■ 社会資本と土木技術に関する2000年仙台宣言−土木技術者の決意−
社会資本は人びとの安全を守り,生活を豊かにする基盤である.土木技術は,有史以来今日に至るまで,社会資本の整備を通じて経済・社会・国民生活の向上に貢献してきた.戦後わが国が世界に例を見ない速度で社会資本を整備してきたこと,脆弱な国土条件の克服に努めてきたこと,現場を始めとする多くの技術者が社会に貢献し,住民の理解を得るために懸命の努力を続けてきたことは,われわれの大きな誇りである.
しかし,技術領域の拡大と多様化とともに,土木技術が自然および社会に与える影響もまた複雑化し,増大している.その中で,社会資本整備の歴史的・社会的意義に対する客観的理解を必ずしも十分得るに至らなかったことや,社会の要請にこたえていないとの批判を受けていることも事実である.
土木事業を担う技術者,土木工学に関わる研究者によって構成される土木学会は,その崇高なる社会的使命と職責の重大さを認識し,わが国の工学系学会として初の倫理規定を「土木技術者の信条および実践要綱」として1938年3月に発表した.これは,自然と社会との調和を図る技術を行使する土木技術者は広い識見と高潔な姿勢を保つべしとの自負心の発露であった.
さらに,土木学会は1999年5月に上記「信条および実践要綱」を改定し,土木技術者が職業上の責務を遂行するにあたって自らを律する姿勢を「土木技術者の倫理規定」として制定した.ここでは,第4項に「自己の属する組織にとらわれることなく,専門的知識,技術,経験を踏まえ,総合的見地から土木事業を遂行する」との矜持を示し,第14項に,土木技術者は「自己の業務についてその意義と役割を積極的に説明し,それへの批判に誠実に対応する」と謳っている.
本宣言は,社会資本の整備のあり方を根本的に問い直すことが今求められているとの認識にたち,上記規定を具現化するものとして,多様な歴史認識と価値観を尊重しつつ,我々土木技術者の思い描く社会資本の整備の意義,理念と,その実現のための方策に関する基本的見解を社会に対して表明するものである.
土木技術者は,
(社会資本の整備の意義)
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「美しい国土」,「安全にして安心できる生活」,「豊かな社会」をつくり,はぐくむために社会資本を建設し,維持・管理,活用する.
(理念−1. 自然との調和,持続可能な発展) -
自然を尊重し,現在のみならず将来世代の安全,福祉,健康を増進することを最優先し,人類の持続的発展を目指して自然・地球環境の保全と活用の調和を図る.
(理念−2. 地域の主体性の尊重) -
画一的な整備方針ではなく,地域の主体性を尊重し,個性ある自律的な地域社会の形成に寄与する.
(理念−3. 歴史的遺産,伝統の尊重) -
歴史的遺産,地域固有の文化・風土,伝統を尊重するとともに,新たな文化・文明の創造に努める.
(方策−1. 社会との対話,説明責任の遂行) -
社会資本の整備にあたっては,専門家として負託された目的を認識し,社会の合意形成のために,その必要性を具体的に説明するなど,積極的な対話に努める.
(方策−2. ビジョン・計画の明確化) -
国土づくり,地域づくりの中長期的ビジョンを掲げ,そこへの道筋を明快に示す社会資本の整備の計画を積極的に提案する.
(方策−3. 時間管理概念の導入) -
事業の実施にあたっては,費用削減努力に加え,計画から運用までの全ての段階において,事業の遅延がもたらす機会損失や時間短縮による社会的便益を勘案した時間管理概念を導入する.
(方策−4. 公正な評価と競争) -
学際的・国際的に競争力ある技術ならびに人材の開発・育成,技術者資格制度の充実,技術・技能・知的創造の正当な評価のもとでの個人および組織の競争選抜の促進に努める.
(方策−5. 社会資本整備のための技術開発) - 自ら切磋琢磨し,技術,技能の不断の向上に努める.とりわけ,効率的で環境と調和した社会資本の整備のために,プロジェクトマネジメント能力の向上や,コスト縮減,リサイクルなどの新技術ならびに国際貢献に資する技術の開発に努力を傾注する.
- 本趣旨を踏まえ,社会資本の整備に関する諸制度の改善に向けての提案,土木技術者の能力向上の支援を積極的に行う.
(2000年11月22日 理事会承認)
本宣言の趣旨と解説については,それぞれ,土木学会誌2000年9月号,pp.6-8,pp.11-14を参照。また,2000年9月22日開催の特別討論会「社会資本と土木技術に関する2000年仙台宣言(案)―土木技術者の決意―」に関していただいたご意見とそれに関する企画委員会の見解については,土木学会誌2001年1月号,pp. 15-18を参照。