■ 土木学会第110代会長 会長就任挨拶
2022年6月10日
―土木学会の特徴と土木グローバル化への対応―
歴史のある土木学会で第110代会長に選任され,その重責を感じている.新型コロナによるパンデミックとウクライナ問題という世紀的な事態の中で土木学会の舵取り役を担うことになった.このような世界的な課題解決に土木は関わりを持たずには済まない.パンデミックにより始まった生活・労働環境のニューノーマルに適したインフラの提供,ウクライナ問題後のインフラの復興などまさに土木の役割である.この意味では土木学会としても注視し,必要に応じて社会に情報発信していかなくてはならない.
土木学会は国内外の視点からユニークな存在である.国内的には日本工学会から分離独立を最後までせず支えた学会である.日本で最初の工学系学術団体である日本工学会の創立時分野の一つである土木は,やはり創立時の分野である建築,電気,機械などが日本建築学会,電気学会,日本機械学会と日本工学会から分離独立して行った中,最後まで日本工学会に残った.これは土木分野が元々工学全体を網羅するような存在であることと無関係ではないであろう.他方,国際的には産官学の技術者が集い技術活動を行なっている数少ない土木系学術団体である.私が訪れた国々では土木学会が存在していなかったり,あっても活動が活発でなかったりする事実が見られる.米国や英国では土木学会が存在するが日本の土木学会ほど多くの委員会による活発な技術活動は見られない.中国やベトナムも土木学会は存在するが実質的には専門分野に分化して個別に活動がなされている.日本の土木学会に近いのは韓国の土木学会くらいではないであろうか.つまり,土木という産官学にまたがる総合的な分野の諸課題に対応することができる世界的に希少な組織ということに気がつく.学会員の皆さんには,この特徴を活かして国内外の課題に向けて土木技術者あるいは土木に関心がある者として可能な貢献をするために土木学会を活用していただければ幸いである.
現在の日本の土木の状況は決して好ましいものではない.建設市場が長期的に縮小傾向にあり,研究分野としての土木工学が他の分野と比較して必要性が小さいと見られている.その原因はいくつか考えられるが,従来語られてこなかった点として,日本の土木の実力が海外の主要国と比較して劣っていることにもあると考えられる.家田前々会長の下「日本のインフラの体力診断」を行い,日本のインフラの機能が海外と比較して高いものではないことを道路,河川,港湾の部門で明らかにした.谷口前会長の下では「土木のビッグピクチャー」によって,国民の視点に基づきながらWell-beingの向上に貢献するインフラの将来像を示した.私の会長プロジェクトとしては,インフラを支える土木人材に視点をおき,特に海外との比較を通して研究者と技術者に日本の今の実力を把握してもらい,女性・外国人を含む若手を中心に自分たちで議論するプラットフォームを提供し,今後グローバルな人類共通課題を解決できる人材として育つことができる道筋を作る.さらに,これらの人材が活躍できる場を提供するために,海外でのプロジェクトの好事例との比較を通して,海外が受け入れてくれる魅力的な土木プロジェクトの創成を具現し,日本の土木の海外での貢献増大を目指す.
最後に,土木と同様に国内外での地位の地盤低下が見られる建築と協働して,日本の建設分野のあるべき姿を目指すために,2021年に両学会長名で交わされた覚書に基づいて日本建築学会と土木学会との協働の仕組みを開始させたこともお伝えする.この協働はグローバルな課題への対応にも重要と考えている.
この1年間,新たな視点も加えて社会へさらに貢献する土木学会となるよう尽力する所存である.そのために,学会誌などの刊行物に加え,ホームページやソーシャルメディアといったインターネットに力点を置いて情報発信を行っていく.みなさんのご理解とご協力をお願いするとともに,ご意見などを土木学会 令和4年度会長特別委員会「多門に多聞&多問」に寄せていただければ幸いである.
Last Updated:2022/06/13