■ 就任ご挨拶
2017年6月9日
「土木を広く構えて深くなろう」
昨年も日本各地で地震や洪水など大きな自然災害が発生しました。被災地の早期復興を心より祈念申し上げます。世界を見ても、アメリカでは毎日のように全土で起こる自然災害を大きく報道していますし、ヨーロッパでも最近では洪水などが頻発しています。
偉大な自然の営みのなかで、人間の存在領域を確保するためのすべての「知的生産」が土木だと考えます。既往最大の災害にも十分に対応できていないのに、自然は凶暴化し災害は巨大化しています。さらにわが国では、土木が守るべき地域の人々の高齢化と壮年人口の減少が続き、災害への脆弱性が増大しています。
また、国土に働きかけて国土からの恵みを得る「作用」も土木が担っています。国土は働きかけの度合いに応じて、われわれに安全や効率という恵みを返してくれるのです。
われわれの先人たちも貧しい暮らしのなかで国土への働きかけを怠りませんでしたし、また、世界のどの国でも国土からの恵みを得るための努力を懸命に行っています。
さらに、土木は社会の基礎構造であるインフラを整備・管理する「方法」でもあります。インフラは人々の安全を確保するとともに、経済を成長させ経済競争力を向上させる最も有力な手段でもあります。
われわれのインフラ整備水準は、経済的に競合する先進他国に伍していくことができるレベルに達してはいないのですが、その「情報」は国民の常識とはなっていません。
土木は、いま危機にあります。
それは土木の「知的生産」、「作用」、「方法」、「情報」などが国民に届かなくなっているからです。インフラの整備は、ほとんどが公共による公共への奉仕であり、贈り物でもあります。ここに土木が哲学を必要とし哲学を語らなければならない理由があるのです。
インフラ投資はこの20年世界の先進国のなかで、「わが国だけが半減以下というレベルにまで削減」してきました。おまけに特筆すべきなのは、他の先進国はこの間、2倍、3倍と伸ばして来た国がほとんどだということなのです。このようなインフラ軽視は世界の歴史を見ても例がありません。結果として財政は改善せず、国民の貧困化が進みました。
土木のスコープを広げなければならないと主張するのは、この事情があるからでもあります。明治の始まりからでいえば、土木は近代日本の創造に大きく貢献してきました。先の土木学会100年の諸行事はその確認でもありました。
戦後の50年でいえば、戦災や敗戦時災害からの復興とその後の経済成長を支えた土木でありました。では、最近の20年の土木をわれわれはなんと形容すればいいのでしょう。
土木の意義と意味を国民と共有しなければなりません。ストック経済は経済学の関心事ではありません。ストックの効用の最大化に最大の関心をもつ土木が語らなければならないことは多いと知らなければならないのです。
土木は地域の人々などと対話し、土地を使い、土を切り盛りし、構造物を築き、環境を形成し、そして経済に効果を与えています。このプロセスとその学問的・方法論的深化のすべてが土木であります。
最後に、土木学会会員のすべての皆様とともに、確固とした土木の地平を拓いて参る決意を表明いたします。よろしくお願い申し上げます。
Last Updated:2017/06/09