新豊橋は、実に美しく、良くデザインされた橋である。文句なく、土木学会デザイン賞最優秀賞に輝くべき橋と言って間違いない。ただ、一点の傷がそこにあることを除いての話である。
遠景より新豊橋を眺めると、周辺の建築物とのスケールバランスが、実に絶妙に取られていることがわかる。エレガントで美しいカーブを持ったアーチ形状は、簡単に導きだせるものではない。恐らく、数多くの入念な検討が行われたことが感じられる。また、近くに寄ると、吊り材の色彩やディテール、高欄の形状、さらには橋梁裏面の造形処理に至るまで、実に丁寧にデザインされている。一般に、土木構造物の設計においては、本体構造の形態や色彩が入念に検討されることに比して、ヒューマンスケールの要素が軽視され、時に全てを台無しにしてしまうことすらある。
しかし、この新豊橋は、アーバンスケールから、ヒューマンスケールに至るまで、緻密な検討により「質」の高いデザインが導かれている。だからこそ最優秀賞なのである。
しかし、一点の問題が残ってしまった。それは、竣工後に警察のクレームによって設置された、登はん防止柵である。その、安易な造形の柵と既製品の樹脂ボラードは、明らかにこの橋の「傷」となっている。それは柵としての機能性よりも、訴訟対策としての言い訳に過ぎないものである。まさに「心配のプロ」が主権を持つ日本国の行政による「景観破壊」である。それにも拘わらず最優秀となったのは、その「傷」が改善可能なものと判断されたからである。この、受賞を機に、再度改修が行われることを、強く望まずにはいられないのだ。( 田中)
東京メトロ南北線の王子神谷駅から歩いて10分ちょっと。隅田川にかかる橋梁である。上流に新田橋、下流に首都高速道路橋が横過している。このあたりから下流に向かって、コンクリート擁壁の護岸が切れており、開けている。まわりは最後の開発地といった感じで、建設中も含めて高層マンションが立ち並んでおり、特に北東側は開発が進んでいる。また、北西側は公園になる計画のようで、比較的広く空いている。新豊橋はこのような環境の中にあり、隅田川の両岸の往来を容易にするために建設されたと考えられる、片側1車線、往復2車線、両側歩道( 幅約3.75 m)の手の届くヒューマンスケールの構造物である。歩道部のカラー舗装は、橋梁の前後約100 m程度続いており、電柱の地中化もはかられている。歩道部の排水は、鋼製排水溝で取られている。
鋼製のアーチ部には全断面溶接が採用されており、アーチ上縁にはフランジを出した水切りが設けられており、アーチ側面は雨垂れの後もなく、きれいである。主桁からは、地覆部の上フランジが5mm程度の張り出されており、主桁側面のウエブ面の傾斜とあいまって、ここにも雨垂れの後もなく、きれいである。橋面排水が落ちる護岸には、幅20cm 程度が面下げされており、排水断面が確保されている。 この橋梁には残念な点が、護岸上の立ち入り防止柵とアーチ部の登はん防止柵である。
しかしながら、ヒューマンスケールで細部の処理まで気を使って設計された良い構造物である。きれいな状態に保たれ、高度に利用されている。( 猪熊)
|