■ 就任ご挨拶
2014年6月13日
「あらゆる境界をひらき、持続可能な社会の礎を築く」
土木学会は、1879年(明治12年)に設立された工学会を前身として、1914年(大正3年)に設立され、今年100周年を迎えました。初代会長である古市公威先生は第1回総会会長講演において、土木工学の総合性を表して「指揮者ヲ指揮スル人即所謂將ニ將タル人ヲ要スル場合ハ土木ニ於テ最多シトス」、そして「本會ノ研究ハ土木ヲ中心トシテ八方ニ發展スルヲ要ス」として、土木は分野の外に広がっていくことが必要だと述べました。工学会から、資源分野の鉱業、建築分野の造家、そして電気、造船、機械、工業化学の専門分野が次々と独立したのに遅れ、工学会に残った会員の過半を土木技術者が占めるに至って、土木学会が設立されたのです。しかし、これは土木の本質を認識していたことの証左として、むしろ私たちは誇りとしたいと思います。
明治時代は近代土木の黎明期です。河川、鉄道、港湾を中心に社会基盤整備が進みました。また、大正末期の関東大震災に対しては、帝都復興計画により首都の復興を成し遂げました。昭和に入ってからは世界恐慌の波に襲われながらも、土木は近代国家としての産業基盤の整備を進めました。また、戦後の国土荒廃と経済混乱、さらには頻発する自然災害から、我が国を立ち直らせてきました。
同時に高度成長期には大気汚染、水質汚濁などの環境問題が発生し、さらに近年は、高齢化問題やエネルギー問題も顕在化していますし、地球温暖化問題が現実のものとなりつつあります。そして、経済の活性化が不可欠となる中で、阪神淡路大震災や東日本大震災は改めて社会安全を大きな問題として提起しました。
このような問題の全てに対して、土木は真摯な姿勢で取組み、最大限の貢献をしなくてはなりません。東日本大震災に対する復旧・復興において、最大クラスの津波に対しては避難を中心に人命を守り、それよりも発生頻度の高い津波に対しては施設などによって人命とともに生活と産業を守るという方針を明確化しました。我が国が抱える様々な自然災害や事故による危険性に対してこの考え方を援用し、リスクを適切に管理しながら、人的被害を限りなく抑え、生活や産業の継続性を確保していかなければなりません。高齢化社会を乗り切るためにも、高齢者や女性を含む人々が社会のために快適に働くことができる環境を築くことも肝要です。エネルギー資源の持続的利用のための省エネルギーや再生可能エネルギーの開発を進めるとともに、従来型エネルギーの利用を適切な方向に導く必要があります。さらに、社会基盤施設の維持・管理、地球温暖化問題への緩和策と適応策、長期的な土地利用計画、国際社会での協調・貢献など、すべてを強力に進めていかなければなりません。
土木工学は美しく、安全で、いきいきした国土をつくり、持続可能な社会を実現して、人々が飢えることなく、危険にさらされることなく、環境に不快を感じることもなく、それぞれの幸せを求めて生きられるようするための総合的な工学です。古市公威初代会長の講演の趣旨を十分に理解し、橋本前会長を始めとする歴代会長の方針を引き継ぐことを基本として、土木分野の周辺のすべての境界をひらき、他分野の知識と知恵を吸収し、むしろ他分野の中に舞台を広げながら、人材を育成し、一つ一つの課題に取り組むことを通じて、究極的に目指すべき持続可能な社会を実現するための礎を築くという、理想に向かって進んで行きたいと思います。
今年11月21日には東京国際フォーラムで土木学会100周年記念式典を行うべく準備を進めています。会員はもとより一般市民の方にも興味ある式典として企画しています。この式典を始めとする100周年記念行事を通じて、土木の重要性と方向性を訴えていきたいと思います。どうか会員皆様の絶大なるご支援をよろしくお願いいたします。
Last Updated:2015/06/12