■ 土木学会第109代会長 会長就任挨拶
2021年6月11日
「コロナ後の日本創生と土木のビッグピクチャー〜開かれた魅力溢れる土木学会へ〜」
第109代土木学会会長の谷口博昭です。宜しくお願いします。
先人の事業を受け継ぎ発展させながら未来を切り開くという「継往開来」の精神で、これまでの諸先輩の成果並びにJSCE2020や各調査委員会等現下の幅広い諸活動を踏まえつつ、大きな時代の変化に適応することが肝要と考えます。「開かれた魅力溢れる土木学会」を目指し、内外の幅広い交流・交際の促進に努め、産学官が忌憚なく情報・意見交換を行い、英知を結集しエビデンスに基づくタイムリーな提言として「コロナ後の日本創生と土木のビッグピクチャー」を取り纏めたいと想います。
21世紀に入って20年半が経過する今日、我が国は「失われた30年」と称される停滞、閉塞状態にあります。毎年の如く豪雨や地震等による災害が発生、昨年は新型コロナウイルス感染症がパンデミックとなり未だ収束への道は定かでなく、国家的危機です。感染拡大の早期収束が急務ですが、少子高齢化・人口減少、グローバル化やIT(情報技術)の進展、気候変動やエネルギー問題の深刻化等時代が大きく変化する中で、コロナ後の我が国の暮らしや経済社会活動、そしてそれを支えるインフラ、土木事業や土木技術はどうあるべきか、どう対応すべきかが問われます。斯様な閉塞状態、危機をブレイクするには、これまでの延長上でなく、暮らし方・働き方、政治・経済制度やインフラの在り方を転換することが求められます。
イギリスは、地域格差の是正などのため「国家インフラ戦略(National Infrastructure Strategy)〜より公正に、より速く、より環境に優しく(Fairer、faster、greener)〜」を昨年11月に発表。アメリカのバイデン大統領は、新しい雇用、経済を再構築し台頭顕著な中国との競争に拮抗し得るため、これまでのインフラ削減をチェンジし、多様で広範なインフラに8年間で約2兆ドルを投資する "The American Jobs Plan" を本年3月末に発表しました。我が国も、「コロナ後の日本創生、持続的発展」を目指しグローバルな競争に拮抗するため、削減し続けてきたインフラ投資に対する考え方をチェンジする時です。
インフラの計画的・効率的且つ事前的・先行的な整備・保全のためには、文明的・文化的・国際的な視点に立った国民が信頼し得るレベルの全体俯瞰図、「ビッグピクチャー」が必要不可欠です。嘗ては具体的な数値が盛り込まれた長期計画が策定されましたが、現在策定される長期計画では新規の事業や具体的な投資額は盛り込まれていません。具体的な事業や数値がないと議論が進化せず、事業やプロジェクトの優先順位も付け難く、エビデンスに基づく意思決定と力強い行動が叶いません。アメリカでは一人で出来なくて皆で力を合わせてやるときに「ビッグピクチャー」が必要といい、MBAでも「ビッグピクチャー」が必要と強調されます。
インフラ整備・保全も計画・設計から施工、維持管理・更新に至るまでの各プロセスにおいて、工事請負や業務委託、PPP(公民連携)等分業化が進み立場の異なる多くの人が関与するが故に、将来の姿が見通せないと夫々の立場での事業展開や経営の見通しも立て難い時代です。各人の想い、立場で勝手に絵を描いても大きな力を発揮することは困難であり、"絵にかいた餅"になりかねません。
ビッグピクチャー策定に当たっては、「開かれた学会」として広く国民の声を受け止め反映したいと想います。3年前にインターネットを通じた社会資本に関する約3千名の意識調査を(一財)国土技術研究センター(JICE)で実施しましたので、その後のコロナ感染や豪雨災害を踏まえた社会資本に関する意識調査を、JICEと連携して5月連休中に実施しました。また、noteサイトを活用し若者を中心に国民が期待する暮らしやまちについて意見募集を実施します。土木学会各支部においては、これまでの取り組みを踏まえつつ支部ブロックの将来の絵姿や希望が持てるプロジェクト等について土木関係者等の意見を募り支部ブロックの「ビッグピクチャー」をまとめて戴くことを期待します。
併せて、インフラに関する過去の長期計画の推移と投資額に関する調査を実施し、幾つかのケースを検討し然るべき投資額を提示したいと想います。額ありきでなく、防災、減災等国土強靭化と維持管理・更新に加え交流・連携を促進する陸海空交通網や情報通信網並びに海外展開に資するプロジェクト等未来に夢や希望の持てるプロジェクトを盛り込んだ然るべき投資額です。
ここに行政と異なる産学官の集合体である土木学会ならではの特色を活かした「ビッグピクチャー」の策定が肝要です。多様な価値観の時代ですが、初めに絵姿・答えありきでなく、行政任せでなく他人任せでなく主体的に各自の絵姿、想いを語り合い、切磋琢磨するプロセスを経ることによって、時代に合致したストーリーやナラティブ、そして夢・希望の持てるプロジェクトが浮かび上がって来ること、そして最終的な絵姿として「ビッグピクチャー」(全体俯瞰図)を見出し、策定出来ることを期待しています。
結びに、技術はシステムであり、人の信頼し得るネットワークが肝要であり、現場こそが価値を創造する最先端です。O(お前が)K(来て)Y(やってみろ)のOKYの現場に落ち込まない様に現場とのコミュニケーションの向上が求められます。併せて、若者と女性の意見を受け止める場と参加の機会を増やすことが肝要です。参加してみてメリットを感じて、土木学会のため汗をかいてみよう、知恵を出してみようという若者と女性の出現を期待するプル型の運営に心がけたいと想います。そして、若者が意欲をもって入会、入職し定着する「魅力溢れる土木学会、引いては土木界」にするためには、新3K(給与、休暇、希望)に基づく然るべき処遇改善が欠かせません。IT(情報技術)、DX(デジタルトランスフォーメーション)時代に相応しい土木技術者のあるべき姿と然るべき評価について、受発注者の立場を超え産学官の集合体である土木学会ならではのオープンで忌憚のない意見交換等を踏まえ土木技術者の社会的地位向上に資する然るべき提案を出来ればと想います。
以上、これまでの経験を活かしアジャイルなマネジメントに心掛け任務を全うしたいと想います。皆様方の温かく力強いご協力、ご支援をお願いします。
Last Updated:2021/06/11