■ 年頭の挨拶
2024年1月5日
新年を迎え年頭のご挨拶を申し上げます
昨年の5月に新型コロナウイルス感染症の位置付けが5類感染症に移行し、これまで自粛されていたイベントの復活、国内外への旅行者やインバウンドの増加により日本社会は以前の活気を取り戻しつつあります。日経平均株価も6月には約33年振りに3万3,000円台に回復、今年も景気は緩やかに回復し、実質GDP成長率も物価高のマイナス要因は抱えつつもプラス成長を達成することが見込まれています。
土木学会の重要な役割のひとつにインフラの継続的整備がありますが、近年の地球温暖化に伴う気候変動の影響は風水害の頻発化・激甚化という形で社会生活を脅かしており、加えて近い将来発生が懸念されている南海トラフ地震や首都圏直下型地震対策を考慮すると、社会のレジリエンス向上への対応が土木学会の大きな責務となっております。
また、脱炭素社会の実現は世界的な課題であり、建設システム全体でのCO2排出削減が求められる中、風力発電等の再生可能エネルギーの導入拡大に資する技術開発や、安全なクリーンエネルギーとしての水力発電の見直しに伴うダム再生事業など土木の関係する領域は益々増大しています。
少子高齢化による日本の国力低下を防ぐためには、新技術の導入や生産性の向上が必要となりますが、陸海空の交通ネットワークの充実によるモビリティの向上も重要な課題です。生産性の低下を招く都市圏における交通渋滞を解消し、また、過疎地でのモビリティの欠落による生活の質の低下を防止して人々のウェルビーイングを実現することが重要です。
土木学会としては我が国が直面しているこれらの課題解決のために、産官学の英知を結集するとともに建築学会との連携や地方自治体との連携を図り、学会としての責務を果たしてまいります。
私の土木学会会長としての特別プロジェクトは「土木の魅力向上プロジェクト」ですが、土木の魅力とその役割を土木技術者自身が自分の言葉で土木の内外に発信し、土木の姿を社会から正しく理解していただくことを通してこの重要な使命を担う土木のステイタスを向上させ、土木の担い手を確保することを目標とするものです。土木に関わる全ての方が活き活きと楽しく仕事をし、上記の課題解決に向けて活躍してほしいものだと願っています。
私が土木学会会員の皆さんに常に申し上げていることは、「イノベーション(変革)を起こし未来を創造してほしい」ということです。従来の考え方や方法に固執せず、自由な発想で旧弊を打破し新たな価値を生み出して未来の創造に繋げてほしいと思います。そのための有効なツールのひとつにデジタル技術があり、今まさにデジタルで土木(建設)が変わりつつあります。この変化は建設の世界にとどまらず、我々の社会生活にも変革の波が押し寄せています。
昨年から世界的に注目を浴びているAIですが、これまで気象予測や自動運転システム、将棋や囲碁など特定の領域で使われてきましたが、今日では日常生活や企業活動など幅広い分野で利用されることが期待されています。身近な我々の社会生活においてもAIの活用でイノベーションが起きつつあるのです。
変革とはまさに捨てるべきものは聖域を設けずに捨て去り環境の変化に対応することであり、更には変化を先取りしてゆく行為です。成長が停滞している日本の再生のためにはイノベーションが必要なのではないでしょうか。土木学会としてもその広範に亘る技術とマネジメント力を活かし、「イノベーションで未来を創造する」ことに注力していきたいと考えます。
今年が世界にとって、また、皆さん方とそのご家族にとって幸多き良い年となりますことを祈念して私の年頭のご挨拶とさせていただきます。