わってくる。開館から14年。施設を継続運営するには、ソフトプログラムが重要になる。豊岡市と管理スタッフへの励ましを含め優秀賞としたい。
(吉村)
モダンアートの洗練をまといつつ、入念にレイアウトされたその造形性の高さは一見して明らかだ。建築と外構造園が端正にバランスよく融合している。建築は掘り込まれて大地に沈みながらも凛と水平に広がり、これに直線基調のミニマルな造園デザインが連動している。植村直巳という人は、鋼の意志を持ちつつも、飾らない柔和な笑顔が印象的だったが、そんな人間性に通じているように思われた。空間だけではない。単に展示品を眺めて帰るのではなく彼の人柄や成し遂げてきた意味を感じてほしいという雰囲気が、運営スタッフからも伝わってきた。大したものである。
周囲には運動公園なども連なっているが、この記念館が中核として機能していることは明らかだ。単一施設を越えて、地域性という新たな価値を獲得しつつあることを評価した。残念だったのは、途中をつなぐ橋梁高欄と親柱が景観的に極めて問題のあるものであったことだ。これは瑣末ではない。土木デザインの制度的欠陥である。
(小野寺)
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