この作品は、「復元の景観」である。今後「復元」「再生」「保全」といったことが土木構造物にも重要な意味をもつと思われるが、これらは、デザインが空間だけでなく、時間にも及ぶことを意味している。すなわち、復元したデザインは、そこに過去の価値を蔵しているものとして存在させられているのである。
この場合、過去といっても、たんなる出来事の時間性を意味するだけでなく、人間の経験のなかの時間、つまり、記憶や思い出といった個人に蓄積された時間をも意味している。とくに萬代橋の景観復元は、市民参加型の議論のなかで形成されたものであるから、そこには、昔の萬代橋の景観が関係者の記憶のなかに存在し、それが復元という行為に向かわせたということであろう。
優秀賞となった萬代橋改修工事と照明灯復元もまた実際にこの橋を渡る人々とともに川の風景を楽しんでみると、人々の生活風景のなかでの景観復元のもつ意味が実感された。(桑子)
このプロジェクトの価値は、一言で言って市民の熱意に支えられた「心の風景」の再現であろう。萬代橋は新潟市の中央部に位置し、新潟地震にも耐えた郷土の誇りである。今回の改修は、照明灯を復元し75 年前の姿に戻すことを中心としている。そのプロセスは市民ワークショップによって進められ、橋側灯の設置資金については市民からの募金によって賄われた。この結果だけを見れば、単なる照明灯の復元工事にすぎず、土木学会デザイン賞の対象としては、あまりにもミニマムな存在にしか思えないかも知れない。
しかし、市民の心に残るものは、橋梁本体の構造もさることながら、そこに取り付けられたヒューマンスケールの要素もまた大きな意味を持つことに気づかされる。 この計画は、そうした都市を構成する要素の価値を明確に物語っているのである。( 田中)
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