前 文
1.1938年(昭和13年)3月、土木学会は「土木技術者の信条および実践要綱」を発表した。この信条および要綱は1933年(昭和8年)2月に提案され、土木学会相互規約調査委員会(委員長:青山士、元土木学会会長)によって成文化された。1933年、わが国は国際連盟の脱退を宣言し、蘆溝橋事件を契機に日中戦争、太平洋戦争へ向っていた。このような時代のさなかに、「土木技術者の信条および実践要綱」を策定した見識は土木学会の誇りである。
2.土木学会は土木事業を担う技術者、土木工学に関わる研究者等によって構成され、1) 学会としての会員相互の交流、2) 学術・技術進歩への貢献、3) 社会に対する直接的な貢献、を目指して活動している。
土木学会がこのたび、「土木技術者の信条および実践要綱」を改定し、新しく倫理規定を制定したのは、現在および将来の土木技術者が担うべき使命と責任の重大さを認識した発露に他ならない。
基本認識
1.土木技術は、有史以来今日に至るまで、人々の安全を守り、生活を豊かにする社会資本を建設し、維持・管理するために貢献してきた。とくに技術の大いなる発展に支えられた現代文明は、人類の生活を飛躍的に向上させた。しかし、技術力の拡大と多様化とともに、それが自然および社会に与える影響もまた複雑化し、増大するに至った。土木技術者はその事実を深く認識し、技術の行使にあたって常に自己を律する姿勢を堅持しなければならない。
2.現代の世代は未来の世代の生存条件を保証する責務があり、自然と人間を共生させる環境の創造と保存は、土木技術者にとって光栄ある使命である。
土木技術者は
1.「美しい国土」、「安全にして安心できる生活」、「豊かな社会」をつくり、改善し、維持するためにその技術を活用し、品位と名誉を重んじ、知徳をもって社会に貢献する。
2.自然を尊重し、現在および将来の人々の安全と福祉、健康に対する責任を最優先し、人類の持続的発展を目指して、自然および地球環境の保全と活用を図る。
3.固有の文化に根ざした伝統技術を尊重し、先端技術の開発研究に努め、国際交流を進展させ、相互の文化を深く理解し、人類の福利高揚と安全を図る。
4.自己の属する組織にとらわれることなく、専門的知識、技術、経験を踏まえ、総合的見地から土木事業を遂行する。
5.専門的知識と経験の蓄積に基づき、自己の信念と良心にしたがって報告などの発表、意見の開陳を行う。
6.長期性、大規模性、不可逆性を有する土木事業を遂行するため、地球の持続的発展や人々の安全、福祉、健康に関する情報は公開する。
7.公衆、土木事業の依頼者および自身に対して公平、不偏な態度を保ち、誠実に業務を行う。
8.技術的業務に関して雇用者、もしくは依頼者の誠実な代理人、あるいは受託者として行動する。
9.人種、宗教、性、年齢に拘わらず、あらゆる人々を公平に扱う。
10.法律、条例、規則、契約等に従って業務を行い、不当な対価を直接または間接に、与え、求め、または受け取らない。
11.土木施設・構造物の機能、形態、および構造特性を理解し、その計画、設計、建設、維持、あるいは廃棄にあたって、先端技術のみならず伝統技術の活用を図り、生態系の維持および美の構成、ならびに歴史的遺産の保存に留意する。
12.自己の専門的能力の向上を図り、学理・工法の研究に励み、進んでその結果を学会等に公表し、技術の発展に貢献する。
13.自己の人格、知識、および経験を活用して人材の育成に努め、それらの人々の専門的能力を向上させるための支援を行う。
14.自己の業務についてその意義と役割を積極的に説明し、それへの批判に誠実に対応する。さらに必要に応じて、自己および他者の業務を適切に評価し、積極的に見解を表明する。
15.本会の定める倫理規定に従って行動し、土木技術者の社会的評価の向上に不断の努力を重ねる。とくに土木学会会員は、率先してこの規定を遵守する。
(1999.5.7 土木学会理事会制定)