■ 土木学会第106代会長 就任挨拶
2018年6月8日
「明治150周年を迎えて:この国の来し方行く末を考える」
奇しくも、今年は明治150周年にあたる。このような記念すべき年に、土木学会会長の重責を担うことに対して、身の引き締まる思いがします。 太平洋戦争を折り返し点と考えれば、前半の75年間、日本は近代化の道を突き進んだ。明治元年、日本は農業と商業しかない極東の小さな国だった。明治政府は、この国の近代化のために、国内の殖産興業を図り、鉄道・港湾などのインフラ整備を進めた。司馬遼太郎は「坂の上の雲」で、この時代の日本人の気質を「のぼってゆく坂の上の青い天にもし一朶の白い雲がかがやいているとすれば、それのみを見つめて坂をのぼってゆくであろう。」と書いた。この時代の明るさは、人々が社会や経済の急速な発展を昂揚しながら経験したことによる。
インフラはわれわれ世代だけでなく、これから生まれてくる子供たちの世代にも役に立つ。自分の消費ばかりを優先させる社会にインフラは蓄積されない。太平洋戦争により、多くのインフラが灰燼に帰した。しかし、日本人は敗者の卑屈や憎悪に堕するのではなく、自分たちの国は何を目標とし、何を理想として抱きしめるべきかを真剣に考えた。そこには、民主主義の実現とインフラの発展に対する力強い国民の合意があった。その結果、日本は驚異的な戦災復興と経済成長を成し遂げた。明治150周年の前半の75年がインフラのコア要素の整備期だと考えれば、後半の75年はインフラシステムの整備期だといっても過言ではない。
人生100 年時代と言われる。とはいえ1 日の長さが変化したわけではない。現代人の1日は極めて多忙になった。そのために、労働、家事、育児、介護、移動等の活動の合理化が必要となった。一方、レジャーや学習はアウトソーシングできない。ビッグデータ、AI、自動運転、リニアー新幹線、航空ネッワークの発展など技術革新の成果を活用し、時間利用の効率化が図られつつある。これらの技術が社会に浸透することにより、現代人は時間の制約を克服している。 IoT 技術は、多様なシステムを連携することにより、システムのシステム化を実現する潜在的な力を有している。これからの社会の進化は、インフラシステムのシステム化によって達成される。
土木技術者は「よりよき社会とは何なのか」、この途方もない難題に答えなければならない。よりよき社会の理念は、時代とともに変化するが変化しない部分がある。日本人は天与の自然条件を幸いとしつつ、きめ細やかな備えを物心ともに保ち、国内外の人とのつながりを無上のものとして着実に歩んできた。さらには、まちや自然の麗しさや佇まい、多くは背伸びをしない人々の暮らし方。人々が多様な価値観を持ち、さまざまなライフパターンをもちながらも、それぞれの人生を楽しんでいく。このような生きていくかたち、それはよりよき社会像をさながらにして世界に対して示しているのではないか。そう思う次第であります。
最後に、土木学会会員のすべての皆様とともに、「よりよき社会」にむかって新しい土木の地平を拓いて参る決意を表明いたします。よろしくお願い申し上げます。
Last Updated:2018/06/08