この橋を見る場はあまりない。国道や紀勢線の車内からの行き過ぎる風景、上流部から木の葉隠れに見える橋、どちらも断片的な景観といって良い。高みから見る場所もないし、上流側の集落からは南の全貌が見えるけれど、直下の集落からは大構造物を下から見上げる眺め。
しかし、この橋のデザインは大変素晴らしい。紀勢宮川橋は、地域景観の中に隠れる橋の景観を実現したと評価したい。設計者の意図がどうあれ、上に述べたように紀勢宮川橋は眺めを楽しむ橋ではない。実見は台風が過ぎた後で、これも幸運であった。塗装の色彩は、宮川の増水時の水の自然の色なのである。この色は大変地域景観との調和に寄与している。その点でも現場をよく知った上のデザインだ。
橋脚のデザインなどには、改善の余地があるかも知れない。高速道路の橋脚を集落を通過するルートに建設するしかない状況が何ともいえない。しかし、紀勢宮川橋は農村風景の中に違和感のない景観をつくりだしている。( 小出)
山間の田園地帯に突如として現れる高速道路橋である。しかも、広い谷を斜めに縦断しているため、橋そのものの総延長は大きい。しかし、それでいて、橋そのものの存在感が思ったほど強く感じられないのは、おそらく、直線的でシンプルなトラスの橋桁デザインに理由があるのだろう。
周辺の緑と調和する薄緑の色彩も奏功している。橋脚の数も可能なかぎり少なくおさえられているようで、そのことも橋の存在感を希薄にしているのかもしれない。特に遠景では、この橋の細く直線的なシルエットが、谷の低い位置にすっとおさまっていて、周辺の景観になじんでいる。
しかし一方では、近景での見上げに対しては、やや無骨ともいえるボルトが目立ちすぎるため、遠景とのギャップが気になった。それにしてもいつも思うことなのだが、この位置にこれだけの高さ、長さの架橋が必要となる道路計画そのものまでさかのぼって検討することが、本来、景観のことを考えるうえではより重要なことではないだろうか。( 宮城)
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