東海豪雨災害 土木学会調査団台風21・22号 土木学会調査団

第2回視察(平成16年11月12日実施)報告

 

視察参加者: 計6名

  名古屋大学工学研究科社会基盤工学専攻 教 授   辻本 哲郎(団長)

  名古屋大学環境学研究科社会環境学専攻 教 授   海津 正倫

  岐阜大学流域圏科学研究センター    教 授   藤田裕一郎

 京都大学防災研究所          助教授   藤田 正治

 パシフィックコンサルタンツ中部本社  技術主任  渡辺 治久

  名古屋大学工学研究科社会基盤工学専攻 講 師   鷲見 哲也

 

 

視察の概要

   本合同調査においては,台風22号(20041089日)による豪雨災害について,

静岡県の狩野川水系における水害および土砂災害の現場を視察した.

本豪雨災害は,基準地点大仁において昭和339月の台風22号(狩野川台風)に次ぐ大規模なものであり,昭和40年の狩野川放水路完成後では最大の洪水であった。

現地の案内は主に建設省中部地方整備局沼津河川国道事務所所長をはじめとする同整備局関係者に案内をお願いし,静岡県土木部関係者には現地にて,災害の概況及び当時の状況を含め,情報提供いただいた.ここに深く謝意を表す.

 

 

行 程

  1.狩野川 右岸4.6k 本川の溢水(沼津市)

  2.狩野川 右岸16.0k 内水被害 (韮山町,四日町地区) 

  3.狩野川 右岸20.0k付近 兼用道路の亀裂対策・内水被害 (韮山町南条地区・大仁町宗光寺地区) 

  4.狩野川 左岸21.4k 内水被害 (伊豆長岡町小坂地区) 

  5.修善寺川 右岸16.0k 内水被害 (伊豆市) 

  4.唐沢 土砂災害(伊豆市,月ヶ瀬地区)

  5.小鳥 土砂災害(伊豆市,下船原地区)

  6.狩野川 右岸2.2k 本川の未整備箇所(沼津市)

 

 

災害の概況

  平成16109日伊豆半島に上陸した台風22号とこれに伴い活発化した秋雨前線により,東海地方から関東南部にかけて,総雨量が300mmから400mmの大雨となった.また,台風による強風も顕著であり,伊豆半島の石廊崎(南伊豆市)では最大瞬間風速67.6m/s,網代(熱海市)では最大瞬間風速63.3m/sを記録し,それぞれ観測開始以来の極値を更新した.

特に静岡県内については伊豆市の八幡観測所(国土交通省)では最大時間雨量72mm,累積雨量390mmを記録し,達磨山観測所(国土交通省)でも累積雨量390mmを記録した.

   そのため,県内の河川では軒並み水防警報が発令され,国土交通省直轄の狩野川では917時に大仁観測点,同日19時に徳倉観測点において危険水位を超えた.

狩野川本川および支川の沿川において,無堤区間での氾濫や,本川の水位上昇に伴う排水不良が相次ぎ,深刻な内水被害をもたらした.また,上流の山地においては,法面の表層崩れ等の土砂災害が多数発生し,死者1名の被害を生じた.

   108日から10日にかけての豪雨による静岡県内の被害の状況は人的被害として死者1名,家屋全壊1棟,家屋一部損壊1棟,床上浸水228戸,床下浸水376戸,浸水面積約440haであった.

 

 

  1.狩野川 4.6k右岸 本川の溢水(沼津市)

   狩野川本川4.6km右岸での溢水による浸水被害について,沼津河川国道事務所より説明を受けた.右岸側のこの区間は無堤区間となっており,支川の沿川が本川水位の上昇により冠水した.最も低い所で約0.5mの冠水が1日続いた.この区間は江戸時代からの共有地であり,築堤に向けて現在約500人の地権者を確認中である.しかし,築堤すれば内水被害を助長する恐れが残る.

 

現地で説明を受ける調査団

      4.6k右岸無堤区間(沼津市大岡地区)

4.6k右岸の支川沿川の状況(沼津市大岡地区)

 

  2.狩野川 16.0k右岸 内水被害 (韮山町,四日町地区) 

 

   車中より国土交通省沼津河川国道事務所の説明を受けながら,狩野川16.0k右岸での内水被害箇所を視察した.

   狩野川本川の水位上昇に伴って,沿川の四日町地区から本川への排水が既設の四日町排水機場では処理しきれず内水氾濫が発生した.この内水氾濫により,伊豆半島の幹線である国道136号が通行止めとなった他,床上浸水2戸,床下浸水8戸の浸水被害が生じた.

 

堤防道路上より視察

10/9時点の浸水状況【写真:国土交通省】

 

 

 3.狩野川 20.0k右岸付近 兼用道路の亀裂対策・内水被害 (南条・宗光寺地区) 

 

  狩野川本川19.6km右岸での兼用道路の路面の亀裂対策と宗光寺地区の内水被害と対策について,沼津河川国道事務所より説明を受けた.

被災状況

(1)兼用道路の亀裂対策

右岸側のこの区間の堤防は兼用道路(国道136号)となっており,台風通過後の1019日に路面上に3cm程度の亀裂が発見された.これに対し,道路管理者である静岡県が,101923日に道路を前面通行止めとし,止水セメントで亀裂からの雨水浸透防止対策を実施した.また,河川管理者である国土交通省が,護岸前面に1t土嚢(665袋)と備蓄ブロック(15t314個)を据付けた.

2329日に片側交互通行として状況を見守り,変状がないため全面開放となった.今後は,亀裂の変動状況を調査するとともに有識者および国土総合技術研究所の助言をもとに関係機関と恒久対策を検討する.

(2)宗光寺地区の内水被害と対策

狩野川本川の水位上昇に伴って,沿川の大仁町の宗光寺地区から本川への排水が既設の宗光寺排水機場では処理しきれず内水氾濫が発生した.この内水氾濫により,伊豆半島の幹線である国道136号や伊豆箱根鉄道といった伊豆半島の幹線交通が通行止めとなった他,床上浸水25戸,床下浸水15戸の浸水被害が生じ,最も低い所で約1mの冠水となった.

 

説明を受ける調査団

本川右岸側兼用道路の亀裂対策状況

 

 

  4.狩野川 21.4k左岸 内水被害 (小坂地区) 

  車中より国土交通省沼津河川国道事務所の説明を受けながら,狩野川21.4k左岸での内水被害箇所を視察した. 堤防にポンプ排水口が据え付けられている。

被災概要

狩野川本川の水位上昇に伴って,沿川の伊豆長岡町の小坂地区から本川への排水が既設の小坂排水機場では処理しきれず内水氾濫が発生した.この内水氾濫により住宅街が浸水し,床上浸水58戸,床下浸水27戸の浸水被害が生じ,最も低い所で2m以上の冠水となった.

 

小坂地区の内水ポンプ

 

 


  5.修善寺川 溢水被害(伊豆市) 

  狩野川上流域の支川修善寺川沿川の温泉街での溢水による浸水被害について,静岡県土木部関係者より説明を受けた.

伊豆市の湯ヶ島観測所(国土交通省)では最大時間雨量63mm,累積雨量345mmを記録し,達磨山観測所(国土交通省)では最大時間雨量53mm,累積雨量390mmを記録した.

この出水により修善寺川沿川の温泉街付近では,掘り込み河道から溢水し,112日時点で床上浸水33戸,床下浸水62戸の被害が発生した.また,上流からの流木により橋の欄干が破損した他,高水敷上に設置されていた観光用の小屋が流出した.

 

説明を受ける調査団

説明資料

流木により破損した欄干

被災状況を視察中の調査団

流出した河川敷の観光小屋

 

 

  4.唐沢 土砂災害(伊豆市,月ヶ瀬地区)

  狩野川本川上流・唐沢地先における山腹崩壊・表層崩れ・風倒木について,沼津河川国道事務所より説明を受けた.

 

  平成16109日伊豆半島に上陸した台風22号とこれに伴い活発化した秋雨前線により,東海地方から関東南部にかけて,総雨量が300mmから400mmの大雨となった.また,台風による強風も顕著であり,伊豆半島の石廊崎(南伊豆市)では最大瞬間風速67.6m/s,網代(熱海市)では最大瞬間風速63.3m/sを記録し,それぞれ観測開始以来の極値を更新した.

狩野川流域上流の伊豆市月ヶ瀬(唐沢)地先において,幅50m,高さ80mにわたって法面表層崩れが生じた.

 台風時に強風が川沿いに北からのみ吹き寄せたことによって倒木および法崩れが生じたと推定される.被災したのは主に北側の斜面にあった植林であり,流出土砂が少なく,流木が多い傾向がある.被災した植林は間伐されておらず植林後40年を経た樹木にしては育ちの悪い傾向にあったと推定される.

 

説明を受ける調査団1

法面崩壊と風倒木の状況

説明を受ける調査団2

 

 

 

  5.小鳥 土砂災害(伊豆市,下船原地区)

 狩野川本川上流・小鳥地先における山腹崩壊・表層崩れ・風倒木について,沼津河川国道事務所より説明を受けた.

 

台風による強風により伊豆市の下船原(小鳥)地先の小鳥沢第1砂防堰堤付近において,幅80m,高さ20mにわたり法面表層崩れが発生した.

唐沢と同様に,台風時に強風が川沿いに北からのみ吹き寄せたことによって倒木および法崩れが生じたと推定される.被災したのは主に北側の斜面にあった植林であり,流出土砂が少なく,流木が多い傾向がある.

 

表層崩れと沢沿いの風倒木の状況

 

 

 

砂防堰堤上流の沢にたまった風倒木

表層崩れした部分との境界部分

 

 

 


  6.狩野川 2.2k右岸 本川の未整備箇所(沼津市)

 狩野川本川2.2km右岸での未整備箇所について,沼津河川国道事務所より説明を受けた.右岸側のこの区間は元は船着場として利用されてきた場所であり,敷高が低いため中小出水時でも冠水する場所となっている.現在は市街地の再開発にあわせて河岸整備が進められており,整備済みの区間は階段護岸が整備され,市民が親水利用しやすい区間となっている.

 

整備済みの階段護岸付近で説明を受ける調査団

市街地再開発に合わせて整備済みの階段護岸

説明を受ける調査団

狩野川右岸側の元船着場の様子

 

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