1.日本語表現の「理解」について
土木学会社会コミュニケーション委員会企画部会(以下,企画部会)で,土木学会誌を通じて,パンフレット「土木という言葉について」を配布し,その活用のお願いをしたところ,多数のご意見等を頂いた.特に,5頁における日本語表現については,問い合わせ,ご意見,ご質問が複数寄せられた.これを受けて,企画部会ではまず,5頁の日本語表現の理解について,アンケート調査(合計118名,うち40歳以下108名)を実施した.その結果,以下の結果が得られた.
- 40歳以下被験者
- 分かる 93%
- わからない 7%
- 40歳以上被験者
- 分かる 60%
- わからない 40%
ただし,40歳未満では,大半の被験者が分かると答えている一方で,40際以上の被験者においては,分かると答える被験者は6割に止まっていることも併せて示された.
すなわち,5頁の表現は,おおむね理解されているものの,40歳以上の人々においては,分からないと答える人々の割合は,決して無視できる水準にはないということが明らかとなった.
2.結果の解釈:日本語の変遷について
「〜ても」 という言葉は,一般の日本語文法においては,『肯定の可能動詞』(つまり,〜できるという肯定的な動詞)にかかる助詞として使用されるものである.それにも関わらず,今回の5頁では,『否定可能動詞』にかかる助詞として使用されおり,これは,一般的日本語の文法に反するものである.これが,先の調査にて40歳以上の4割の方々が「分からない」と回答した理由であるものと考えられる.
この点を勘案したとき,5頁の「〜ても」は「〜ったら」と記載することが,一般的日本語の文法においては正しい,ということとなる.なぜなら,「〜ったら」は,『否定の可能動詞』に使用される助詞だからである.
ところが,最近の『口語』の日本語では,「〜ても」,という言葉が,「複数連なる場合の否定可能動詞」に使用されるケースが増加しつつあるものと考えられる.ここに,「〜ても」の「も」が文章の連結を意味する際に使用される「〜も,〜も」の「も」として活用されている次第である.
しかも,上記の正しい日本語である「ったら」という表現を加えつつ,複数連なる文章の際に使用される助詞である「も」を併用する表現が,伝統的日本語文法には存在していない可能性が考えられる.
無論,言語の変遷は,「乱れ」とも表現されることも少なくない.しかし,言語は,上記のような旧来の表現に存在していない内容を表現しようとする動機の存在を契機として,徐々に変遷していくものであることは一般に知られた事実である.例えば最近の「全然大丈夫」等の日本語が若い世代に受け入れられつつあるが,これは,「大丈夫」等の肯定的意識を表明する際に,その肯定の意識の強度を極端に協調する副詞が,伝統的日本語文法の中に存在していないことに起因するものと思われる。
こうした背景から,若い世代の9割以上の人々が「分かる」と回答したという結果が得られたものと考えられる.
そしてさらに言うなら,こうした用法を違和感なく受け取る世代にとっては,「〜ったら」という表現よりも「〜ても」という表現の方が,「複数連なる文章である」という点が強調されるという点において,より相応しい表現であると言うことができるものと考えられる.
3.今後の対応について
学会誌5月号に,学会員の皆様に,パンフレットの活用の「お願い」をいたした結果,平成18年5月22日の時点で,合計で,約1万6千部もの多数の依頼を頂戴した.土木学会では,パンフレットを1万部程度しか用意していなかったのだが,この結果を受けて,さらに増刷することを決定した次第であるまた,少なくとも,この約1万6先部の依頼は,「〜ても」という表現を活用しているパンフレットに対しての依頼であるという点をふまえ,基本的に,現在のヴァージョンを配布することを予定している.
しかしながら,上記のように,5頁の表現を,本アンケートにおける40歳以下の被験者の7%,40歳以上の被験者の40%が「分からない」と回答していることをふまえると,本パンフレットが広く公衆に配布することを想定したものである以上,少なくとも2006年5月の時点では万人に理解されるとは必ずしも言えない「〜ても」を使用するよりは,「〜ったら」を使用することが望ましいのではないかと,企画部会では判断した.
こうした判断から,増刷においては,「〜ても」を「〜ったら」に変更することととした.
4.終わりに
今回のパンフレットの取り組みに対して,様々な方々から,様々なご意見を頂戴した.また,パンフレット配布の依頼を,上述のように一万六千部も頂戴したこともふまえると,土木学会会員の皆様が,一般社会とのコミュニケーションを重要な取り組みの一つであると認識しておられるものと拝察した次第である.現時点では,土木学会社会コミュニケーション委員会の諸活動は限られたものに止まっている感は否めないものの,今後もより一層,土木学会と一般社会の間の円滑なコミュニケーションに資する活動を,一つずつすすめて参りたいと考えている次第である.今後も,様々なご意見,ならびに,ご協力の程,改めてお願い申し上げる次第である.以上
ご連絡・お問い合わせ:企画総務課 稲垣 (事務担当)
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